黒夜行

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日傘のお兄さん(豊島ミホ)

内容に入ろうと思います。
本書は、3編の短編と1編の中編が収録された作品です。

「あわになる」
私は今、猫としか意思の疎通が出来ない。死んでしまって、幽霊のような存在になっているのだ。帰るべき家がない私は、タマオ君の家に行くことにしました。中学の時好きだった男の子で、私の葬式と同じ日に結婚をしたようでした。
他のことはどんどんと記憶から薄れていっていくのに、タマオ君のことだけは忘れないでいます。もう言葉が届かないというのが哀しくて、それでもタマオ君の家から離れられません。

「日傘のお兄さん」
島根に住んでいた子供の頃、近くの竹やぶで遊んでくれた「日傘のお兄さん」。喧嘩ばかりしていた両親の代わりに私の相手をしてくれた。その後両親は離婚、母親に連れられて東京に出てきた私は、母子家庭で貧しい思いをしながら、それでも健全に中学生をやっていた。
そんなある日突然、「日傘のお兄さん」が目の前に現れた。追われているからかくまって欲しい、と言われた私だけど、次の日学校で、ネット上で<日傘おとこ>っていうロリコンの変態が話題になっていることを知る。「日傘のお兄さん」はどうしてか、ロリコンの変態として追われているみたいなのだ。なのに私は、どうしてか「日傘のお兄さん」と一緒に逃亡することに…。

「すこやかだから」
「おとこおんな」と言われるぐらい男みたいな性格で、なのに身体の成長は著しい根岸は、どうも最近周りの女子から疎まれていることを敏感に察していた。成長することに喜んでいる根岸はどうも異端らしいのだ。
そんなある日根岸は、ナイフを持っているという噂の転校生の男の子と出会う。二人は一緒にいるようになり、それによって根岸は、学校にいないような存在として扱われるようになった…。

「ハローラジオスター」
ド田舎の三流大学に入学することになった知世は、こんなド田舎でも全力で青春を謳歌するべく、サークル選びからガンガン行った。そこのサークルで、みんなから「ノブオくん」と呼ばれているシャイな先輩を見かけて、知世は一瞬でロックオンした。ノブオくんはまったく知世に心を開いてくれないのだけど、それでも一緒にいた。
ある時喧嘩になってそれっきりになってしまったけど、自分が就職活動をするようになって、漠然とだけどノブオくんのことが分かるようになってきた…。

というような話です。
なかなかいいかも豊島ミホ、と思いました。正直冒頭の二編の「あわになる」と「日傘のお兄さん」があんまりだったので、うーん、と思っていたのだけど、「すこやかだから」と「ハローラジオスター」が凄くよくて、後半二編の雰囲気の長編があったら、これは結構仕掛けアリだな、と思える感じの作品でした。読む前から分かってはいたけど、やっぱり短篇集なんでなかなか仕掛けづらい作品ではあるんだけど。
本書の表題にもなっている「日傘のお兄さん」は、本書唯一の中編なんだけど、僕は、ちょっと長いなと感じました。こういう、『◯◯するだけ』(この作品の場合、『逃げるだけ』となるけど)みたいなストーリー展開は結構好きなんだけど、でもそういう作品こそ、読ませるための工夫が結構必要で、それがないとダラダラしてしまって、ちょっと長いな、という感想に僕の場合はなってしまいます。中学生の主人公が、子供の頃にお世話になったというだけの理由で(まあ、『だけ』ではないんだろうけど、作品をそのまま受け取るとそう感じられる)「日傘のお兄さん」を許すのだけど、でもそういう展開であるなら、もう少しその子供の時どれだけ「日傘のお兄さん」の存在に救われていたのか、という描写は必要なんじゃないかなぁ、なんて思ったりもしましたし。ちょっとこれは僕の中ではあんまりでした。
「あわになる」も、幽霊になった主人公が中学時代好きだった男の子を日々観察している、という設定があんまりうまく活かされてはいない感じがして、ちょっとなぁと思いました。
「すこやかだから」はよかったです。第二次性徴期に女子がどんなことを考えるのか、というのは男の僕には遠い話ではありますけど、根岸みたいなスコーンとした感じのキャラクターは結構好きだし、そのスコーンとしたキャラのはずの主人公がそうでなくなっていくという展開も面白いと思いました。
ままならない屈折みたいなものを抱えた二人が、しかも男の方が遙かに深いそれを抱えている状態で、それでも一緒にいたいと思うどうしようもなさ、みたいなものが表現されててよかったです。根岸が転校生の男の子の方にベクトルが向く過程が唐突な感じがしたので、もう少し長い話でもよかったんじゃないかな、という感じがしました。
「ハローラジオスター」は一番好きな話です。初めは、イケイケな女子(っていうのは古いかな? 笑)の知世が、周りの男にガンガンアタックしていくだけの話かなと思ってたんだけど、さにあらず。ノブオくんとの恋愛模様も、それまでの知世の恋愛経験にはないような実におかしな状態で楽しいんだけど、ノブオくんが突然怒る辺りから物語のテンションが変わってくる。それまでノーテンキに生きてきた知世が、就職活動をするようになり、その過程で、かつてノブオくんに突きつけられた言葉の意味を深いところで理解することになる。さらにある出来事があって、ノブオくんの近況を知ることになった知世が、それまでの自分の殻を捨て去るかのように変わっていくという物語で、これが凄く素敵。これだけの設定で長編は無理だろうけど、この雰囲気で長編にしてくれたら、かなり傑作になるんじゃないか、と個人的には思った。
後半二編から、豊島ミホはかなり注目すべき作家かもしれない、と思えました。本書はちょっと推すには弱い作品ではありますけど、ちょっと別の作品も試してみようかと思います。本書は、好みもあるでしょうけど、僕は後半二編は凄く読む価値アリだと思います。読んでみてください。

豊島ミホ「日傘のお兄さん」




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2013年の個人的ベストです。

小説

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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年の個人的ベストです
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1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
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11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)