黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

堀割で笑う女 浪人左門あやかし指南(輪渡颯介)

内容に入ろうと思います。
城下町に、幽霊の噂が広まっている。いくつかのパターンがあり、堀割から女が覗いていたとか、木の上に女の上半身だけがとか様々なのだけど、それらには共通項がある。
女の姿を見たら死ぬ、というものだ。
幽霊の噂の広まった町は、夜ともなればひっそりとしていた。出歩くのは助平か飲兵衛くらいなもの。特に幽霊が出ると噂された堀割の辺りは真っ暗で、人通りも少ない。
そこで、次席家老の檜山織部が暗殺された。
政治力学に従って檜山は病死だとされ、何事もなかったように日常は過ぎていく。
その町に、一人の腕の立つ少年がいた。苅谷甚十郎というその少年は、滅法腕は立つのだが怪談話には異様に恐れるというので、よくからかわれていた。
その甚十郎、江戸へと修行に出ていた時、平松左門という凄腕の男に稽古をつけてもらい、ますます強くなった。この左門という男、酒と怪談話が滅法好きという男で、やはりここでも甚十郎は怖い怪談話をたんまりされて脅かされたものだった。
檜山暗殺に関わった者の周辺と、浪人である左門の周辺で、様々な幽霊話が、誰かからのうわさ話という形で入ってくる。檜山暗殺に関わった者たちは、次々と『死人』に殺されていく。そして左門は、幽霊話の背景を探っていく…。
というような話です。
なかなか面白い作品でした。最近メフィスト賞受賞作品ってあんまり読んでなかったんですけど、これはなかなかないタイプの作品だなと思いました。
読んでいても、物語がどういう方向に進んでいくのか、しばらくまったく読めないんですね。
初めは、ただの怪談を扱った物語だろうか、と思うような話です。短い幽霊話がいくつも出てきて、背景を説明される幽霊話もあるけども、そうではないものもある。檜山暗殺と、浪人左門がぶらぶらしていることが物語の主軸なのだろうけど、そうではない様々な断片も色々と入り込んでくる。そもそも、檜山暗殺の話と左門の話との繋がりは、初めのウチは全然見えてこない。
しばらくするとようやくなんとなく分かってくる。これは、ミステリの枠組みに幽霊話という皮をかぶせているのだな、と。そこで僕は、京極夏彦の作品をチラッと連想しました。
京極夏彦の<京極堂>シリーズとか、あるいは<巷説百物語>シリーズなんかは、両者の物語の構造こそ違えど、共に『妖怪』という怪異の膜を隔てることで、謎めいた状況設定を生み出したり、あるいはこんがらがった状況を解決したり、という物語です。妖怪、という存在がまだある程度信じられていたような時代に、その妖怪という怪異を人為的にうまくコントロールすることでそこに物語が生まれる、そういう印象です。
本書もかなり近いものがある、と思いました。本書では妖怪ではなく幽霊だけど、幽霊という存在をうまく膜として機能させ現実に起こっていることを覆い隠し、それによって謎めいた状況を生み出している、という物語なわけです。
本書に、なるほど、という一文がありました。

『ほとんどの人は幽霊が出てきた段階で考えることをやめてしまうのだそうです。私のように信じきって徒に怖がるか、大目付さまのように頭から否定してしまうか、なのだそうです。』

これが本書の物語の特徴を巧く説明している、と感じました。確かに人間って、自分には理解しがたい状況に名前だけポンと与えて、それ以上考えない、という傾向ってあるなと思います。ちょっと飛躍するけど、現代でもそういう傾向ってありますよね。『フリーター』とか『婚活』みたいな新しい言葉をどんどん生み出していくことで、それらについて深く考えることを止めてしまっている、みたいな状況って。
現代では、『幽霊』っていうのはなかなかそういう存在にはなりにくいだろうと思います。現代では、『幽霊』というものは、人々の間の共通の話題にはちょっとならないだろうな、と思うんです。もちろん信じている人はいるだろうし、いないと言い切ることは出来ないよなぁ、程度の人もいるだろうけど、でも『幽霊』の話題が日常的に上るような環境にはない。だからこそ、本書のような物語は現代ではなかなか成立させにくいですね。
だからこそ、本書の時代設定はいいですね。まだ民衆の間で、『幽霊』というものの存在がある程度信じられていて、それが日常的な話題になるような環境でないと、なかなかこういう物語は成立しません。
そしてそういう舞台設定の中で、幽霊という存在をうまく定着させるやり方がうまいと感じました。ある程度幽霊が信じられている時代だからって、どんな幽霊の話題でも定着するなんてことはないでしょう。それぞれの話がどういう経緯で生まれ、どういう流れを通って広まり、それがどんな影響を与えているのか、という部分をかなりきちんと描写しているな、という印象がありました。そしてその幽霊話が、もろもろの謎解きに積極的に関わっていく、というその辺りの物語の構成の仕方も巧いなと思いました。
本書は、舞台は時代小説で描かれるような感じですが、非常に読みやすいと思います。僕は正直時代小説ってあんまり得意な人間じゃないんだけど、本書は当時の風俗とか知識とかがほとんどなくてもスイスイ読める感じです。こういう言い方をしたら身も蓋もないかもだけど、幽霊という設定を巧く活かすためのこの時代設定なんではないか、という感じがしたので、結構現代ものの小説と同じように読める作品ではないかと思います。
どこをどうすれば、というのは巧く言えないけど、もうちょっと全体の構成はスマートに出来るんじゃないかなぁ、とか思ったんだけど、でも新人のデビュー作としてはなかなか読ませる作品だと思いました。シリーズになっているようで、ちょっと二作目も読んでみる予定です。なかなか珍しいタイプのミステリではないかと思うので、是非読んでみてください。

輪渡颯介「堀割で笑う女 浪人左門あやかし指南」




関連記事

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/2031-c8b7aa94

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
14位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
12位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)