黒夜行

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リセット(垣谷美雨)

内容に入ろうと思います。
兵庫の高校で同級生だった三人が、東京のデパートで偶然再会した。
香山知子は、平凡な専業主婦。外見は綺麗だけど、日々家事をして終わる人生。子育てはもうほとんど終わっているけど、日々惰性のまま過ぎていく。結局このまま家の中のことだけして人生終わるんだろうなぁ、という漠然とした不満がある。夫への不満も募っているし、人生全然うまくいかない。
黒川薫は、コンピューター関連の会社で、女性ながら副部長になったやり手である。しかし、結婚もしていないし子供もいないということが、何故か社会で大きな足かせになってしまうことにやりきれない怒りを感じている。下の妹二人は、特に努力をしたわけでもないのに、結婚して子供を産んだというだけで母親に誉めてもらえる。自分は結局、何を頑張っても誉めてもらえはしなかった。
赤坂晴美は、昼はコンビニで、夜はスーパー銭湯でアルバイトをして生活している。自分の人生が狂ったのは、高校時代のことだ。妊娠させられ、挙句暴力を受けて流産、そのまま捨てられたのだ。本当に、切実に、人生をやり直したいと思っている。高校時代に戻って…。
再会した三人は飲みに行くことにしたのだけど、<遠来の客>というその居酒屋は、なんだか奇妙なところだった。地下の部屋に通され飲んでいると…。
三人は、記憶をそのまま保ったまま、30年前、高校三年生の時代にタイムスリップしてしまったのだ…。
というような話です。
これはなかなか面白い作品だなと思います。タイムスリップしてしまうという話は結構あるけど、3人同時にタイムスリップするという設定はなかなか珍しい気もします。
三人はそれぞれ元々の世界で、大なり小なり不満を抱えて生きている。人生やり直せたらなぁ、というどうにもならない希望を抱いていたのだ。それが現実になってしまった彼女たちが、生まれ変わった人生をどう生きていくのか。なかなか読みどころのある作品です。
時代設定と主人公の性別が非常にうまく物語に絡んできます。三人の主人公はすべて女性で、しかも彼女たちが高校時代から大人になっていく間、相も変わらず『男女の壁』みたいなものが大きい、そんな世の中なわけです。
知子は、女性だから家事や子育てをするのは当然だし、さらに夫の両親の世話をするのだって当たり前だ、というような周囲の圧力の中で不満を抱えていくのだし、薫も、自身は結婚しなくても子どもがいなくても満足した生活を送れているのに、社会は未だに未婚女性をなんだか変わった生き物であるかのように扱う風潮に心底嫌気がさします。晴美だけは他の二人と違って、男尊女卑の思想なんて当たり前じゃん、女は男を立てて巧く生きていけばいいんだし、私が会社の社長だったら、結婚したらすぐ辞めるような女に仕事なんて教えたくないわ、というような考えなんだけど、その晴美の考え方にしても、そういう時代に生まれたからそういう発想になったのだ、という感じもちょっとはあって、そういう、何だかんだでうまく生きていけない女性というものの姿を描いています。
今現在でも、何だかんだ言って男が社会的に上に立つような風潮はあるんだろうけど、それでもさすがに昔よりは落ち着いているんだろうとは思います。だから現在の女性は恵まれているなんていうことは言いませんが、この作品を読んでいると、やっぱり昔の女性は、特に向上心があったり男尊女卑の思想にまるで馴染めなかったりするような女性には、本当に生きていくのが大変な世の中だったんだろうなぁ、と思います。
今の生き方が嫌だから、高校時代に戻ってやり直したいと思った三人。とはいえ、そううまく行くわけがありませんね。結局人生なんて、「隣の芝生は青く見える」っていうやつで、どんな生き方をしてたって不満はあるし、不満のまったくない人生なんて、相当運が良い人が、相当色んなことを諦めている人か、たぶんどっちかしかありえないだろうと思います。
僕は正直、人生をやり直したいなんて思ったことは一度もありません。まして高校時代なんかに絶対戻りたくないですね。あんなに人間関係が大変でめんどくさかった時代はないと思います、ホント。今後もしかしたら、『人生をやり直したい』と思う日は来るかもしれないけど、それでも僕はきっと、『過去に遡ってもう一度人生を生き直したい』とは思わないでしょうね、きっと。
本書の三人も、今度こそはこんな風に生きてやる!と決意して、人によっては綿密に計算して、そしてそういう人生をある程度手に入れることになります。それでもやっぱり、不満が出てくるんですね。
たぶん大方の人にとって、人生で手にすることが出来るモノの総量っていうのは決まっているんだと思うんです。スーパーで、『袋詰め◯◯円』みたいに、ビニール袋に詰められるだけ詰めていくらみたいな売り方とかあったりするけど、あんな感じだと思うんです。
でも、人生にあるものって、僕らが持ってるビニール袋には到底入らないぐらい多いんだと思うんですね。中には、もんの凄いデカいビニール袋を持ってて、人よりは多くのものを持つことが出来る人もいるかもしれないけど、それでも全部じゃない。僕らが抱える不満ってのは結局、自分のビニール袋に入れることが出来なかったものを見て、『あーあれが手に入らなかった』と言ってるようなもので、それを手に入れるには、今自分が手にしている何かを手放さなくてはいけないのだ、というところまで思考が進まないんだと思うんですね。
だから当然、どんな人生を歩んだって不満はあるし、手に入らないものばかりだ。それをとやかく言ってたって仕方ない。本書の三人も、最後の最後では結局そういう部分を受け入れることとが出来た(んだと思う)わけで、そういう意味ではタイムスリップした意味はあったのかもしれないな、という気はします。
三人三様のかなりタイプの違う女性が描かれているので、多くの女性が、誰かに自分を投影して読めるんじゃないかなと思います。あと、是非これは男にも読んで欲しいですね。本書で描かれているのが、『女性の総意としての意見』ではないだろうと重々承知の上で、でもやっぱり、女性はこんな風に感じているのだ、ということを知るいい機会ではないかなと思います。僕は男ですけども、本書で描かれる男はダメだなぁと思う人が多いですよ、ホント。
あと、作品全体としては大した部分じゃないんだけど、僕的には、最後にチラッとだけ出てくる池田っていう男の意見に賛同でした。「結婚なんて男にメリットがない」とか、「子供なんてわけのわからない生き物がいたら楽しい生活台なしだよ」というような意見は、聞く人が聞けば怒るかもですけど、僕はその通りだよなぁ、と思ってしまいました。
そんなわけで、タイムスリップという設定はなかなか非日常的ですが、作品全体としてはかなり身近に感じられるのではないかな、と思います。息苦しさを感じている女性だけでなく、女性を気持ちを蔑ろにしがちな男(もちろん僕も含めてですが)にも是非読んで欲しい作品です。

垣谷美雨「リセット」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)