黒夜行

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学校のセンセイ(飛鳥井千砂)

内容に入ろうと思います。
本書は、「はるがいったら」でデビューした著者の作品です。
主人公は、高校の社会の教師である桐原。桐原は、教師になりたくてなった、というわけではない。塾講師をした後、ダメ元でいろんな教職員試験を受けたら、名古屋でたまたま受かったため、こうやって教師をしている。
旧友が桐原につけたあだ名が、『キングオブ面倒くさがり野郎』。そう、桐原はとにかくあらゆることがめんどくさい。『めんどくさいことをいかにして避けるか』というのが、桐原の行動原理のすべてだ、と言ってもいい。それでも、外面や体面は器用に取り繕えてしまう性格のため、深い付き合いでないとなかなか桐原のそのめんどくさがりの部分は分からない。そうやって、要領よくと言えば要領よく生きてきたのだ。
高校でも桐原は変わらない。空気は読めるし、口は達者だから、周りから白い目で見られたり、問題を犯したりなんてことは間違ってもしないし、どちらかと言えば人目のあるところでは至って真面目な人間(を装っている)のだけど、人目がなくなると(あるいは気を許せる人だけしかいない場所でなら)すぐにめんどくさがり屋モードになる。生徒を心配する『フリ』も、友人を心配する『フリ』も、同僚教師を心配する『フリ』も得意だけど、それは全部『フリ』だけで、本当は心の中ではめんどくせーって思ってる。
そんな桐原も、教師二年目。なんだかんだとうまくやっている。問題のある生徒への対処も、自分に好意を寄せてくる生徒への対処も、自分で何でも抱え込んでしまう同僚教師への対処も、複雑な恋愛をしている友人への対処も、もう板についたようなものだ。
ある時桐原が、名古屋で唯一友人と言っていい中川と一緒に飲んでいる時、店内でとんでもなく奇抜なファッションをしている女性を見かけた。実に印象に残る出来事もあって、なんとなく気になっていた桐原だったが、ひょんなことから桐原は彼女と知り合うことになり…。
というような話です。
いやー、これは傑作でした!素晴らしいよやっぱり、飛鳥井千砂は。まだ、「はるがいったら」と本書の二作しか読んでないんだけど、これはホント凄い作家だわ。
でも、初めに書いておくけど、飛鳥井千砂の作品の魅力を文章にするのって、ホント難しいんです。「はるがいったら」の時POPを作ってもらったんだけど、その時も文章考えるの相当苦労したからなぁ。ホントに文字通り、言葉に出来ない魅力に溢れていると思う。いや、そこを言葉にしてくれよ、と言われるかもですけど。
まず何よりも驚いた点は、桐原の性格がまったくもって僕と同じだった、ということ。これはビビった。シンクロ率95%ぐらいじゃないか、と思う。ほぼすべての場面で、行動原理が同じ。桐原の内心の呟きが、あー俺もその場面だったらまったく同じこと考えるわ、っていうくらいドンピシャだったもののあって、驚いたなんてもんじゃない。マジで俺の生活が覗かれてて、それを元に書いたんじゃないかと思ってしまったわ。
でもどうなんだろう。僕だけに限らず、今の時代って本書の桐原のような人間って結構多いんじゃないかと思う。色んなことにやる気はない、でもいろいろ器用だから外面は取り繕えてしまう。いやだなーとか思うことがあってもそれなりにうまいこと対処出来ちゃうし、周りの空気も読めるから周囲に気を遣うような言動も得意なんだけど、でも実はあんまり心はこもってない、的な。まあ他の人はともかく、僕はあまりにもドンピシャでちょっとびっくりしてしまいました。
例えば、あるシーンに、桐原のこんな内心の呟きがある。

『説教するんだ。優しいな、偉いな、そいつら。俺は、他人は他人の主義だから、そんなに人と重く関わりたくないんだよな。自分の言った言葉が誰かに影響を与えるなんて面倒くさいじゃん。だから説教なんてしないだけだよ。』

