黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

バタス 刑務所の掟(藤野眞功)





内容に入ろうと思います。
本書は、大沢努という一人の日本人を描いたノンフィクションです。
大沢努は、フィリピン最大の刑務所に入るまでは、一介の旅行代理店の人間でした。しかし、刑務所に入って彼は、外国人で初めて、刑務所を統べる「王」として刑務所内に君臨したのでした。
大沢努は日本のとある旅行会社で、ある件をきっかけとして、瞬く間にトップセールスマンとして駆け上がっていきます。海外ツアーを独断で催行できる権限を手にした彼は、売春ツアーをメインに、他にも独創的なアイデアを駆使してお客を呼びこみ、次々と成功を収めていきます。
ある日、ちょっとしたことでフィリピンで逮捕されてしまった大沢は、親の金で保釈された後、一旦日本へと戻る。京都の有名サパークラブでウェイターとして働き始めた彼は、フィリピン時代の人脈を買われることになる。「ジャパゆきさん」をフィリピンから日本へ連れてくるビジネスに関わることになったのだ。
そうしてまたフィリピンへと戻ることに決めた大沢。そこで彼は、前回の逮捕を教訓として、一つの決意を固めます。それは、もっと政治に食い込むこと。
当時フィリピンはマルコスによる独裁政治が敷かれていた。大沢は色んな伝手を使ってマルコス政権の中枢にまで触手を伸ばし、権力によって守られる立場を築いてゆく。
しかし、マルコス政権が打倒され、アキノ派がマルコス政権の残党狩りをしている状況の中で、大沢は誘拐の容疑で逮捕されてしまう。マルコス政権の大物ということで処罰は厳しく、フィリピン最大の刑務所であるモンテンルパ刑務所に入れられることになる。
モンテンルパ刑務所は、パンカットと呼ばれる複数の集団によって管理されている。それは、刑務局からも黙認されている。
それぞれのパンカットは、大雑把に言えば日本の暴力団のようなもので、厳しい規律によって管理されている。絶対的な階級社会で、コマンダーと呼ばれるパンカットの頂点以下、明確な序列が存在する。刑務所内での生活は、どのパンカットに所属しているのかによって大きく左右されることになる。
そして大沢は、類まれな商才を発揮し(刑務所内では、これまた暴力団のシノギのように、各人がそれぞれに商売を見つけ金を稼がなくては生きていけない)、様々な要素が絡み合い、ついに刑務所内最大のパンカットであるスプートニクのコマンダーに選ばれることになる…。
というような話です。
いやー、これはメチャクチャ面白い話でした!すっげーメチャクチャな話。こんな日本人がホントにいるんだ、ってことが驚きですよ、ホントに。
まず、旅行代理店時代の話から面白い。決して褒められたやり方ではないけど、しかし絶妙に人の欲望を衝くアイデアを次々と出してきて、元々そういう方面での才能がずば抜けていたんだろうな、と思いました。結局フィリピンで、ちょっとあくどいことをしてちゃちゃっと小金を手にしようとして捕まっちゃうわけなんだけど、普通に旅行代理店の人間としてでも大成しただろうなぁ、と思います(とはいえ、相当飽きっぽいみたいだから、もしかしたら飽きちゃってそううまくは行かなかった、なんて可能性もあるけど)。
しかしまあもちろん、刑務所に入ってからの話がまー面白い!波乱万丈、なんて言い方じゃ全然追いつかないくらい、ハチャメチャですね。
そのハチャメチャの背景にあるのが、やっぱり大沢の商才なわけです。大沢は色んな場面で、それまで誰も思いつかなかったような独創的な商売を次々と思いつく。そしてそれが、ことごとく成功するんです。こういうのを山師っていうのか分からないけど、とにかく、商売のセンスが天才的です。パンカットというのは、ホント暴力団と同じで、それぞれが自分のシノギで金を稼ぎ、上の人間に上納金みたいな感じで金を収めないといけないんだけど、だからこそ、効率よく金を稼げる人間は上から取り立てられることになる。大沢も、その類まれな商才によって、上の人間から目を掛けられることになります。
ただ、商才だけではないんですね。これは恐らく、フィリピンでマルコス政権に食い込む過程で培って来たセンスなんだろうけど、相手の信頼をいかに勝ちとるか、という戦略が素晴らしい。もし大沢が、商才のあるだけの男であれば、ここまで上り詰めることは出来なかっただろうと思います。大沢は、どんな風にしたら相手が自分を信頼してくれるか、それを見極めるのが実にうまいと思う。それだけじゃなく、人間をどう動かすか、という手腕にも長けている。
一番なるほどと思ったのは、大沢がコマンダーに就任した直後の大沢の指示。大沢は、「スプートニクのコマンダー・大沢をハポンだと笑う奴を見つけたら、どの組織の誰であろうと即座に額をかち割れ。腹でなく、足でなく、額をかち割れ」という指示を出す。この指示は本当によく考えられている。普通スプートニクそのものへの文句は聞き流すのだけど、何故今回は聞き流さないのか。そして、何故額をかち割るのか。こういう細かな部分での配慮も凄いなと思いました。
とにかく、大沢がどんな風にして刑務所の中で立ち振舞ったのかというのは、是非本書を読んでください。僕の書く感想では、その空気感みたいなものはどうにも表現しようがありません。色々幸運もあったりした。しかし、本書に出てくる、外務省の中谷氏が、大沢をこんな風に評していたセリフが出来て、なるほど、と思う。

