黒夜行

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科学の現在を問う(村上陽一郎)

内容に入ろうと思います。
本書は、『「科学」の科学の本』、あるいは、『「科学が組み込まれた社会」の科学の本』という感じの作品です。科学という学問分野が、どういう成り立ちを経て現在のような立ち位置となり、それが社会にどんな恵鏡を与える結果になっているのか、というようなことについて書かれている作品です。科学の専門分野に関する記述は多くなくて、社会と科学の関わり、という感じの本なので、むしろ非理系の人にも関わってくる話だったりします。
科学という学問分野が生まれたのは割と最近のことなのだけど、元々は、個人の知的好奇心を満たすための分野であった。つまり、芸術などと同じである。自身の好奇心や満足のために自然を相手に研究をする、というのが科学者という集団であった。
他の分野との決定的な違いは、クライアントが存在しない、ということである。例えば法律や経済の分野であれば、外側に必ずクライアントが存在した。しかし科学というのは、学問として生まれた当初は、クライアントが存在しなかった。そういう特殊な条件の中で、科学というのは進歩し、歴史を積み重ねてきた。
しかし、現在の科学はかなり状況が変わってきている。クライアントがいない、という状況に大きな変化があるわけではないものの、科学という学問分野は、科学者の知的好奇心を満たすためのものばかりではなくなった。科学というのは、社会の成員の一人ひとりの生から死まで、直接間接に管理するような力を持つ存在として社会の中で機能するようになった。
そうした中で、科学というのは変わらざるを得ない。これまでの、知的好奇心を満たすだけの活動であり、社会に対して責任などない、という立ち位置ではいられなくなった。
そしてさらにその一方で、非理系の人たちにとっても、科学というのは無関心ではいられなくなった。科学というものが、科学者の知的好奇心を満たすだけに留まっていた頃ならそれでもよかったのだけど、現在は、科学の動向が自分たちの生活に直結するようなことばかりである。そういう中にあって、理系的な知識を読み解くリテラシーというのは、非理系の人たちであっても決定的に必要なのではないか。
などなど、科学という分野の社会的機能の変遷が、科学という学問分野に、そして僕達の生活にどういう影響を及ぼすことになったのか、という話をメインに、科学の行く末や科学的知識との関わり方などについて書かれた作品です。
なかなか良い内容の本だなと思いました。これは、まさに今の状況だからこそそう思う、というのもあるかもしれませんが。
というのも本書では、「技術と安全」という項で、1999年に起こった東海村の臨界事故について、何故それが起こったのか、そして問題の本質はどこにあったのか、という部分について詳しく書かれているからです。これは、福島の原発の問題を抱える今の日本の状況によく合うのではないかと思いました。
東海村の臨界事故では、現場のマニュアルが勝手に作り替えられていたことによって事故が起こったのだ、という報道のされ方だったようだけど、著者は、それ自体は日本の良きシステムだ、という風に言います。現場から改善案がどんどん出され、それによってマニュアルが改良されていくという仕組みは、欧米でも定着させたかったようだけど、やはりなかなか難しいようで、こういうことがきちんと出来る国というのは少ないと。では、何が問題の本質だったのか、というような部分から、東海村の臨界事故が扱われています、
その章には、まさに予言のように、こんな文章が書かれている。

『(東海村の臨界事故のあと、原子力関係の研究は不人気となり、かつ投資も減りつつあるという状況を紹介した後で)しかし、原子力発電のような国策と直結するような産業では、人材を含むリソースに対する、基礎的な国の支援は恒常的には必要であり、社会的な流行のなかで、その支援を怠ることは、より厳しいしっぺ返しを食らうことになるだろう。そのとき起こる被害は、1999年9月の東海村起こったそれをはるかに凌駕するものとなることを警告しておきたい。』

他にも、社会への影響力という点で最も大きいかもしれない遺伝子工学(遺伝子組換えやクローンなど)の分野での、科学の進捗とそれに対する社会の反応などが描かれたり、あるいは、日本における理科離れの現状を分析したりと、そう多くはない分量の新書にしては、なかなかに広範囲の話題を扱っています。それぞれで、理系の人にとっては、科学という世界の中で生きるための倫理や行動指針みたいなものが学べ、非理系の人にとっては、科学と社会の関わり、あるいは科学と自身の生活との関わりに触れることが出来る内容になっていると思います。
ちょっと今日は時間がないのでこれぐらいの短い感想で終わりにしようと思いますが、科学という器がどうあるべきか、そして科学という器が社会というテーブルの上でどんな位置づけであるべきかというようなことについて、具体例を多く出しながら書いている作品です。1999年の東海村の臨界事故の話題も詳しく描かれているし、福島の原発事故をきっかけとして、科学的知識に対するリテラシー能力を求められることも多々あると思うので、そういう意識を変えるきっかけとしても、読んでみるのはいいかもしれません。

村上陽一郎「科学の現在を問う」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
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4位 「消された一家
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9位 「孤独と不安のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)