黒夜行

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切りとれ、あの祈る手を <本>と<革命>をめぐる五つの夜話(佐々木中)

内容に入ろうと思います。
思いますが、この作品については、内容紹介が出来るほど僕はちゃんと読めてはいないのであります。
難しかったなぁ。
本書は、まさに副題の通り、<本>と<革命>の話です。作中から、まさに本書の結論だろうと思われる部分だけ抜き出してみましょうか。

『よろしいですか。テクストを、本を、読み、読み変え、書き、書き変え―そしておそらくは語り、歌い、踊ること。これが革命の根源であるとすれば、どういうことになるか。どうしてもこうなります。―文学こそが革命の根源である、と。』

大雑把に言って、こういう流れになります。まず、本を読むとはどういうことなのか、について論じる。そしてその後、歴史上起こった革命の内二つ、16世紀のルターに端を発する「大革命」と、12世紀のすべての革命の包含するほどの、しかし多くの人にそう重大な革命だとは認識されていない「中世解釈者革命」の二つについて論じている、という流れです。
内容について僕が書けるのは、ホントこれぐらいなもんです。ここまで書いたことだけでも、何か間違いがあるかもしれませんが。
この本は、ずっと気になってたんです。でも、絶対僕には読めないと思っていた。本書は、ジャンルで言えば思想の本なんだと思うんだけど(たぶん)、難しい本は読めない僕には、きっとハードルが高い本だろうなぁ、って思ってたわけです。
でも、やっぱりみんなが絶賛するんで、よっしゃそれなら読んでみっか、と思ったのでした。やはり予想通り、僕には手強い作品だったんですけど。
でも、予想よりは読めました。予想では、もっと絶望的に読めないかな、と思ってたんですけど、文章が理解出来る部分もあってよかったなぁ、と。著者へのインタビューを原稿に起こした、というような、話し言葉で綴られている作品なんですが、それがまだ読みやすさを醸し出しているのかな、という感じがしました。
人にあれこれ説明できるほど内容を理解できたわけではないんですけど、扱われている話のところどころ(理解できた部分、ということですが)はホント面白いと思いました。特に、<革命>というと暴力が連想されるけど、<革命>の本質はテクストの書き変え、つまり文学にこそあるのだ、という話は、色んな例を出して言及していて、なるほどなぁ、と思わされました。
本書で特にページを割いて扱われている「大革命」と「中世解釈者革命」の二つの革命の話は、理解出来ない部分が多かったとはいえ、本当に面白かったです。そもそも僕は歴史や文学の知識がほぼゼロに近いんで、本書で描かれる出来事や人のことをほぼ知らないし、それぞれの出来事や人が一般的にどれだけ知名度があるのかもよくわからないから、そういう知識のある人から比べると新鮮な驚きみたいなものは薄いのかもしれないけど、それでも面白いなと思いました。
「大革命」の方は、ルターさんが色々頑張る革命なんだけど(そうやってまとめていいのか 笑)、ルターさんすげーなー、と思いましたよ。どう凄いのかは僕の理解度では説明できないんだけど、ルターさんはんぱねぇっす。
「中世解釈者革命」の方は、本書での扱われ方的に、一般的には知名度が低い革命なんだろうなぁ、と思うんだけど、それ以後のありとあらゆることを決定づけたすげー革命なんじゃん!とか思いました。地味ですけどね。革命、と呼ぶにはあまりにも地味。でもその「中世解釈者革命」について語ることが、革命の本質を、そして何よりも文学の本質を語ることになるわけで、この著者すげーとか思いました(あー、すげー頭悪そうな感想だなぁ)。
最後の章で、『「文学は終わった」とか言っちゃってる人間ってなんなわけ?』みたいな話が出てくるんだけど、識字率をベースにした話はなかなか刺激的でした。ドストエフスキーが「罪と罰」を書いてた時代のロシアは、9割の人が全文盲だったんだそう。全文盲ってのは、自分の名前さえ書けない、ってレベルだから、残りの1割の人だって本が読める人たちってわけじゃない。そういう中で、「罪と罰」を書く。識字率が9割を余裕で超える今の日本とは比べ物にならないほどの絶望的な状況です。その中で、ドストエフスキーは賭けに勝った。生き残った。それなのに今、「文学は終わった」とか言ってる人はなんなの?って議論は面白かったなぁ。
一番初めの章は、本を読むということや文学とは何かというような話なんだけど、ここには僕の琴線に触れる文章がたくさん出てきて素敵だったので(後の方の章は、僕には難しい文章が多くて、ついていくのもおぼつかない状態だったんで、琴線に触れるもなにもという感じ)、色々抜き出してみます。

