黒夜行

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死刑(森達也)

内容に入ろうと思います。
本書は、映像作家でありジャーナリストでもある著者が、真正面から「死刑」というものを扱い、悩みながら深く考える、という本です。
ノンフィクションと言えばノンフィクションですが、普通ノンフィクションというと、作家自身の陰はあまり濃くなくて、対象となるものを客観的に描いていくものが多いと思いますが、本書はそうではありません。作家・森達也が、あらゆる取材や思考を通じて、悩み・迷い・揺らぐ・その過程を描いている作品です。なので、「死刑」をテーマにしたノンフィクションでもあり、また作家・森達也の内面を描いてもいます。私小説ならぬ、私ノンフィクション、というところでしょうか。
森達也はとりあえず出版社の人に、「死刑をテーマにした作品を書く」とだけ言います。そこから実際本の形になるには相当の時間が掛かるわけですが、何故スタートが「死刑」だったのかというと、そこにはオウム真理教との関わりが関係してきます。
森達也は自主制作ドキュメンタリー映画として、オウム真理教を扱った「A」「A2」という二つの作品を撮りました。その過程で、多くの元幹部たちと会ったわけですが、それはすなわち、死刑確定囚との付き合いでもあったわけです。そんな中で森達也は、死刑制度というものに対して考えるようになっていきます。
初めに書いておくと、森達也は死刑制度廃止派です。つまり、死刑制度はなくした方がいい、という立場。死刑制度にはもう一つ、死刑制度は存続させるべきだという存置派があります。
あるアンケートによれば、現時点で日本では、約8割の人間が死刑制度存置派なんだそうです。つまり、死刑制度はあるべき、という人が大多数、ということですね。国会議員内には、死刑制度廃止派という人達の集まりがあったりするらしいんですが(その人にも森達也はインタビューに行っています)、しかしその人達は声高に主張しません。何故なら、それが選挙に影響を与えるからです。現在の日本では、圧倒的に死刑制度存置派が多いため、死刑制度を廃止しようという声を上げることは、国会議員としての首を締めることになりかねない、というような状況なんだそうです。
森達也は、元刑務官・犯罪被害者の遺族を多く取材するジャーナリスト・冤罪だと判明し独房から戻ってきた元死刑確定囚・刑務所所長・死刑廃止を訴える団体・死刑確定囚に教誨する牧師・死刑に立ち会ったことのある元検事・死刑になりそうな事例ばかりが舞い込んでくる刑事弁護士・犯罪被害者の遺族・死刑をテーマに描く漫画家などなど、とにかく死刑に関係する様々な人々に話を聞きに行きます。森達也自身は、廃止派だと言いながら、実は迷っている。迷っているというか、分からない。何をどう考えればいいか、何が正しくて何が間違っているのか。考えれば考えるほど、思考は揺れる。廃止派という立ち位置はあまり揺らがなくても、思考はどんどんと揺らぐ。一つところに落ち着かない。色んな人に話を聞く度に揺れる。その揺れている軌跡を、本書では捉えて文章にしている、という感じがあります。
僕は正直、死刑制度については、本書を読んだ今でも、特別意見を持てません。それは本書でも繰り返し触れられているように、あまりにも死刑というものが隠されているからです。そもそも死刑というのは、犯罪者や犯罪被害者の遺族にでもならないとなかなか実感できるものでもないのでしょうけど、さらに国の方針として、死刑に関するあらゆる情報が非公開のような扱いになっているので、そのために僕らは、きちんとした議論が出来るだけの情報を得ることが出来ない、という状態なんです。
じゃあ、死刑制度存置派が8割という状況はどうしてそうなったかというと、やはりオウム真理教の事件がきっかけだったようです。あの事件以降、罪を犯した者への厳罰化を求める声がかなり高まったようです。死刑制度も、そんなに悪いやつなら殺しちゃえよ、という程度の意見によって8割という数字になってるんだろうな(←とこの部分はあくまで僕の予想ですけど)と思います。
僕は、本書を読み終えて、死刑に関する様々な知識を得て、様々な立場の人の話を聞いたけれども、それでも、やっぱりどうしても、死刑制度というものについて考えるという入口に立てないな、という感じがしました。世の中のどこかに、『廃止派』『存置派』と書かれたドアがあるとして、僕はそのドアのある場所まで辿りつけていない、という感じ。だから、どちらにするかなんて選べない。
