黒夜行

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苦役列車(西村賢太)

内容に入ろうと思います。
本書は、芥川賞を受賞した表題作と、「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」という二編が収録された作品です。

「苦役列車」
19歳、中卒の貫多は、港湾の人足として日銭を稼ぐ暮らしをしている。小学生の頃、父親が性犯罪者として逮捕され、以来世間から隠れるようにして生きざるおえなくなる。友もなく、女もなく、一杯のコップ酒だけを心の慰めに、時々仕事に出かけては五千五百円を得る、そんな孤独な生活を送っている。
普段港湾の仕事場ではほとんど誰とも関わらない貫多だが、ある日バスの中で、その日初めて日雇いの仕事にやってきた日下部という男に声を掛けられ、貫多にしては珍しく、その日下部と案外に親しくなる。休憩時間に一緒に昼飯を食べたり、仕事終わりで一緒に酒を飲みに行ったりと、久しぶりに話す相手が出来た。
日下部に釣られて、これまで時折行くだけだった仕事にも毎日行くようになり、仕事ももう少し待遇の良いところへと代わり、何事も順調に進んでいくかに思えたが…。

「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」
貫多は、とんでもないぎっくり腰にやられ、立ち上がるのもままならないという苦行に喘いでいる。糞をひり出すのもままならず、なるべく食事を制限しなくてはならないほどだった。
貫多は小説を書いている。ある一編が、川端康成文学賞の候補になった、という話を、編集者から知らされたのだ。その編集者とは、主に貫多の不義理によって色々因縁があり、悪い知らせを聞かされるものだとばかり思っていた貫多はホッとし、またどうしても獲りたいと願っている賞でもあったので、大いに喜んだのだった。
ようよう外に出られる状態にまで回復したある日、病院の帰りに一軒の古本屋に立ち寄るのだが…。

というような話です。
なかなか面白いですね。芥川賞受賞作品を時々読むんですが、芥川賞受賞作品とはどうも相性があんまりよくなくて、僕にはよく分からないなぁ、という作品が結構多いんですが、この作品は普通に面白かったです。
西村賢太の作品を読んだのは初めてです。私小説作家、と呼ばれています。私小説、というのがどういうものなのか、正確には知らないんですけど、基本的に、自身の経験をそのまま小説仕立てにする、ということなんだろうと思います。
本書の主人公の貫多は、父親が性犯罪を犯したために人生を狂わされた男なわけですが、実際著者自身もそうなようで、本当に著者自身のことをベースにしている作品なんだろうと思います。
なんだか、小説を読んでいる感じではない、というと、どんな風に伝わるか分かりませんが、私小説だから、という先入観があるからかもしれませんが、誰かが自分の経験を傍で語っているのを聞いているような、そんな感じがしてくる作品だなと思います。
貫多というのは、家賃はそもそも払う気がないし、酒とタバコを確保し、風俗に行くための貯金が出来れば、まあ後は働く気力も湧いてこない、というような男です。で、そういう生き方から強く脱したいと思っているかというと、そうでもない。まあこれならこれで、というような感じで、もちろん諦めが大半でしょうけど、そういう生活を受け入れてしまっている、というか、染み付いてしまっている、という感じです。元々だったのか、身につけたのかわからないけど、貫多の怠惰な性格には、その日暮らしという生き方は合っていなくもない、ということなんだろうと思います。
でも、完全に受け入れられているかというと、そうでもない。それは、同い年の日下部という男と親しくなることで、少しずつ見え隠れしていくことになります。同じ19歳なのに、自分と日下部とではこんなにも違う。それまで誰とも親しく付き合わず、会話することもほとんどなかった貫多は、親しく付き合う友と出会うことで、今まで見なかった部分、見て見ぬふりをしてきた部分を引き摺り出されることになります。
そういう過程や貫多の性格なんかが、本当に良く描かれているなぁ、という感じがしました。貫多自身(そしてそれは著者自身でもあるんだろうけど)のダメな部分、弱い部分を隠すことなく描いていて、普段そういう部分を必死で隠しながら生きている僕らには、一部分だけかもしれないけど、なんとなく分かってしまうような部分ってあるんじゃないかなと思います。普通だったら恥ずかしくて表に出したくないというような部分を惜しげもなくさらけ出しているからこそ、読者を惹きつけるんだろうなぁ。
「落ちぶれて~」の方は、個人的にはそこまで面白くないかなぁという感じがしたんだけど、貫多と編集者との関わりは、これ実際ホントの話なんだろうか、と思ってしまった。貫多の編集者に対する不義理っぷりはちょっとハンパなくて、これを実際著者自身がやっているのだとしたら(やってるんだろうなぁ)、よくもまあそれが通ったなというか許されてきたなというか、そこがちょっと凄いなという感じがしました。
芥川賞受賞作とは普段そこまで相性の良くない僕ですが、これは面白く読めました。西村賢太の色んな作品で貫多のことが描かれているようなんで、時々読んでみようかと思います。是非読んでみてください。

西村賢太「苦役列車」




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Comment

[4102]

こんにちは。
私もこの作品を読みました。「新潮」ですので、芥川賞のこの作品のみです。苦役という言葉自体が重いですよね。それにしても、ちょっと文言が堅すぎませんか? こんな言葉ってあったの?というような語彙が至る所にあります。私のボキャ貧のせいでしたら好いのですが、奇をてらった訳ではないとしたら、もう少し分かりやすい(耳になじんだ)言葉の方が好いかな、と思いました。
これが彼の現実としたら、なかなか大変ですよね。同じ歳の日下部が登場することで、貫太の置かれた不遇さが際だちますね。彼に、だからどうする?というビジョンがないところも拍車をかけています。ひたすら暗い話だなぁ、くらいの気持ちで読みましたが、小説を書いている部分も読みたかったです。日銭を稼いで、食べて飲んで寝て、時々風俗に通うだけの生活に陽が射したのでは…と勝手ながら思いました(笑)。
中卒という負い目があるようですが、こんな難解な文章が書けるのはなかなか凄いことですよね。《欲》という漢字も旧字の《慾》を充てていましたもの。かなり高齢の方かと勘違いしました。西村氏、本当にこういう生活をされているのかも知れませんが、文筆に関する限りこだわりと貪欲さを併せ持った作家だと思いました。

[4103]

なるほど。雑誌に掲載されたやつを読んだんですね。文章は、確かに堅いですよね。僕が知ってるざっくりとした知識だと、とある私小説家の作品に出会ったことで小説を書き始めた、とかで、だからもしかしたら、その私小説家の文体に近いのかもしれませんですね。僕も、知らない表現とか結構出てきたりしたんで、なかなか読みづらい感じでしたね。
西村賢太自身も私小説家でしょうから、ある程度(というかほとんど)は事実なんでしょうね。こういう生き方しか出来ない人、というのもいるでしょうから(僕も、ちょっと間違えればそういう人間になりかねないんですけど)、仕方ないような部分もあるんだと思いますけどね。難しいと思います。どうにかそういう生き方をせざるを得ない人がなんとかなるような環境があればいいなぁ、と思います。
これからどんな風に生きていくのかなかなか興味がありますけど、売れなくなっても書き続ける環境があればいいなぁ、と思います。西村氏にとって、小説を書くことが、何かの安定をもたらしているような気もしますし(勝手な想像ですけど)。なかなか存在感のある作家さんが現れたものだなと思います。

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)