『こうした環境で何が鍛えられるか。「すべて」のものについてちょっとは気の利いた一言を差し挟むことができる技術、です。上目遣いの目配りの良さだけをひたすらに磨いている。少なくとも私にはそういうふうに見えた。これは縮小再生産の場所であるとしか思えなかった。何かとてもみな嬉々として衰弱しているように見えた。燥ぎながら深く何か不安に濡れているように見えた。とても心から世界を愉しんでいるようには見えなかった。』

『それによってメタレヴェルに立ち、自らの優位性を示そうとすること。これが思想や批評と呼ばれていたし、今でも呼ばれている。そこでは誰もが「すべて」について「すべて」を語れるようになりたいと思っているかのようである。』

『情報を集めるということは、命令を集めるということです。いつもいつも気を張り詰めて、命令に耳を澄ましているということです。具体的な誰かの手下に、あるいはメディアの匿名性の下に隠れた誰でもない誰かの手下に嬉々として成り下がることです。素晴らしいですね。命令に従ってさえいれば、自分が正しいと思い込める訳ですから、自分は間違っていないと思い込める訳ですから。』

『古井さんは続けてもうひとつ、こちらとしてはもう恐れ入ってしまう様な事を仰っていて、要するに読んでいてちっとも頭に入らなくて「なんとなく嫌な感じ」がするということこそが「読書の醍醐味」であって、読んでいて感銘を受けてもすぐ忘れてしまうのは、「自然な自己防衛」だと言うんです。だから読み終えると忘れてしまうし、ゆえに繰り返し読むのだ、とね。』

『読んでいて全然わからない、頭に入らない、退屈でなんだか嫌な感じがする、というと、みんな何か自分の能力が劣っていると言われているような気がして怒り出したりするんですね。(中略)他人が書いたものなんか読めるわけがない。読めっちゃったら気が狂ってしまうよ。』

『自分の無意識にふっと触れてくる、そのさやかな兆しのみを縁にして選んだ本を繰り返し読むしかない。往々にして大量に本を読んで、その読書量を誇っているような人は、実は同じことが書いてある本をたくさん読まされていることに気づいていない。つまり自分は知を搾取しているつもりで、実は搾取されている側にいることに気づけない。読んだ本の数を数えている時点でもうお終いです。情報として読むなら良いのでしょうが、それが果たして「読む」という名に値する行為か。そうして情報に還元されたものしか相手にしていないから、それを正面切って受けとることもしないで済むのです。』

僕は難しい本が全然読めない残念な人なんですが、国語の授業とか好きだった人は読めるんじゃないかなぁ、とか思ったり。こういうのって、知識がないから論理が追えないのか、論理が追えないから知識を必要とするのかよく分かりませんけど、なんというか、こういう本をちゃんと読める人になりたいものです(まあ本書では、ちゃんと読めてしまったら気が狂ってしまう、って書いてあるんですけどね)。評判は凄くいいですし、僕もそれなりに理解できた部分については凄く楽しめた作品です。

佐々木中「切りとれ、あの祈る手を <本>と<革命>をめぐる五つの夜話」




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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)