黒夜行

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あぽやん(新野剛志)

内容に入ろうと思います。
本書は、空港で働く「あぽやん」を描いた6編の短編が収録された連作短編集です。
まず全体の設定を書いておきます。
大日本航空という航空会社のグループ会社である大航ツーリストで働く遠藤慶太は、29歳にして本社から成田空港所へと「飛ばされて」しまった(と本人は考えている)。通常空港勤務は、30代以上の人で本流から外れた人がやることが多い。29歳で空港に飛ばされた慶太は、上司に疎まれているからこんな人事になっているんだろう、と考えている。それでも、次の辞令が出るまでは、ここで精一杯仕事をしてやろうじゃないか、と思っている。
「あぽやん」というのは、空港のトラブルをなんでも引き受け、お客様のために全力を尽くす空港勤務の者を指す。昔はそういう人間に対する賞賛の言葉だったはずなのだけど、今では蔑称としてのニュアンスが含まれてしまっている…。

「笑って笑って」
成田空港所には、成田空港所へ何度も戻ってきている今泉というベテランがいる。「笑って」というのが口癖で、いつも誰かれとなく話しかけてはうっとうしがられている。なんとも掴みどころのない、言ってしまえば適当な人なのだ。
ある日、空港でトラブル。日系ブラジル人のお客さんが連れと一緒に出国しようとしているのだけど、その娘は再入国許可を申請していないため、一度出国すると日本に戻って来られないかもしれない、というのだ…。

「ファミリー・ビジネス」
堀之内という上司は、営業からの依頼をなるべく断るようにしている。空港では何が起こるか分からないから、なるべく身体を空けておかなきゃいけない、ということだ。
しかし空港に勤務し始めて、急速にかつての上司や同僚などから忘れられていることに気づいた遠藤は、営業からの依頼を積極的に受けることにしたのだ。そんな遠藤を堀之内はたしなめる。
ある日のこと。遠藤を空港勤務に決めた元上司から依頼。しかも今泉からも同じ日に別の依頼。なんとでもしてやるさ、と意気込む遠藤だったが…。

「オンタイム」
ついこの間別れた彼女が、新しい男(だと思う)を連れて慶太の勤務する成田空港にやってきた。やっぱり彼女がいないのは寂しい。
今慶太には気になっている女性がいる。古賀恵という別フロアで働く女性で、慶太は彼女の誕生日の日飲みに行きましょうと誘った。オンタイムで上がれば、彼女が誕生日である時間帯にギリギリ間に合う。
その日。何故か慶太の班のメンバーは、オンタイムで上がった後デートだということを知っていた。しかしそんな日に限ってトラブルが続き…

「ねずみと探偵」
業務内容の削減により、成田空港所はスタッフの削減をしなくてはならなくなった。慶太も自分の班からリストラする人間を決定しなくてはいけない。女性ばかりの職場は疑心暗鬼になり、ギスギスしている。
そんな中、今泉と堀之内が「ねずみの仕業」と呼ぶ、とんでもないトラブルが発覚し…。

「金の豚」
成田空港所には、住田という定年間近の所長がいる。普段はパーティションの奥の<砦>にいて全然存在感がないのだけど、見た目の貫禄もあるのだろう、今泉や堀之内でも手こずるトラブルを5分で解決したりする。
そんな所長の元に、テレビカメラが密着することに。20年前ある番組の密着を受けたことがあり、定年間際でどうなっているのかという取材になるらしい。
それが一つのきっかけになったのか。住田所長は、眠れる獅子を起こしてしまったかのようなウルトラCを決める…。

「不完全旅行」
NO-RECという、かなり起こる可能性の低いトラブルが一日に立て続けに発見された。調べてみると、少し前に失踪したある社員の仕業なのではないか、と疑われることになった。もしかしたら他にもNO-RECが仕込まれているのではと調べると、出るわ出るわ。
そんな慶太は、大学時代の友人から、自分が起業した会社に来ないか、と誘われる。自身が成長しているのかまるで分からないでいた慶太は悩んでしまう…。