やっぱりどうしても、死刑制度というのは、僕らの日常からかけ離れすぎている。不謹慎な言い方をすれば、どこか外国の戦争みたいな感じに思える。間違いなくこの国の出来事であるのに、まったく身近なものに感じられない。外国の戦争に第三者として適当な意見を言うのと同じくらいの程度でしか、死刑制度に意見を持つことが出来無いな、と思いました。
もしこれが、自分が死刑確定囚になる・自分の身近な人が死刑確定囚か犯罪被害者になるというようなことになれば、ようやくそこで身近な問題として捉えられるんだろうと思います。僕にはどうしても、少なくとも今の段階では、死刑制度について明確な意見をもつことは出来無いな、と感じました。
それでも、議論することに意味がないとはもちろん思いません。でもこれは正直、結論の出ない議論なんだろうな、と思います。本書でも書かれていたけど、既に死刑制度に関わる議論は、論理の応酬ではなくなっている。著者は、論理的には死刑という制度はおかしいし矛盾しているという。しかしその矛盾を抱えていても、死刑制度存置派は揺るがないのだ。ならば、死刑制度の議論はもはや論理の問題ではないということになる。
情緒の問題なのだ。
しかし、情緒というのは明確な基準ではない。人それぞれ感じ方の違うものだ。死刑制度は、論理的な議論が出来ない(少なくとも今現在はそういう状況になってしまった)、そして情緒は明確に割り切るだけの快活さを持たない。だから議論は硬直してしまうのだ。
というわけで、森達也がどう悩みどう揺れたのか、あらゆる立場の人は死刑制度に対してどんな考えを持っているのか、ということについては是非本書を読んでもらうとして、以下では、本書を読んで知った雑学的なことを書こうと思います。
まず驚いたのは、現在では状況は変わっているらしいのだけど、ほんの少し前までは、死刑が執行されても、法務省は死刑囚の氏名や罪状などは伏せていたらしい。ニュースに流れる情報は、法務省や拘置所の職員らからのリーク情報だったんだそうです。最近では改善され、法務省が死刑が執行された死刑囚についての情報を公開するようになったらしいですけど、これはちょっと驚きました。そこまで情報が秘匿されてたら、さすがに何も考えられなくなるよな、と。
あと、小説なんかを読んでると、無期懲役って宣告されても10年ぐらい経てば仮釈放されるみたいなのが出てきますけど、本書によれば、実際はそうでもないようです。2006年度のデータですが、無期刑受刑者の仮釈放数は3人で、平均在所期間は25年だそう。さらに、仮釈放されない囚人も多数いるらしいです。無期刑受刑者全体が何人いるのかというのがよくわからないですが、それにしても、僕も小説やドラマなんかで、無期刑なら早ければ10年ぐらいで出てこれると思ってたんで驚きました。実際はそうでもないみたいです。
EUに加盟するには死刑制度を撤廃しなくてはいけないという条件があるとか。それも凄いですよね。先進国ではもはや、日本とアメリカぐらいにしか死刑制度はないそうです。だからと言って、じゃあ死刑制度はやっぱりおかしいよね、というのもまた違うと思いますけど。でも、EUに加盟するのに、死刑制度がどうこうとか、あんまり関係ないと思うんですけどね。
あと、戦後日本において、冤罪元死刑囚、つまり一旦死刑確定囚となったものの、再審制度によって冤罪が判明し釈放された人は、現在までに4人いるそうです。しかもそのすべてが、1980年代に無罪が確定したわけで、それ以降は一人もそういう人はいないんだそうです。その事実だけから判断すると、なんとなく、冤罪なのに死刑になった人っていそうだよな、と思います。
まあそんなわけで、死刑制度が身近に感じられないという点が難しいですが、内容は著者自身の心の動きを追っている感じの本なのでとっつきやすいと思います。本書を読んで、死刑制度について自身の立ち位置を決められるかどうかは別として、死刑に関する様々な知識は間違いなく得られると思います。なかなか興味深い作品だと思います。是非読んでみてください。

森達也「死刑」




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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

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