黒夜行

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キケン(有川浩)

内容に入ろうと思います。
本書は、成南電気工科大学の機械制御研究部、通称【機研】の面々の破天荒な日々を描いた作品です。
物語のメインとなる代では、機研は三回生はほぼ幽霊部員で、2人しかいない二回生だけで部活を回している状態だった。
しかしその二人がとんでもなかった。
一人は、【成南のユナ・ボマー】と呼ばれているクレイジーな上野。一応、部長である。誰とでもするりと会話に引き込める軽いキャラの男であるが、その実、小学生の頃から爆弾を作り、実家の自室を半壊させたため、実家から出禁を食らい、現在は実家の敷地内の建つプレハブに住んでいるという男だ。常識がないわけではないが、『全力で遊ぶ』ということに掛けては手を抜くことはなく、その破天荒っぷりは学内でも有名だ。
一方、副部長の大神は上野とは対称的、実に堅実な男である。目付きが恐ろしいから、新入生勧誘の際は目を閉じていろと上野に指示されるが、上野のストッパーとしてなくてはならない存在だ。しかし、【苗字を一文字隠した大神宏明】という二つ名を持つ大神。上野のストッパーであることは確かだが、そのラインは常識から遙かに逸脱しているという点で、侮ることは出来ない。
それまでも機研は他の部活から危険視されていた存在だったけど、上野・大神体制になってからさらにそれは加速された。二人に刃向かうととんでもないことになる、という認識は学内で共通だ。
そんな機研に、一回生である元山と池谷は引っ張り込まれることになった。無理矢理というわけではないが、上野の強引な引きがあったのは事実だ。それから、上野のとんでもないパフォーマンスを経て、耐性のある一回生が9人入部してきた。
大神の恋・学祭の出店・ロボットコンテストと、派手で破天荒なことが大好きな上野を筆頭に、上野の奇行に麻痺してきた一回生とともに、とんでもなく【危険】な青春時代を過ごす物語。
というような話です。
さすが有川浩、ザ・エンタメ!という感じの作品でした。ワクワクしながら面白く読めるエンタメ作品を書くという意味では、有川浩は天才的だなと思います。少し前に「ストーリーセラー」を読みましたけど、こっちの方が断然好きです。
僕も大学時代、別に工学系だったわけでもないし、部活の種類はまるで違うけど、機研のようにちょっとトチ狂った部活にいたもので、なんか当時のことを思い出してしまいました。正直、決してあの頃に戻りたい、とは思わないんです(だって、メチャクチャ大変だったもんなぁ)。でも、今振り返ってみると、あー楽しかったなぁ、という感じが強いんですね。本書も、既にOBとなり結婚もしているある登場人物が、機研時代のことを奥さんに話して聞かせている、という体裁で話が進んでいくわけなんですけど、そこに挟み込まれる感傷みたいなものになんだか共感してしまいました。
しかし楽しいですね、機研。僕は理系だったけど、工学系にはさほど興味を持てない人間なんで(ものを作るのは嫌いじゃないけど、メカとかプログラミングとかそういうのは苦手)、実際大学時代機研みたいな部活があっても入らなかっただろうけど、こんなムチャクチャな日々は、大学時代だったら過ごしてもよかったなぁ、という気はします。
とにかくみんな、上野に振り回されっぱなしなんですね。上野が突出して『全力で遊ぶ』ことに長けていて、周りのメンバー(というか一回生)はそんな上野の奇行にさして抵抗できず無条件降伏。徐々に一回生も力をつけていくけど、奇人である上野を上回れる輩はもちろん出てこない。それでも、上野もただ酷いだけの暴君というわけでもなく、これはこれで結構気遣いも見せるんですね。その気遣いが斜め上を向いて発射されることもしばしばで、逆にありがた迷惑ということもなくはないんだけど、でもまあ何だかんだみんな楽しそう。
特に学祭の話なんか素晴らしいですね。機研はラーメン屋をやるんだけど、これがマジで学祭レベルじゃない。学祭の章のタイトルが「三倍にしろ!」なんだけど、これだけのことやったらそりゃあ三倍にもなるわなぁ、と感心です。壮絶に忙しすぎる殺人的なスケジュールっていうのも、後から振り返ってみれば楽しいものですしね。
で、機研は楽しいだけじゃないんですね。大神がいるわけです。この大神が、『機研の良心』と言っていい人間で、正直アウトのラインは一般常識から大幅に逸脱はしているんだけど、上野を頭から抑えこむのに一般常識的なラインではどうにもならない。明確な判断基準があり、常に冷静で物事を広い視野で見ていて、かつ誰であっても黙らせることの出来る威圧感を持つ大神は、上司として最高過ぎます。僕は、どんな環境にいても、上にいる人間に怒りを感じ反発してしまうような人間なんですけど、大神だったら素直に従えそうな気がします。それぐらい、大神はブレない。素敵です。
ラストのあの一枚絵のシーン(小説なのに、見開きの絵のシーンがあるのだ!)はちょっと予想外過ぎて泣きそうになりましたよ。いいなぁ、こういうの。何かに全力で打ち込んできた人間だけが辿りつける絆みたいなものに溢れていて、素敵でした。
巻末の著者あとがきで、
『男子というイキモノは独特の世界を持っていると思います。男子しか共有できないその世界は、女子から見るととてもキラキラしていて、自分もあの中に混ざりたいなぁ、といつも思います。
でもその世界は女子が一人でも居合わせると「本来の姿」ではなくなるのです。(中略)しかし、仲間の奥さんであっても女子が一人でも混じると、礼儀正しい彼らは「よそいき」の顔になってしまいます。』
と書いています。確かにそうかもしれませんね。僕はどちらかというと、そういう『男子の独特の世界』は苦手な方なのだけど、それでも言ってることはよくわかります。大人の男が、プラモデルとかフィギュアとかに入れ込む気持ちを、女性がまったく理解出来ない、というのと話はきっと同じなんだろう、と思います。男って、いつまで経っても馬鹿で、そういうところは好きです、僕も。
しかしまあ、その『直接観測できないはず』の男子の独特の世界を、女性の著者がここまで面白く描いてしまうというのはさすがだな、と思います。有川浩の小説を散々読んできましたけど、本当にこの著者は、どんな環境・どんな設定でも面白い小説を仕上げてしまう天才だな、と思います。
基本的に男子の方が共感できる話だとは思いますけど、有川浩も書いているように、女子にとってはキラキラして見える(らしい)世界なので、女性も楽しく読めると思います。なんか学生時代に戻りたくなる楽しさです。是非読んでみてください。

