黒夜行

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真贋(吉本隆明)

内容に入ろうと思います。
本書は、ざっくり説明すると、吉本隆明が書く生き方本、という感じではないかと思います。
吉本隆明が触れる話題は、かなり多岐に渡ります。言ってしまえば、僕はちょっと散漫な印象を受けました。こういう世の中になったという話、自分の仕事や生き方について、政治経済宗教などの話、子育てや育ちの話、などなど、なんというか、思いついたことを書いている、という感じの印象でした。
個人的には、ちょっとぼんやりした感じの作品だなぁ、と思ってしまいました。ちょっと僕の考え方にはうまく合わないぞ、という感じがしました。
この印象は、僕の中で、確固とした比較対象が存在します。それが、森博嗣です。
森博嗣は大学の助教授でかつミステリ作家、吉本隆明が何者なのか僕は正確に知りませんが、批評家とか詩人なんでしょう。著作業をしている、という以外に共通項を見出しにくい二人ですが、僕の中で本書を読んでいる間、常に森博嗣のことが頭に浮かびました。
僕は吉本隆明の作品は、本書しか読んでいません。他にどんなことを書いているのか、どんな思想の持ち主なのか、というようなことは基本的に知りません。だから僕の中で吉本隆明は、『真贋』という生き方本を書いた人、という扱いで今後書きます。
森博嗣の場合は、集英社新書から出ている「自分探しと楽しさについて」「自由を作る自在に生きる」などの、森博嗣本人はそんな風に表現されたくないでしょうが、同じく生き方本を書いた人、という扱いでいきます。
僕の中で森博嗣の生き方本は、非常に鋭い印象です。森博嗣は物事を、あまり一般的ではない切り口から両断します。そしてそれを、結構断言する感じで書く。「~と思う」というような表現ももちろん出てくるんだけど、少なくとも僕の印象では、森博嗣がそういう表現をする場合は、森博嗣自身がそれに興味を抱いていない事柄に関してではないか、と思います。基本的に自分の考えをスパッと提示し、そしてそれが僕の考え方と非常に親和性が高かったりするのです。だから森博嗣の生き方本は僕の内側にスーっと染みこんできます。
一方で本書は、森博嗣と比べてしまうと非常にファジーです。そもそも、「~だと思います」「~という気がします」という表現が結構出てきます。確かに本書は、『吉本隆明がそう思ったこと』について書かれている作品なので、「思う」とか「気がする」という表現が結構出てきたところで文句を言うようなことではないのかもしれないのだけど、やっぱりちょっと気になってしまいました。
しかもその「思う」「気がする」という意見の表明が、どこから出てくるのかイマイチよくわからないのでした。吉本隆明の周囲の観察によってそう判断したのか(そういう風に記述がなされている箇所もありましたが)、あるいは、根拠も何もないただの自分の独断なのか。そういう部分がイマイチはっきりとは分からないままでした。
例えば本書には、こういう文章が出てくる。

『現に、子どもが成人してから一番なつかしがるのは母親であって、父親ではありません。これは百パーセント疑いのないことであり、父親の役割は母親を介して子どもに作用しているだけです。父親に親しみを感じている子どもがいたとしたら、母親との関係がよっぽど悪かったのでしょう。そうでなければ、大体人間は死ぬ間際まで、思い起こすのは母親のことです。親愛の情を持って慕うのも母親と決まっています。』

母親にまったく親しみを覚えない僕としては全力で反論したい箇所ではありますが、まあ僕個人のことはとりあえずどうでもいいです。僕はこの箇所を読んで、『現に』という表現は一体どこから繋がっているのか(別に前後にそれを補強するような話があるわけではありません)、『百パーセント疑いのないことであり』とか『~と決まっています』というのは一体どこにそんな根拠があるのか、僕にはさっぱり理解できませんでした。
先ほど森博嗣は断言をしていて鋭い、というような話を書きましたが、それとこれとは話が違います。森博嗣の断言は、『自分がこういう風に考えている』という事柄についてです。しかし吉本隆明のこの箇所は、『世間はそういう理で動いている』という部分について断言しているわけです。それはさすがにやりすぎではないか、少なくとも僕にはまったく共感できないぜよ、という感じがしてしまいました。せめて周囲の観察によってそう判断しているということであって欲しいのだけど、そういう記述があるわけでもないし、そういう周囲の観察のないただの自身の独断であるならば、それはちょっと違うんじゃないかなぁ、と思ってしまいました。
また、どうもこれは矛盾してないかな、というような箇所もありました。まあこれについては、あとがきを読む限り、編集者が全体の構成をやった、みたいな感じのようなので、著者に責任を求めるべき部分ではもしかしたらないのかもしれないのだけど。
具体例を挙げましょう。僕が気になったのは、別々の章にあった次の二つの文章です。

『(自分の文芸批評のやり方についての話で)つまり、消息通は知ってるけれども、一般の人だったら知らないという情報は、僕にとっては意味がなく、誰にでもわかる材料しかつかいません。噂や評判で人のことをああだこうだとは言いたくないのです。それだけは心構えとして持っています。』

『(田中角栄の話の流れで)中国の場合は、いまもそうしたタイプの政治家がいます。中国共産党は、日本の共産党と違い、故郷の代表として党の幹部になって中央で政治をやるそうなのです。なぜ僕がそんなことを確信するかというと、かつて学生運動をやっていたとある大学の教授からそのとおりだったと教えてもらったからです。』

