黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

はじめまして、本棚荘(紺野キリフキ)

内容に入ろうと思います。
本書は5編の短編が収録された、連作短編集です。
舞台設定だけ書いておきましょう。
本作の舞台は、東京にある「本棚荘」。大家さんが変わった人で、『昔はお家賃は本で支払うのが普通だったのに、最近の人は本を読まないから仕方なく現金で貰っている』と言っている。空っぽの本棚ばかりのあるアパートである。
そんな本棚荘に住むことになったわたし。わたしは、本棚荘にずっと住んでいたのだけど外国に行くことになった姉の代わりに本棚荘に住むことになった、という感じ。

「201号室 とげ抜き師のいた部屋」
わたしは、姉が住んでいた部屋に留守番として住みつくことになった。姉は、わたしたちの地元である『山』で、とげ抜きをしていた。姉は、東京でとげ抜きをする、と言って東京に出て、そして今では外国に言ってしまった。
姉がいなくなったことを知らない客がちらほらとやってくる。わたしは、姉よりとげ抜きがうまくない。いや、うまいと言われたことがあるけど、それじゃダメだ、と言われたのだった。それでも、抜いて欲しいと言われるので、わたしはとげを抜く。

「303号室 猫遣いのいる部屋」
本棚荘には猫がいた。大家さんが飼っているのとは別の猫のようだ。猫はいいのだけど、飼い主はあまりよくない感じである。
303号室には猫遣いが住んでいた。最近では仕事がないけど、行かず後家の女性に猫踊りを見せるのだそうだ。姉が猫遣いにお金を借りていたらしく、返すように言われた。なんだかあんまりいい人ではないようである。

「203号室 眠り姫のいる部屋」
ヒナツさんはずっと寝ている。この間弟さんが来て、姉をよろしくと言われたのだけど、よろしくも何も部屋から出ない。生活能力がない、と弟氏は言っていた。確かにその通りだと思う。
とにかく留年しまくっている大学を卒業してくれるのが弟の望みのようなのだけど、夏休みが明けても一向に大学に行く気配のないヒナツさんを無理やり大学に連れて行くわたし。

「302号室 サラリーマンと植木鉢の部屋」
ある日本棚荘の前に、サラリーマンが捨てられていた。植木鉢を抱えていた。なんだかんだで本棚荘に住むことになったサラリーマン氏だが、挨拶をするだけで仕事はしていないようだ。どうしてもサラリーマン氏が本棚荘にいることに納得の出来ないわたしは、大家さんに談判する。野良のサラリーマンは怖いですよ、と。

「さようなら、本棚荘」
姉が帰ってくることになった。ただの留守番であるわたしは、これを機に本棚荘を出ることにした。大家さんにも挨拶をした。しかし大家さんはわたしに残ってほしいらしく、それならばと猫遣いを追い出すことに決めたらしい。大家さんは本気だ。

というような話です。
いやはや、正直そこまで期待してなかったんですけど、これはなかなか面白いですね。著者紹介に『シュールな視点で独特な世界を生み出す』って書いてあるんだけど、まさにその通りだなと思いました。個人的な印象では、小川洋子の作風をちょっとマイルドにしてユーモアを足した感じです。
何なんでしょうね。ストーリーらしいストーリーは、あんまりないっちゃないんです。本棚荘を中心として、そこに暮らす変な人々と変わった出来事を描いてみました、はいオシマイ、という感じの作品なんです。
でもこれが面白いんですよね。なんだろう。やっぱりキャラクターがまず一番素敵だなと思います。特にヒナツさんは最強。実際自分の近くにこんな人がいたらめんどくさくってイライラするだろうけど(笑)、自分が関わらなくてよくて遠くから眺めているだけでいいならこんな面白い人はいないだろう、という感じ。とにかく、ありとあらゆることをやりたくなくて、「ちゃんとやりましょう」と言ってくるわたしをあの手この手でかわそうとするんだけど、それがもうおかしくって。わたしと一緒に大学に行くことになった日の服装なんか、もうムチャクチャですからね。ヒナツさんの発想、素敵だわぁ。
サラリーマン氏もいいですね。何しろ、「捨て猫」ならぬ「捨てサラリーマン」ですからね。どっからそんな設定を思いついたのやら。これでホントにサラリーマンやれてたんだろうか、と思うくらい何も出来ない人で、でも挨拶とか言葉遣いとかだけはちゃんとしてる。このサラリーマン氏もまた一悶着繰り広げるんだよなぁ。
猫遣いが出てきた時、これは変わったキャラだなぁ、と思ったんだけど、その後ヒナツさんやサラリーマン氏など強力なキャラクターが次々に出てきたんで、猫遣いのキャラが薄く感じられるほどです。本棚ばっかりあるのに住人は誰も本を読まないという謎のアパートですけど、でも本棚荘ちょっと住んでみたいですね。でもこれだけ変わった人ばっかりが集まってると、変人じゃないと入居できないような気がして、そうなると僕のレベルじゃ入居できないような気がします。
変なキャラクターたちによる、すっとぼけた会話が実に楽しいです。シュールはシュールなんだけど、でもぶっとびすぎていないところが素敵です。それぞれの人は、それぞれのやり方で何かに真剣なんだけど、それが普通の人とはちょっと違った攻め方をしているために、滑稽に見えてしまうんですね。そう書くとなんとなく、伊坂幸太郎っぽいかもと思ったりしますね。読んでる最中はそんなこと全然思いませんでしたけど。
本書では、色んなことがあんまり説明されません。『とげ抜き』とは何なのか、『サラリーマン氏』は一体何者なのか、『本棚荘』では本当に家賃は本で払えるのか、など、全部謎のままです。そういう、伏線めいたものが物語の中にぴったり収まっててくれないと嫌だ、という人には気になってしまうかもですけど、説明されないまま物語が進んでいくというのもなかなか面白いものです。『とげ抜き』は特に気になりますけどね。なんでしょうね。
なんかうまく説明できないんだけど、物凄く楽しい小説です。僕らが日常生活している中で感じるか感じないかぐらいの微妙な違和感を増幅して見せてくれているような、そんな面白さがあります。キャラクターや会話が本当に魅力的で、本棚荘の話をずっと読んでいたい気分になります。しかしホント、面白さをうまく文章にしにくい作品だなぁ。ちょっと是非読んでみて欲しいです。これはすごく面白いと思います。

紺野キリフキ「はじめまして、本棚荘」




関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/1878-c15dcdaa

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
14位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
11位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)