黒夜行

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有村ちさとによると世界は(平山瑞穂)

内容に入ろうと思います。
本書は、「プロトコル」と世界を同じくする続編的な作品で、4編の短編が収録された連作短編集です。「プロトコル」では、ネット通販会社に勤める、放浪癖のある父を持つ有村ちさとを主人公にした物語が展開されるのだけど、本書では、そのプロトコルで描かれた人たちのそれぞれの物語が描かれます。

「青い草の国へ」
有村ちさとの父・騏一郎は、父にしか見えない幻影・ブラントン将軍とともに、世界各国を放浪していた時期がある。その父の放浪癖は、ちさとにもの凄く大きな負担を強いることになったが、そのことを強く恨んでいるかというとそこまででもない。
ここでは、騏一郎がアメリカでの8年に及ぶ放浪を終わらせたその物語が描かれていく。ブラントン将軍の故郷へと向かうことにした騏一郎は、フィルキンズボロという小さな町へ向かった。ブラントン将軍との関係が少しずつ変わっていくことを自覚しながら、騏一郎はそこで旅費を稼ぐため、外国人相手に奇妙な商売を始める…。

「オズのおまわりさん」
有村ちさとが勤めるネット通販会社で、ちさとが初めに配属されたのがカスタマーセンター。そこの上司であった村瀬瑛子は、バブルの狂熱時代に散々遊び倒した後、今の会社に就職、今では社内初の係長となり、一般職の女性社員としての先鞭をつけるべく奮闘してきたという自負がある。
そんな村瀬は、離婚し息子を育てる一方で、課内の13歳年下の男と先行きのない関係を続けている。そして何故か、その年下の男と一緒にいると、有村ちさとのことが意識されるのだ。
ある日家に帰ってみると、息子の姿が見えなくて…。

「おんれいの復讐」
有村ちさとの妹・ももかは、行き当たりばったりで物事を深く考えず、都合が悪くなると無理やり辻褄を合わせるような、姉の目から見てもちょっといかんともしがたい人間だ。今も、ミュージシャンを自称している碌に仕事もしていない男と、結婚のあてもないまま付き合っている。そしてこのももかは、ちさとにとんでもない迷惑を掛けたこともあるのだ。
子供の頃ももかは、何でもきちんと出来てしまう姉を疎ましく思うことが時々あった。でもある日、姉のクラスメートから、姉がいじめられているということを知り、ももかはなんとかしてあげたいと思った。友達からもらったおまじないの本に載っていた呪いを実行しようとして途中で飽きてしまったのだけど…。

「前世で逢えたら」
有村ちさとは、妹が関わったとあるとんでもない事件をきっかけに沖津誠と出会い、交際に至っている。誠との交際については、出会いが出会いであるので、どうも周囲にうまく説明できないでいる。そのせいで、誠に対してある違和感を覚えた時も、友人に相談することが出来ないでいた。
とあるひょんなきっかけからその違和感の謎は解け、ついでに『マリオ』と名乗る誠の友人と知り合うことになった。アルトサックスを吹いているというマリオのライブに行ってみたちさとは…。

というような話です。
「プロトコル」も良い作品でしたけど、こちらも良い作品だったなと思います。なんというか、物語が実に綺麗な形をしているような、そういう印象を受けました。
有村ちさと自身がちゃんと出てくる話は、三つ目の妹視点の話と最後のちさと視点のものしかないけど、やっぱり有村ちさといいなぁ、と思いますね。こういう女性は素敵だと思います。有村ちさとをどういう女性なのかと説明するのはあまり簡単ではないけど、窮屈そうなところが僕はいいなぁと思います。
有村ちさとはもの凄く真面目で、論理的。だからこそ、一貫性というのを結構大事にしていると感じられる(これは僕自身もそういう人間だから余計にそう思うのかもしれないけど)。筋が通れば自分の意に沿わないことで合っても仕方ないと言って受け入れることが出来るけど、筋が通らないことについては何がどうなっても納得できないという頑なな感じは、まあ正直言って近くにいたら色々面倒だろうけど(笑)、でも僕は結構好感が持てるんですね。
逆に、ももかみたいな女性はダメなんです。ももかはちょっと極端にダメ過ぎると思うけど、こういう人って少なくはないよなとも思うんです。とにかくももかの生き方で好きになれないのは、一貫性のなさ。意見がころころ変わったり(そりゃあ人間だから意見は変わるだろうけど、特に考えなしに意見が変わるのがどうも)、そもそも何も考えてなかったりという言動は、僕にはちょっと耐え難いなぁという感じがします。
だからこそ、妹視点で描かれた三つ目の話は、ちさととももかが実に対照的に描かれていることが分かって、凄く面白いなと思います。まあ、ももかだって可愛げのあるところはあるけども、やっぱりちょっと杓子定規でもちさとの方が遥かにいいなぁ、と思っちゃいますね。
本書では、矮小な人間が描かれている、という感じがしました。矮小って言葉は、普通あんまり良い意味では使われないだろうけど、僕はここでは、それを結構良い意味で使っています。なんだろう、人間ってそもそも矮小な生き物だろうし、ちゃんとしているように見える人にだってどこかしらそういう部分があるはず。本書の四つのそれぞれの話で、そういう人間の本質的な矮小さみたいなものにグッと迫るような感じになっていて、素敵だと思います。
どの話も、ストーリーだけ抜き出したら、別にどうってことはない話なんです。ホントに、それぞれの人たちにとっての日常を切り取っているという感じで、さしたる起伏はありません。でも、その些細な物語の過程で、人間ってしょうがないよね、なんて思えるような部分を切り取って提示して見せているところが凄く巧いなと感じました。些細な部分の積み重ねによって、彼らにとっての日常の輪郭をはっきりさせるのが凄く巧くて、やっぱ平山瑞穂は巧みな作家だなぁと改めて思います。
個人的にはやっぱり、一番最後のちさと視点の話が好きですね。ちさとは、言い訳する必要性のないことについて必要以上に言い訳をしているようなそんな印象の生き方をしていて、その不器用さがなんとも言えず愉快です。ちさとが友人に「もの凄く変わってる」と言われてちょっと憤慨しているというような場面があるんだけど、これは僕の経験上、変わっている人の特徴みたいなところがあって、そうだよなぁ、とか思いながら読んでました。僕は変人好きなんで、自分の周りに変人がいると嬉しくなっちゃうんですけど、そういう人は大抵、自分のことを「普通」だって思ってるんですよね。
「プロトコル」を読んでなくても特別不都合はないと思うけど、僕個人としては、やっぱり「プロトコル」を読んでからこっちを読んで欲しいですね。有村ちさとの不器用な生き方にかなり好感が持てるだろうし、有村ちさとの父・元上司・妹と、まあなかなかに変わった人間が描かれるんで(元上司はそんなに変わってないかもだけど)、楽しく読めると思います。特にこれと言った起伏があるわけでもない物語をここまで読ませるのは、やっぱり著者の力量だろうなぁと思います。是非読んでみてください。

平山瑞穂「有村ちさとによると世界は」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)