黒夜行

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メロディ・フェア(宮下奈都)

内容に入ろうと思います。
主人公の小宮山結乃は、『無人島に何かひとつ好きなものを持っていっていいと言われたら、迷わず口紅を選ぶだろう』というぐらい、子供の頃から口紅に、そして化粧に興味があった。
結乃は大学を出て、田舎に戻って就職することに決めた。もちろん、目指すは化粧品のカウンターである。田舎に戻りさえすれば…、という甘い考えがあったことは否定しない。望んでいた会社には入れなかった。結乃は、望んでいたわけではない会社で、しかし望んでいた仕事であるビューティーパートナーとして働き始めた。デパートではなく、モールであるというのも残念だった。何もかも、うまくいかない。
あの売り場のもうひとりのビューティーパートナーは、凄腕だよ。
そう言われていたので、期待していたのだけど、馬場さんは、凄腕なのかどうか分からなかった。もちろん、馬場さん目当てのお客さんはたくさんいる。でも、凄腕、という感じは、ちょっとしない。
結乃の方はと言えば、売上はさっぱりだ。相手を綺麗にしてあげたい、という気負いが大きすぎるのか、結乃についてくれるお客さんはほとんどいない。いるのは、何故か唐揚げをくれる、でも化粧品はまったく買わない、息子の嫁の悪口を言う浜崎さんぐらいだ。
夕方、中途半端な時間に、「メロディ・フェア」が流れる。ちょうどその頃、『鉄仮面』とあだ名を勝手につけた女性がやってくる。恐ろしいくらい、分厚いメイクをした女性だ。結乃も馬場さんも、なるべく関わるまいと、視線を合わせない。
結乃は実家で、母と妹と暮らしている。家では、化粧の仕事をしている結乃は異端だ。口紅の話は、家族の間ではある種のタブーになっている。妹は大学の数学科に通い、化粧を毛嫌いしている。妹との関係は、良くも悪くもない…。
というような話です。
『化粧というものに対して、女性がどんな風に感じているのか』ということをもう少しきちんと知っていればよかったなぁ、と感じました。というかこの作品を読んで、やっぱり僕は化粧というものに興味も関心もないのだなぁ、と思いました。
こういう意見の男というのは多いと思うんだけど、僕はなるべく化粧をしすぎていない感じがいいなぁ、と思うんですね。まあとはいえ僕には、『薄く化粧をしている』のと『すっぴん』の違いがまったくわからないんですけど、『化粧が濃い』というのは分かるんで、それはあんまり好きじゃないなぁ、と思うんですね。
まあ世の中には色んな女性がいると思うんです。化粧に対する感じ方も人それぞれなんだと思います。一昔前に女子高生とかに流行ったガングロメイクなんてのもあれば、普段はすっぴんという人もいるでしょう。それでも、やっぱり女性であれば、何らかの形で化粧というものと関わらなくてはいけないんだと思うんです。するにしてもしないにしても、女性であるというだけの理由で、化粧というものに囚われてしまう、という部分はかなりあると思うんですね。
そういう、否応なしに化粧というものに巻き込まれてしまう女性が読んだらまた感じ方は違うんでしょうけど、化粧をするということが女性にとってどういう意味合いを持つのか、深いところまで理解するのは難しい僕には、ちょっと重ね合わせるのが難しい作品だったな、という感じがします。
女性の場合やっぱり、例えば、初めて口紅をつけた記憶とか、化粧で失敗した記憶とか、化粧をしないと決めた記憶とか、そういう色々な記憶があるんだと思うんですね。そうすると、せめてこういう時だけは綺麗でいたい、という女性ごころとか、あるいは化粧なんかに左右されたくないという感覚なんかは、それが自分の価値観と同じかどうかは別として、理解できるんだろうな、と思います。僕にしたら、ほんの一刷けチークを入れるだけで顔の印象がまるで変わる、という描写があるんですけど、そういうのはなかなか実感できないんですね。そこでどうしても、物語との距離感を感じてしまったなぁ、という感じはありました。
僕が好きなのは、結乃の家族の話ですね。これはいいな、と思います。同じ体験を共有している姉妹が、一方は化粧に魅入られ、もう一方は化粧を毛嫌いするようになっているのだけど、その姉妹の物語が凄くいい。どうしても口紅に魅入ってしまう結乃は、化粧を毛嫌いする妹と、どこか決定的に距離を感じてしまう。妹が化粧を毛嫌いしている理由は知っているけど、それはただ意固地になっているだけだ、と結乃は感じている。妹は、ほんの少し化粧をするだけで見違えるほど綺麗になるはずだ、と結乃は信じている。けど、他生のわだかまりが横たわっている姉妹にとって、相手への理解は残念ながら遠いんですね。
そんな中で、妹との関係性が変わっていく流れはいいと思うし、ラストの展開はなかなかいいな、と思いました。個人的には、もっと結乃の家族の話を読んでいたいなぁ、と思ってしまいました。
逆に、ミズキとの話はよくわからない感じがあったなぁ、と思うんです。ミズキというのが誰なのかはここでは書かないけど、ミズキもまた、結乃の妹とは違った形で化粧に囚われてしまっている人だったりするわけです。そのミズキの頑なな感じは、何なんだろう、と感じてしまいました。結乃と妹の話では、感じ方はまったく違ったにせよ、姉妹が経験したある出来事が決定的だったのに対して、ミズキの頑なな感じというのがどこから湧いてくるのか、まあ確かに作中で書かれてはいるんだけど、うまく実感できない、という感じがありました。確かにミズキは突拍子もないような発想過ぎるのかもしれないけど、ちょっとなかなか共感出来るというところまでいかないなぁ、と感じてしまいました。
しかし、宮下さんの、弾むような文章、とでも表現すればいいのかな、そういうのはやっぱり好きだな、と思います。うまく表現できないんだけど、弾力がある感じがするんですね、文章に。指で触ったら弾力で跳ね返されるんじゃないか、っていうような躍動感がある。別に登場人物たちの動きの表現が凄いとかそういう意味の躍動感じゃなくて、文章が躍っている感じがするんです。作風は全然違うけど、「田舎の紳士服店のモデルの妻」でも似たような躍動感を感じて、こういう文章を書ける人ってそうはいないよな、と思いました。文章の緩急みたいなのも好きで、引き締める時はぴしっと引き締める一方で、ゆるゆると緩めるところはきちんと緩んでいる。そういうバランスの良さみたいなものはさすがだなと思いました。
化粧になかなか馴染みのない男にはちょっと馴染めない物語の可能性はあるけど、化粧というものと否応なしに関わらなくてはいけない(化粧をするにしてもしないにしても、という意味です)女性にはまた別の感じ方があるんだろうな、と思いました。化粧について、何か感じ入るところのある人は、読んでみたらいいかもしれません。

