黒夜行

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せきれい荘のタマル(越谷オサム)

内容に入ろうと思います。
大学入学と同時に静岡から上京し、せきれい荘という古臭いアパートに一人暮らしをすることになった石黒寿史は、とんでもない隣人を持ってしまった。
タマル、である。
タマルはせきれい荘の寿史の部屋の隣に住み、しかも寿史と同じ大学、しかもなんと同じサークルの先輩、という人物である。
このタマル、とんでもないのである。
実にいい奴なのだ。人のために動ける人間。でも、そのやり方に難有り。お節介にもほどがあるというレベルで人に絡んでいく。健康にいいと早朝に寿史をたたき起してランニングに連れだそうとするし、家主よりもくつろいで寿史の部屋で酒を飲み、さらに好きな女性がいるととことんまでド直球に突き進んでいく。結局寿史は、このタマルに振り回されることになる。
さて、寿史は映画研究部に所属しているのだけど、そこに入部したのは、同郷で予備校も同じだった法村珠美が所属しているから、という理由がほとんどだ。寿史は、いろんな隙を見て珠美にアプローチを掛けようとするのだけど、これがなかなかうまくいかない。
一方、この映画研究部にもまあいろんなことがあるのだ。部長と副部長の険悪な雰囲気や、主に恋愛方面での複雑な人間関係、はたまた盗難事件があったり、あるいはもっととんでもない事件があったりと、色々と騒がしい。
そんな中でタマルは、タマル道とでもいうべき道をひたすらに突き進んでいき、いろんな人間に迷惑を掛けつつも、いろんなところでファインプレーをしているというような、そんな話です。
なんというか、基本的に大学生の日常がメインで描かれている作品なんで、内容紹介がちょっとしにくいかもです。
越谷オサムは良い作品を書きますね、ホント。ザ・青春小説!という感じの小説を書くのが本当にうまいと思います。
とにかく本書は、タマルという人間のキャラクターがエンジン全開で、このキャラクターを実に見事に造形したことが作者の勝利だな、という感じがします。タマルって、とにかく人のことを親身に考えて全力で行動できる人間で(でも空気は読めない)、普通に描くだけじゃたぶん、いやいやそんな人間いねーよっ、って思われちゃうような、そんなキャラクターだと思うんですね。けど著者はこのタマルを、こんな奴が周りにいたらめんどくせーなー、と読者に思わせるぐらいのリアリティを与えて描き出しているんですね。これはお見事です。
何が凄いって、タマルが出てこないシーンでもタマルの存在感は強烈だ、っていうことなんですね。その場でタマルの話をしていたり、タマルっぽくなってるぞって指摘したり、とにかくそこにタマルがいるかどうかに関係なく、タマルっていうのは存在感に満ちあふれているんですね。
もちろん、その場にタマルがいる時の破壊力はなかなかのものです。初めのウチはそこまで強く感じないかもだけど、中盤以降、物語がどんどんと『危険』な感じの展開になってて、そこでのタマルの活躍と言ったら八面六臂って感じです。
もちろん、ちゃんとタマルの背景みたいなのも描かれる。つまり、どうしたタマルがタマル的になったのか、という背景だ。これは、話としては別に凄い要素があるわけじゃないんだけど、でもこの要素作中での出し方(演出の仕方)がなかなか巧いなと思いました。なるほど、そこでそう来ますか、と。
正直僕は、タマルみたいに生きられたらいいな、と思う部分はあります。正直、少しだけ羨ましい。普段言いたいのに口に出さないこともたくさんあるし、一方で、俺って自分のことしか考えてねーよなー、と感じることだってある。自分の生き方に、なんというか、自分で合格点をあげたり出来ないよなぁ、という感じなんですね。
タマルの生き方は、周りをすぐ巻き込むし、周りの人間を閉口させるだろうけども、それでも、言いたいことは素直に言う、可能な限り常に全力で向かっていく、相手の気持ちを思いやる、そういう生き方って素敵だなと思うんですね。とはいえ、まるっきりタマルそのものになりたいかって聞かれると、それは嫌だなぁ、と思うのだけど(笑)。
タマル以外の登場人物も、なかなかに魅力的な人が多い。もちろん、タマルほど突き抜けてる人間はいないけど、寿史の振り回されっぷりとか、珠美の機械オタクな感じとか、北先輩の包容力とか、鈴木の優しさとか、他にも部長も副部長もなかなか人間らしさに溢れていて素敵だと思います。どこにでもいそうな大学生なんだけど、部分部分で何かしらスパイシーな部分があるのがいいんだろうなという気がします。個人的には、北先輩が結構好きです。
ストーリーは、さっきも書いたけど基本的に大学の日常という感じ。でも、巧いこと話が転がっていくんです。読み始めはホント、なるほど大学生の青春物語ね、とか思いながら読んでたんで、中盤以降の展開はなかなかびっくりしました。なるほど、そんな風に進んでいくわけなんですね、と。それでも、その中盤以降の展開が突拍子もない感じではないし、前半で描かれるいくつかの場面が後半で伏線になってたりと、タマルのキャラクターだけに頼っているわけではない、物語の展開のさせ方としても巧いと思いました。
『愛すべきお人好し』であるタマルが台風のようにいろんなものをなぎ倒していくわけなんだけど、決してタマルのキャラクターだけが素晴らしい小説というわけではありません。まさに、ザ・青春小説!と言いたくなるような、爽やかで(ちょっと暑苦しいけど)スリリングな大学生の物語です。読む方も、タマルの破壊力に振り回されて、なんだか元気になっていく小説ではないかな、と思います。是非読んでみてください。

越谷オサム「せきれい荘のタマル」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)