『あの刑務所で、本当に自分の力だけでやっていけたのは大沢さんだけです』

確かに幸運もあっただろうけど、基本的に大沢にしか不可能なことだっただろうと思う。
というわけで、大沢についてのあれこれは是非本書を読んでもらうとして、別の話を。日本の刑務所しか知らない普通の人(もちろん僕も。いや、アメリカの刑務所の本をちょっとだけ読んだことがあるか)には、モンテンルパ刑務所の内実にはなかなか驚かされるのではないかと思う。金で刑務官を買収すれば大抵のことはどうにかなるし(なにせ刑務所内の最大のビジネスが、覚せい剤の販売なのだ)、パンカットなんていう囚人による集団をある種黙認するような形になっているのも想像を絶する。
しかし、僕が最大級に驚いた箇所があるので、是非聞いて欲しいのだ。それは本書では、囚人窃盗団、と呼ばれている。
モンテンルパには、軽微犯刑務所(リビング・アウト)がある。そこに移送された囚人は、3年以内の出所が見込まれているし、家族と共に生活することも許される。しかし、このリビング・アウトのメンバーには、出所前に一仕事残されている。
それが、銀行強盗あるいは両替所襲撃だ。
これは、刑務局の人間がやらせるのだ。これは、完璧な略奪計画だ。銀行強盗が起きれば、警察は捜査を開始する。しかし実行犯はまた塀の中に戻っているのだから、見つかるわけがない。一方、銀行強盗の途中で実行犯が捕まっても、元々犯罪者であるし、刑務局だって白を切り通せばいいわけだ。奪ってきた金は、刑務局長に半分、そして残りを実行犯で山分けするらしい。ホント、腐敗ってのは留まることを知らないのだなぁ、と思いました。
そんなわけで、ちょっと凄過ぎるノンフィクションだと思います。作家の力量がどうとかっていう部分は、僕には判断できません。というのも、扱われている題材がとんでもなさすぎるからで、勝手なことを書きますが、どんな人が書いても、この大沢という男の存在感に捕まってしまうのではないか、と思いました。ホント、凄いと思います。凄いとしか言えませんが、濃密なノンフィクションだと思います。是非読んでみてください。

藤野眞功「バタス 刑務所の掟」




関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/2016-92a0ac7f

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
16位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
10位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)