わかるわー、って感じ。メチャメチャわかる。そう、やっぱり、人を叱るとかっていうのは、趣味でやってるような人ももちろんいるだろうけど、基本相手のためを思ってやるのよね。俺は、そういうのできないんだよなぁ。ヒントぐらいは示唆してもいいんだけど、そのものズバリは指摘したり説教したりは、基本的にはしないだろうな。相手との関係性にもよるだろうけど。
こういう、キングオブ面倒くさがり野郎が教師なわけで、学校でのあれこれも色々と面白い。どこの学校にもいそうな(僕の高校時代はいなかったけど)悪ぶった生徒の問題ある言動への対処とか、副担任である桐原が担任である先輩教師に抱える鬱陶しさとか、桐原のことをずっと好きだってことがモロバレなある女性ととのやり取りとか、マジで重い相談をしてきたある生徒に感じた劣等感とか、そういう、学校の中では特別大した話ではないんだけど、キングオブ面倒くさがり野郎である桐原の視点を通すとまた新鮮に見えてくるような、そういう描写がうまいな、と感じました。
でも正直本書は、学校の話がメイン、というわけでもないんですね。学校を離れた、プライベートでの場面も多い。『学校の話』というよりむしろ、『教師・桐原の話』という感じです。
プライベートの方でまず筆頭に挙げなくてはいけないのは、超奇抜ファッションを着こなすガリガリの女性。飲み屋で衝撃的なその姿を目撃してから、色々とあって、桐原は彼女と知り合いになるわけなんだけど、この奇抜ファッションとのやり取りが結構面白い。恋愛に発展するんだかなんなんだか判然としない微妙な距離感といい、そもそも桐原が奇抜ファッションに対してどう感じているのかもうまく言語化出来ないところとか、色々話していく内に何かが桐原の中で変わっていく過程とか、かなりいいです。特に、キングオブ面倒くさがり野郎の桐原が、本書ではまあいろいろなことを経験するわけだけど、でも結局、奇抜ファッションと出会ったことが変化への大きな後押しとなった部分はあります。もちろん、それ以外の要素もありますけど、読み始めた時は、この奇抜ファッションがストーリーにどう絡んでくるんだかまるで想像できなかったことを考えると、なかなか驚嘆すべき展開ではないかと思いました。
また、桐原の名古屋での唯一と言っていい友人の中川もなかなかいい味出してます。正直、こんな女友達欲しい、と思いました。ただし、通常モードの中川の方だけ(笑)。中川には「通常モード」と「恋愛モード」があって、通常モードの時は一人の女友達として言いたいことも言える実に気楽な間柄なのだけど、「恋愛モード」の時は、中川が陥っている何だか厄介な恋愛の愚痴をあーだこーだと聞かされる羽目になるので、桐原的には勘弁して欲しい、という感じなのだ。とはいえ、そこさえ多少我慢すれば、中川ってかなりいいよなぁ、と思っちゃいました。
あとは、いろいろあって知り合う別の高校に通う涼とか、桐原の高校時代からの腐れ縁で薬剤師の浅見とかのやり取りも、キャラクターがしっかり活きていて面白いです。何よりも、著者が女性だとは思えないほど、男視点の描写が凄くうまくて、女性作家が男主人公を書いてる、という感じが全然しなかったのが凄かったです。
ただ時々、女性が女性に感じるようなことを桐原に呟かせたりしてる場面が出てきたりします。僕の感覚では、正直男はそこまで考えないし、感じ取れないだろみたいなところまで踏み込んでくることがあるんですね。それが自覚的なのかどうか分からないんだけど、これが全然不自然じゃないんですね。女性が女性に向けた場合凄く刺々しくなってしまうことを、男に言わせることで凄く丸く感じさせることが出来るという点で、これは面白いなと思いました。小説だからこそ出来ることなんだと思うんだけど、やっぱり小説って面白いな、と思いましたね。
そんなわけで、これは傑作です!メチャメチャ面白い!作家としての力量がありまくります。文章もキャラクタ-も設定も構成も展開も全部素敵です。是非是非読んでみてください!

飛鳥井千砂「学校のセンセイ」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)