黒夜行

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デフレの正体 経済は「人口の波」で動く(藻谷浩介)

内容に入ろうと思います。
本書は、「100年に1度の不況」と言われる現代日本で、実は一体何が起きているのかを、一般にも公表されているデータから事実を広い集めることで示し、さらにそれにどう対処していくべきなのか、という提言が載っている作品です。
とにかく内容についてあれこれ書く前に。これはもうとんでもなく面白い作品でした!新書として考えれば多少分量は多い方ですが、これだけ短い内容で、これだけ分かりやすく日本の現状を説明しているというのは凄いなと思います。これはマジで、日本人必読、だと思います。
僕はこれから、本書の内容についてあれこれ書きますけど、僕は基本的に経済の知識はほとんど持っていません。だからこれから、間違ったこと(本書ではそんな風には言ってないのに、僕が勝手に解釈を間違えてしまっていること)を書くかもしれませんが、それはホントすいません。
著者は、日本の経済を語る人たちが、『事実を見ないで空気だけで物事を語っている』ことを指摘しています。『景気が良くなれば◯◯』とか、『GDPが上がりさえすれば◯◯』とか、『出生率が低いから◯◯』とか、そういう議論の前にすることがあるだろう、と言います。
それが、絶対数を知る、ということ。著者は、『◯◯率』というような数字(出生率や有効求人倍率やGDPなんかもそう)は基本的に重視しません。現在の日本の慣行では、この『◯◯率』という数字で色んなことを判断するというのがまかり通っているらしいんですけど、それは違うと言います。『◯◯率』という数字は、何を何で割っているのかをきちんと把握しないと意味が取れないし、その意味をきちんと取らないままで議論をしている人が多いらしいです。
で、著者は、国勢調査など、HPなどで一般的に公開されているデータの中から、基本的に『全数調査』されている(国勢調査は回答しない人もいたりするから厳密には全数調査ではないんだけど、例えば税務署のデータなど、否応なしに全数調査になるデータが多い)『絶対数』が扱われているデータから現状を分析しています。
日本は今『100年に1度の不況』だと言われているけど、実際はどうなのか。
例えば貿易のデータを見ると、不況だ不況だと言われているけど、貿易黒字は相変わらず。よく日本は、国際競争力がどうのと言われることが多いですが、貿易では相変わらず黒字を出し続けています。
では何が問題か。それは『内需縮小』です。とにかく、国内でモノが売れない。
この『内需縮小』の犯人を『地域間格差』だとする考える人が多いようなんですけど、著者はこれを絶対数のデータを見て否定します。著者は、小売販売額という絶対数(専門家はこのデータをあまり使わないとのこと。「水準」ばかり見ていて、絶対数に興味がないらしいです)を使って、青森と東京の、小売販売額を比較します。
すると、青森より東京の方が、小売販売額の落ち込みが一層激しい、ということがわかります。東京の独り勝ちで地方が割を喰っているというのは、あくまで「空気」でしかなく、データはそれを否定するんです。
また、絶対数を見るとこんなこともわかります。1990年からの10年間は、「失われた10年」と呼ばれているそうなんですけど(何が失われたのか、僕はよく知りませんが)、その間青森の個人所得(課税対象所得額)は4割も増えているんだとか。それが98年をピークに下がっていく。また90年代半ばは「就職氷河期」と呼ばれていて、実際90年から95年の5年間で、完全失業者は191万人から288万人に増えている。国内のどの議論でもこれは、「バブル崩壊」によるものだ、とされているらしいんですけど、でも実際同じ時期に、就業者数が246万人も増えているんだそうです。確かに、完全失業者も増えたけど、就業者も増えている。これは本当に「就職氷河期」なのか。こういうデータも、著者の言う日本経済を崩壊させつつある本当の原因で起こっているわけです。
じゃあ一体何が原因で『内需縮小』が起こっているのか。その最たる理由を著者は二つ挙げます。
『生産年齢人口の激減と高齢者の激増』と『高齢者による将来の医療費の先行投資的な意味での貯蓄』です。そして本書のメインは前者の、『生産年齢人口の激減と高齢者の激増』です。
生産年齢人口というのは、経済学的に定義された現役世代、というような感じらしくて、公的なデータでは15歳から64歳までのことだそうです。著者も同じくそのデータを使います。この生産年齢人口が激減していて、一方で高齢者が激増していることが、ありとあらゆる原因なわけです。『内需縮小』は、生産年齢人口の数が減ったことでそもそもの消費者が減っているわけだし、就職氷河期は実は、これから就職しようという世代の人口がとんでもなく多かったせいで起こっているわけです。
日本は、いわゆる『団塊の世代』と『団塊ジュニア世代』の人たちが牽引してきたと言っていいです。彼らが現役世代、つまり生産年齢人口であった時は、生産年齢人口=消費者と考えていいので国内でもものはバリバリ売れたし、企業がモノをどんどん作っても消費してくれていたわけです。ただ今、その団塊の世代の人たちが高齢者になろうとしている。さらに、子供がどんどん減っているので(著者は、『出生率』という数字についても重視しません。少子化は出生率が下がっていることが原因だ、と考えている人が多いけど、出生率の減少は少子化の原因の一つでしかないのです。もう一つは、親世代の減少です。だから、出生率が上がりさえすれば少子化が解消する、というのは間違った意見なんだそうです)、生産年齢人口が劇的に減少している。
データを見ると、どんどん人口が流入しているはずの首都圏(実際に人口は増えている)でも、生産年齢人口は激減しているんだそうです。つまり、人口増加は、高齢者ということになります。
