黒夜行

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悪の教典(貴志祐介)

内容に入ろうと思います。
本書は、今年あらゆるランキングをかっさらった話題作で、貴志祐介の久々の長編小説です。
舞台は町田市にあるとある高校。そこに昨年から英語教師として勤務している蓮実聖司が主人公。
蓮実は学校内で「ハスミン」という愛称で呼ばれ、絶大な人気を誇っている。キレの良い口調で進められる授業は大人気だし、生徒のトラブルにもいち早く気づき、相談に乗り、解決してくれる。蓮実が受け持つクラスには、ハスミンの親衛隊なる組織まであり、学校側もあらゆるトラブルに強い蓮実に頼り切っているところがあった。
しかし中には、蓮実に対して不信感を抱く人間もいる。それは、ある種の「勘」としか言いようがない。周りを納得させるだけの理由は言えないのだけど、なんとなく危険を感じるのだ。
実際蓮実は、実に危険な人間であった。蓮実の真の目的な、学校内に王国を築くことであり、その目的のためにありとあらゆることを利用し、また問題が起これば、誰かを陥れあるいは殺すことも厭わない、そんなサイコパスだったのだ。もちろん、ボロを出すような人間ではない。その異常に高いIQと、周囲を洗脳してしまう強い力を利用して、邪魔な者は排除し、かつ欲しいものはすべて手に入れる、ということをずっとやってきた。
学校では、様々なトラブルが起こっていた。生徒が試験で大規模なカンニングを計画している、なんていうのはまだ可愛いもので、教師の飲酒運転や教師の自殺など、次から次へと大事件が起こる。もちろん裏では、蓮実があらゆる糸を引きつつ、自分の有利な状況を生み出そうとしているのだ。
そうやって、徐々に王国を築きあげてきた蓮実だったが、ある時これまでの努力を完全に放棄せざるおえない事態になってしまい…。
というような話です。
僕の感想は、『面白い!』というより、『巧い』という感じでした。このニュアンスの違い、分かってもらえるかなぁ。
面白いことはもちろん面白いんです。というか、当然のことではあるけど、並の作家の作品と比べると圧倒的に面白い。ただ、物凄く面白いんだけど、どことなく物足りなさを感じてもしまうんです。
これはちょっとうまくは説明できないですね。なんだろう。面白くないわけじゃないし、凄く面白いんだけど、でも突き抜けないというか。
だから、本書への印象は、『面白い!』というより『巧い』という感じなんですよね。
巧さは本当に際立っている、と感じました。まずもって、これだけの分量の作品を、まったく長さを感じさせずにスイスイ読ませてしまうというのは、物凄い力量だと感じました。『読みやすい文章を書く』というのは簡単なようで実は相当難しくて、それだけとってもこの作品の巧さはずば抜けていると思います。
それに、これだけ長い物語なのに、飽きさせないで最後まで読ませる、というのも凄い。全体の構成力が凄いし、テンポもいい。ドキドキハラハラさせて盛り上げるし、緩急もいい。とにかく、『小説』という器の完璧さっぷりはちょっと凄いですね。長い物語を破綻なく書ける作家はいるだろうし、長い物語を飽きさせずに読ませる作家もいるだろうし、読みやすい文章を書ける作家もいるだろうけど、それらを全部完璧にやってのける作家っていうのはなかなかいないんじゃないかな、と思います。
しかし、それだけ巧いのに、どうしてかこの物語は、『消費されていく物語』という印象が強いのだなぁ。これを引き合いに出すのはフェアではないと思うのだけど、ライトノベルを読んだ時のような感じ。凄く読みやすいし、面白いけど、でも『消費されていく物語』だなぁ、という感じ。そういう感じが本作にもあると思います。
まあ、題材もあると思いますけどね。貴志祐介の作家としての力量が高いんでそうは見えないけど、本書の題材って、ある種マンガ的というか映画的というか(マンガや映画を下に見てるとかそういうつもりはまったくないですよ)、そういう感じがします。だって、ハスミンみたいなサイコパスが教師をやってて自分の王国を作ろうとしてる、っていう設定だったらマンガみたいじゃないですか?貴志祐介の料理の仕方が巧いから、リアリティも抜群だし、作品自体は全然マンガ的ではないのだけど、題材だけみたら、という話。凄くライトな設計をされているのだけど、分量は重厚なので、そのギャップが何か変な感じを醸し出しているのかなぁ、という感じはします。
ホントにうまく説明は出来ないんだけど、ムチャクチャ面白いのは確かなんだけど、暇つぶしに読むような本を読んだみたいな読後感なんですね。それが不思議。
個人的には、蓮実の感覚は分かる。なんて書くと危険人物扱いされそうだけど。僕もどちらかと言えば、他人への共感が薄いと思う(それでよく小説が読めるな、と言われそうだけども)。蓮実のようにほぼゼロ、なんていうことはないから別に支障はないけど、時々、あーやっぱ俺は感情が薄いなぁ、と思うことがある。僕も蓮実のようにとんでもないIQの持ち主だったら、蓮実のような生き方を目指したかもしれないなぁ。凡人でよかった。
とにかく、純粋なエンタメだと思って読むと、メチャクチャ楽しめると思います。実際、すっげー面白いです。でもだからと言って、人に積極的に勧めるかというと、ちょっと微妙なラインですね。すっげー面白いんだけど、人に勧めるのはなんか違うような気がする、という不思議な作品です。なんだろうなぁ、ホントにうまく説明できない。買って損するような作品ではないので、ちょっと興味あるんだけど、という人は是非読んでみてください。

貴志祐介「悪の教典」







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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)