有川浩「キケン」




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Comment

[4058]

こんばんは。
明日が寒の底らしいです。お互いに頑張りましょう!!
『キケン』の最後が好かったでしょう! 感激でしたよね。後で考えると、よくぞそこまで…と思えるような馬鹿げた事件やイベントでも、そのときはかなり本気だったということがありますよね。通りすがりさんがお書きのようにある種の【感傷】です。若さ故の暴走とでも言うのでしょうか。もう何十年も昔のことですが、私も大学時代が懐かしいです。学生運動が盛んな時期で、勉強どころではなかったです(笑)。良かったのか悪かったのか今でも評価が分かれることでしょう。私はたっぷり読書タイムが取れたので、前者ですが。
では、この辺で。また読む本が重なったら、コメントしますね。

[4059]

こんばんわです。
なかなか寒かったですね。でもホントにこれからどんどん暖かくなるのかなぁ、と疑問だったり(笑)。徐々に暖かくはなるんでしょうけどね。
最後がよかったですね、ホント。全然予想もしていなかったラストだったんで、巧かったです。ラノベ出身だからこそ、あんな発想も出てくるのかもですけどね。いや、よかったと思います。
僕も、大学時代のことは本当に、後から振り返って、よくあんな馬鹿みたいなことしてたなぁ、という『感傷』の時代ですね(笑)。しかし、学生運動というのはまた全然違ったでしょうね。本気度から何から。僕はその時代に大学生だったらどうしてただろうなぁと思うけど、ドラさんと同じくゆったり読書でもしていたかもしれません(笑)
本屋大賞ノミネート作の「錨を上げよ」(上下の厚いやつ)を読み始めたので、しばらく感想は書かないと思いますー。

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
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1位 「「科学的思考」のレッスン
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)