とにかく今、「100年に1度の不況」どころの騒ぎではなく(本書では、バブルさえも人口問題として説明されているので、景気が良いとか悪いとか、そういう議論は著者にとってはナンセンスなんですが)、「2000年に1度の生産年齢人口の減少」というとんでもない事態なわけです。著者は色んなデータを挙げて、高齢者がこれからどのぐらい増えるか、また生産年齢人口がこれからどのぐらい減っていくかという推計をするんだけど、これがちょっととんでもない感じです。高齢者が増えすぎる一方で生産年齢人口は減り続け、たとえ今年から出生率が2になっても生産年齢人口が減り続けるという推計なんだそうです。
生産年齢人口が減るから国内の消費が落ち込む、国内の消費が落ち込むから企業は値下げをする。値下げをすると特に若い世代がより給料をもらえなくなる。さらに国内の消費が減るという負のスパイラルが、現在の日本で起きているんです。
じゃあどうすればいいのか、という話も本書に書かれていますけど、それは是非読んでみてください。
とにかく本書は、物凄く分かりやすいんです。もちろん、僕は経済の知識がまるでなく(経済学の知識、ではなく、現実の経済の知識が、ということ)、データを読み解くのも苦手なんで、そういう意味で難しいなと感じる部分はあったんですけど、著者の言っていることは明快です。
とにかく、『経済学ではこう言っている』なんてことは一言も言いません(想定される反論に対抗するため、という意味では出てきますが)。著者はとにかく、実データ(しかも、率ではなく絶対数)を見て、そこから分析して出てきたことを事実として受け止め物事を考える、というやり方をしています。この話の持って行き方は素晴らしいと感じました。
というか、僕は新聞やらテレビやらあんまり見ないんで、経済の専門家と呼ばれる人たちがどんな議論を展開しているのか知らないんですけど、本書を読んで、『◯◯率』という数字を基にあれこれ言うのは危険なんだな、というのがわかりました。著者は一貫して絶対数にこだわっていましたけど、確かに絶対数を見ると、『◯◯率』という数字から得られる感覚と現実の状況が乖離しているな、と感じることが多かったです。というか、どうして専門家たちは絶対数のデータを使わないんだろうなぁ。
僕には、著者が言っていることが正しいのかどうか、というのは正直判断出来ません。人口の増減によって日本経済が上下してきたという説明はものすごく分かりやすいし説得力がありましたが、著者が講演なんかをすると反論する人もいるようだし、amazonのレビューを見ても納得できない点を挙げている人がいたんで、どうなのかはわかりません。ただ、『経済学の前提ではこうなるはずだから』とか、『(データ碌に見ずに)現状はこうなっているはずだ』というような話の進め方をする人たちよりは、断然話に説得力が感じられました。実データを基に現状を把握し、それに見合った仮説を当てはめ検証するというのは、まるで理系の研究のようなステップだったので、理系の僕には分かりやすかったんだろうと思います。逆に、なまじ経済学の知識があったりする人には、受け入れにくいと感じる部分が多かったりするのかもしれません。でもそれは、例えば物理の世界で量子論なんてのが出てきた時の物理学者の反応と同じで、古典力学の常識では到底受け入れられないようないくつもの事実や仮説が生まれてきたけど、最終的には多くの物理学者がその、古典力学に反する現実を受け入れ、量子論という分野が誕生したわけです。著者の意見も量子論のようなもので、古典力学の常識から抜け出せない人からは猛反発が来るけど、最終的には正しいと判断されるのではないか、という感じがします。
感想で色々書こうと思ってドッグイヤーをしまくったんですけど、いざ書こうと思うとどう整理したらいいのか難しくてあんまり書けませんでした。本当に、読み進める度にドッグイヤーしたくなる箇所があって、『なるほど!』と思う場面が本当に多い本でした。とにかく、テレビや新聞なんかで『不景気だ』とか『失業率がどうたら』とかそういう話が出てくるんだろうけど、そういうのに惑わされないような視点を身につけることが出来る本なんじゃないかな、と思います。本書で書かれていることが正しいかどうか分かりませんが、『現実を把握するためのデータの分析の仕方』とか『相手の意見に反論するやり方』とかを学べるという、そういう副次的な効果もあるんじゃないかなと思いました。大げさではなく、本書は日本を救う作品なんじゃないかな、という感じがしました。
とにかく、日本人必読の作品です。経済に興味ないとか、日本に興味ないとか、色々あるとは思いますけど、読んでおいて損はない作品だと思います。新書でこれほど濃密な作品もなかなかないと思います。是非是非是非是非読んでみてください。というか、必読です!

藻谷浩介「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」




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2013年の個人的ベストです。

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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
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6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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1位 千早茜「からまる
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