解釈次第かもしれないけど、僕にはこの二つの文章は矛盾していると思うんだよなぁ。前者では『誰もが知ってる情報しか使わない』といいつつ、後者では『とある教授からの情報によって判断している』わけです。うーむ、と思ってしまいました。前者は『文芸批評』についての話だから、そうじゃない場合は違うんだよ、ということなのかもですけど…。
そんなわけで、僕の中ではすごくぼんやりした印象の作品でした。森博嗣の持つ鋭さを感じることが出来ず、思いついたままに浮かんだ事柄について散漫に書いた、というような印象です。まあいずれにしても僕にはあんまり合わなかったんだよなぁ。
とはいえ、面白く読める部分もそこそこはありました。『本を読むことで心が豊かになるというのは違うのではないか』『お互いに言いにくいことを言い合えるかどうかが、良い関係の基準』『柔道の谷亮子が何を考えどんな練習をしているのか』なんていう話は結構面白かったし、まあ面白く読める部分もちらほらある、という感じです。
個人的にはちょっと僕には合わない作品でした。やっぱり森博嗣の作品の方が僕には凄く合う気がします。まあでも結局は、自分がどんな風に生きてきたか、どんな考えを持ってるかに左右されるような気がするから、森博嗣が合わないけど吉本隆明は合うって人もたくさんいるだろうし。相性の問題かもしれません。

吉本隆明「真贋」




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[4122]

こんばんは。少々、ご無沙汰でしたね。相変わらずの読書量に、お元気でお過ごしの様子が良くわかります。
この作品は吉本隆明氏の最近のものでしょうか?
かつて吉本教の一員(補足が必要ですね。学生運動が盛んだった頃、吉本隆明と言えば当時の学生の《教祖さま》でした。)だった私としましては、氏の展開する論理の矛盾についてこうフォローしたいです。何と言いましても、かつてのカリスマももうお歳ですので…。今年で86歳ですよ。
通りすがりさんが初めて読まれた作品が、この『真贋』というのは微妙ですね(笑)。旬の時代にお書きになった『言語にとって美とは何か』とか『共同幻想論』から読まないと氏の真価は分からないと思いますよ。ちょっと上から目線の発言で、お許し下さいね。
待機本の中にこのタイトルを見たとき、私はいよいよ通りすがりさんも小林秀雄をお読みになるんだ、と勘違いしました。文庫本の『無常といふこと』の中に、この作品が収録されてます。確か、骨董の話だったように記憶していますが。
氏の功績は色々あるでしょうが、まずは『言語にとって美とは何か』という著作を挙げます。私はマルクス経済学の剰余価値説(「交換価値」と「使用価値」)を言葉の二面性に当てはめた論理の展開に非常に感動しました。評論を読んで感動なんて言うことは滅多にないでしょう(笑)。いかにも理系の評論家という感想を持ちました。次は詩でしょうね。「ちいさな群れへのあいさつ」は大好きです。
ちょっと検索しましたら、次から次に著作が出てきました。かつて読んだもの、未読のものなど様々ですが、このボリュームは並みの人ではない証拠です(笑)。やや贔屓の引き倒しになりましたが、悪しからず…。
最近読んだ本は『宇宙は何でできているか』と『帰宅ボーイズ』(はらだみずきさん)『バラ色タイムカプセル』(大沼紀子さん)『往復書簡』(湊かなえさん)です。湊さんの作風は恩田陸風になってきたかも、と思いました(笑)。ちょっと好みのタイプではありません(泣)。目下、重松氏の新作『ポニーテール』を読んでいます。良かったら紹介させてくださいね。
では、暑さもそこそこになり、やや凌ぎやすくなりましたね。
どうぞお元気でお過ごし下さいますように。

[4123]

こんばんはです。ちょっと色々忙しくて、昔のような読書量を維持できてないのが辛いところですー。
「真贋」は、単行本が出たのが数年前、文庫になったのがつい最近、という本ですよ。
吉本隆明って、名前は凄く聞くけど、思想とかそういう感じのことを書く人なんだろうなぁと認識してて、きっとちゃんとした著作を読むと僕には難しすぎるんだろうなぁ、という印象があります。この「真贋」は、なんかそんなに難しいことは書いてなさそうだったんで、ちょっと読んでみたのでしたー。
まあ僕も、吉本隆明氏その人について何か言いたいことがあるわけではないのですよ。一応感想中でも断ったように、この感想の中で僕は吉本隆明という人を、『真贋、という生き方本を書いた人』という形で扱っているので、ちゃんとした思想とかそういう作品を読んだら、また違うかもしれませんですね。とにかく、「言語にとって美とは何か」は気になりますね。自分の頭の中の読みたい本リストにひっそりと入れておこうと思います。
しかし、小林秀雄も読んだことない作家ですけど、こちらもハードルが高そうなイメージがずっとあります。いつか読めるかなぁ。
「帰宅ボーイズ」はちょっと気になっているのですよね。湊かなえは、僕はとりあえず、よほどのことがない限り読まないかなぁ、と思っています。重松清も、きちんと追うには著作数が多くなりすぎてしまいましたね。是非是非、良かったら教えてくださいませ!
なんだかいきなり秋に突入したような気候ですが、体調など崩されないようにお気をつけくださいね!

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2013年の個人的ベストです。

小説

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4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
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7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
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9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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1位 千早茜「からまる
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