というような話です。
これはなかなか面白い作品でした。ジャンル分けすれば「お仕事小説」と呼ばれるタイプの作品ですね。僕はこの作家は、1作読んだことがあるかないか、という感じですけど、ハードボイルドタッチのミステリを書く作家、だというイメージがあったんで、こういう作品も書くんだなぁ、と驚きました。同じようなことは解説で北上次郎も書いています。
空港での仕事って、その中身についてほとんど知らなくても、トラブルだらけなんだろうなぁ、という気がしますよね、なんとなく。で、そのイメージはやっぱりその通りで、空港ではトラブルだらけなんです。飛行機に乗ったことがある人って割といると思うけど、空港って通り過ぎるだけで、特に注目して見てたりしませんよね。そういうまるで知らない世界についてのエピソードが知れる、というだけでも十分この作品は面白いと思います。
でもやっぱり、キャラクターがなかなか見事だと思うんですね。主人公の慶太だけじゃなくて、頻繁に名前の出てくる主要なキャラクターは、かなりきっちりと肉付けされています。分かりやすい一面的な人間なんじゃなくて、こういう風に見えるけど実はこういう面もある、的な描写が、メインのストーリーとうまく絡みあった形で描かれるんで、巧いなという感じがします。
特に、今泉とか結構好きです。ちゃらんぽらんに見えるけど、実は熱い。お客さんのためということならかなり無茶も出来る。それは堀之内もまあ割と似たようなところはあるんだけど、今泉の場合は普段がちゃらんぽらんだから、余計にギャップがいいなぁ、という感じがします。
慶太は一生懸命なんだけど、まだ一年目で余裕がない感じです。気負うばっかりに、いらんミスをしたり、余計なトラブルを引っ張り込んできたりする。でも一生懸命さは伝わるから周りはフォローしちゃう、みたいな感じですね。慶太にはまだ、今泉や堀之内みたいな、お客様=家族とかそういう実感は持てないでいるんだけど、それでも、お客様を笑顔で空港から飛び立たせたいという想いは強く持っていて、そういう想いをベースに行動してるんで、読んでいて爽快感があったり応援したくなったりするんだろうと思います。
トラブルばっかりじゃなくて、空港所内のちょっとした人間関係だったり、トラブルとは関係ない形でのお客さんとの交流とか、そういうのも楽しくて、読んでて楽しい小説だなぁと思いました。
気軽に読めて、結構ストーリーも面白くて、感動したり共感できたりもして、あー楽しかったなぁ、と思える小説だと思います。ぜひ読んでみてください。

新野剛志「あぽやん」




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Comment

[4068]

はじめまして 通りすがりのものです
私は旅行会社に10年いたので
久しぶりに読んでそうそうそう...と笑ってました。
織田裕二のドラマじゃないですが「事件は現場でおきてるんだぁぁぁ」ってのはよくわかります。
私もよく空港でなんとかしてくれるだろうってセンダーさん任せだったので
いまパート2にあたる
恋する空港を読んでます。

[4069]

はじめまして。僕もコメント欄では「通りすがり」を名乗っています(笑)
やっぱり本業の方でも楽しめるリアリティなのですね。
小説って割と、本業の人が読むと荒が目立って、というケースがあって、まあある程度は仕方ないのかな、と僕なんかは思っているんですけど、
やっぱり著者自身が旅行会社で働いていたからでしょうね。
作中でも書かれているように、空港って本当に『通り過ぎるだけの場所』っていう認識が結構強いんで、
そこでどんなことが起こっているのか考えることが少ない気がします。
知らない世界を垣間見れて僕も楽しかったです。

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5位 笹本稜平「遺産
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
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6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
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8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
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13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
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1位 横山秀夫「64
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6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
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8位 池井戸潤「下町ロケット
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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