黒夜行

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ドキュメント宇宙飛行士選抜試験(大鐘良一+小原健右)

内容に入ろうと思います。
本書は、2008年に10年ぶりに行われた、日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)による5回目の宇宙飛行士選抜試験を、長い長い交渉の末初めて取材に成功したNHKのドキュメンタリー番組の書籍化です。
NHKのディレクターである著者は、JAXAが10年ぶりに宇宙飛行士を募集するということを知り、すぐさま取材の交渉に入った。しかし、JAXAは独自取材の難しい組織として有名だった。それは、巻末のあとがきに書かれたあるエピソードを読んでもわかる。NHKによるこのドキュメンタリーが放送された直後、JAXAに苦情が殺到したそうだ。それは、マスコミや記者たちからのもので、どこが取材をしても得られる情報に変わりはない、というのが共通認識だったのだ(とはいえ、「試験の密着取材ができると教えてくれれば、うちの社も申し出た」なんていう苦情を入れるのはおかしいな、と思いました。NHKだってもんの凄い長い交渉の末、JAXAの英断により取材が出来たわけで、「教えてくれれば」なんていうのはちょっと違うだろうな、と)。
しかし著者らは諦めなかった。宇宙に行くことに誰も驚かなくなった時代だからこそ、選抜試験に人生を賭ける若者の姿を世に訴える必要がある、と力説したのだ。億単位の税金をかけて宇宙に言った宇宙飛行士たちが、寿司を握ったり書き初めをしたりと遊んでいる映像ばかり見せられては、宇宙開発の重要さを伝えきることは難しいだろう、という思いが彼らにはあった。
長い長い交渉の末、NASAの取材許可まで取り付けた彼らは(NASAによる宇宙飛行士の選抜試験の公開も、50年以上の歴史の中で初だそうです)、書類選考の段階から密着し、落選はしたけど注目すべき応募者の取材をするなどし、そして最終的に、二次審査にまで進んだ10名の最終候補者たちの壮絶な選抜試験を目の当たりにする。
10名に残ったのは、自衛隊員・パイロット・女医・国際的な研究者・ベンチャー企業のサラリーマンなど多種多様だ。
実は宇宙飛行士というのは、平たく言うならJAXAの社員でしかない。給与も、30万ちょっとと、死と隣り合わせの仕事にしては破格の安さだ。当然、今の職を辞すことになるのだから、給与水準が大幅に下がるという人もいる。それでも彼らは、宇宙飛行士を目指すのだ。
10名は2週間の長期休暇をもらい、内1週間はJAXAで、残りの一週間はNASAでの試験となる。
JAXAでは、閉鎖環境適応訓練設備と呼ばれる、国際宇宙ステーションを模した環境に1週間置かれる。1週間外には出られず、外界との接触はマイクから聞こえる声のみ。その中で、15分刻みという過酷なスケジュールの中、数々の難しい課題をこなさなくてはならない、という試験だ。
課題は多岐に渡り、この閉鎖環境適応訓練設備での意見は本書のメインとなる一つである。最後の10名に残ったツワモノでも、閉鎖環境内で多大なストレスにさらされると、いつもの実力を発揮できないという状況に苦戦することになる。
その後NASAに行き、長年宇宙飛行士を養成してきたNASA独自の選抜を受ける。とはいえNASAの選抜で大きな比重を占めているのが、面接だ。技量などより、面接によって推し量れる部分を重視しているようだ。
そうして、最終的に宇宙飛行士が決定されるまでの流れを、それぞれの最終候補者たちの履歴なんかにも触れながら描いていく作品です。
これは面白かったなぁ。素晴らしいノンフィクションだなと思いました。
とにかく宇宙飛行士への道が、最強の就活と呼ばれるのが分かる気がします。とにかく、求められる能力がハンパない。しかもその能力というのは、天才的な頭脳や超人的な運動神経ではないのだ。『宇宙という逃げ場のない特殊な環境にも耐えうる強い精神力』『国籍を超えて、誰からも慕われ信頼される人としての魅力』こういった、これまで人生を通じて培ってきた『人間力』が試される場なのだ。
宇宙飛行士の選抜の特殊さは、最終的に選ばれた宇宙飛行士の顔ぶれを見れば理解できる。具体的には触れないけど、一人意外な人物が宇宙飛行士として選抜されているのだ。100点はなくてもいい、でも50点があってはいけない、すべてにおいて60点以上を取るということがいかに難しいことなのか、というのがよく分かります。
僕なんか、そもそも就活をしたことない人間で、想像しただけで就活が嫌すぎて逃げた人間なんだけど、そんな人間からすると、彼らが与えられている課題は凄なという気がしますね。僕も、一つぐらいだったら悪くない評価を取れる課題はあるかもしれません。でも、すべてにおいて少なくとも平金以上の評価を取らなくてはいけないというのがどれほど難しいことなのか、凄いものだなと思いました。
そう考えると、これまでの宇宙飛行士選抜試験は非公開だったとはいえ、みな同じような試験をくぐり抜けているんだろうから、宇宙飛行士ってほんとに凄い人ばっかりなんだろうなと思って感心しました。
一方で、NASAの選抜試験において、相当面接に比重が置かれているというのも、JAXAとは対称的で面白かったです。しかしその面接は並の面接じゃないんですね。とにかく、深く深く掘り下げられる。NASAはとにかく、候補者たちの『生き様』を理解したいと思っているようだ。これまでの様々な経験から、そこさえきちんと掴めれば、ちゃんとした宇宙飛行士の選抜は出来るという結論に至ったようである。日本とアメリカでは、宇宙飛行士に求められることに違いがあるとはいえ、そういう試験の日米における差みたいなものも面白いなと思いました。
本書では、候補者それぞれの人生や家族にもスポットを当てているのだけど、その中で一番面白いなと思ったのが、若くして機長になった白壁の妻・礼子さんの話。収入や死亡率の高さ、アメリカに移住しなくてはいけない、自宅も手放さなくてはいけないなど考えると、今の生活の方がいいのでは?と取材クルーに質問された礼子さんは、こんな風に答えます。

『夫は常に、お客様を乗せて飛行しています。1つ間違えれば、人様を巻き添えにしてしまう可能性がいつもあり、大きな責任を背負わなければなりません。しかし宇宙飛行士であれば、夫の命だけを心配すれば済むので、今よりも気が楽になるかもしれません』

この答えはなかなか凄いな、と思いました。もちろん、本心かどうかという部分はなかなか判断できませんけど、少なくともそういう答えをきちんと明示出来るというのは凄いな、と。夫が、より死亡率の高い職につくことを、人様を巻き込まなくてもいいから多少気が楽になるかも、と答えられるのは、やっぱり夫婦の絆なのかなぁ、なんて考えちゃいました。
そんなわけで、これは面白いノンフィクションだな、と思いました。本当は、そのNHKのドキュメンタリーを見たかったですね。本でも十分面白いですけども。宇宙とか特に興味のない人でも、現代社会は常に『選び選ばれる』ことにさらされています。そんな社会の中で生きるヒントみたいなものが隠されているのではないか、と思います。是非読んでみてください。

大鐘良一+小原健右「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」




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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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小説・新書以外

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14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
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2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
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7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)