宮下奈都「メロディ・フェア」




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Comment

[4042]

こんばんは。
遅ればせながら、私もこの本を読みました。化粧品売り場の方を《ビューティーパートナー》と呼ぶことなど初めて知ったことも多かったです(笑)。化粧に対する考え方が、世の中には色々あるようで、私も20代の頃は結乃の妹のように、すっぴん指向でした。肌が瑞々しいうちはそれでOKでしたが、30代からはもう無理でした(泣)。それで泣く泣く化粧をしましたが、この作品の描写のようにチークを入れるなどというようなことをしたことがありません(笑)。ファンデーションと口紅くらいです。時間にして約2分というところでしょうか。スピードメイクですよ(瀑)。誰かに対して美しく見せるという発想がありませんので、まぁそこそこ見苦しくないように…程度です。
通りすがりさんにとっては、この世界に入り込むのがなかなか難しい作品だったと思います。お疲れ様でした(笑)でも宮下さんの文章はすてきですよね。読んでいて、こちらが温かい気持ちになります。今後スーパー(というよりショッピングモール)の化粧品売り場を素通りできなくなりそうだなぁ、と思いながら読み終えました。通りすがりさんが仰るように、この結乃の家族の物語も読みたいですよね。父親が別の女性と家を出ていったことと母親が濃い化粧をしないことが繋がっているような感じを受けましたし、妹が化粧を嫌う理由も似ているかも知れません。またミズキを主人公にしても一つの作品がかけそうだとも思いました。宮下さん、今後も期待できそうですね。
そういえば、大変なことが起きました。今まで愛用していたパソコンが遂に使用不可になってしまい、エクセルに入れていた私の読書メモが(デスクトップに貼り付けていました)が読めなくなりました(泣)。これはちょっとショックです。壊れる前にきちんと保存しておくべきでした! USBにも入れてはありますが、まめに更新していなかったので、一部のデータはもう無理でしょうね(泣)。

[4043]

こんばんわです。
僕は男なんで化粧のことはよくわからないんですけど、
個人的にはどうしても、あまり化粧をしない人の方がいいなぁ、と思うんですよね。
すっぴんとか、すっぴんに見えるぐらいの方が大好きです。
今の、まつげがどひゃーんと飛び出してる人とか、
ほっぺたがピンクピンクしてる人とかはちょっとなぁー、と。
でも、女性的にはやっぱりいろいろ考え方があるんでしょうね。
なかなか実感が出来ないことが多くて、
やっぱりちょっと入り込むのは難しかったかなぁ。
でも、さすが文章は素敵です。
なんかそれまで読んできた作品とはちょっと違って、
楽しい感じの文章ですね。
思わず笑っちゃうところもありました。
あとホント、家族の話をもっと読みたかったですね。
どちらかといえば、そっちがメインでもよかったかもなぁ、なんて(笑)
宮下さんはやっぱり、家族の話を書くのが凄くうまい気がします。
パソコンは、僕も前に壊れて買い換えた時、
前のパソコンに入ってたデータ全部(デスクトップにあったものもすべて)ちゃんと移してもらえましたよ。
僕もパソコン詳しくないんでわかんないんですけど、
ハードディスクとかが壊れてなければたぶん大丈夫なんじゃないかなぁ、と。
パソコンショップに行ってみたりとかすればなんとかなると思いますよ!

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15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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小説・新書以外

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6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
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20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

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9位 山本弘「詩羽のいる街
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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