黒夜行

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現職警官「裏金」内部告発(仙波敏郎)

というわけで今回から、これまで載せていた小説はなし。なんとなくいきなり内容紹介に入るっていうのは寂しい感じもします。
というわけで内容に入ろうと思います。
本書は、今はもう定年退職している、元愛媛県警巡査部長だった著者が、現職警官としては前代未聞の「裏金の内部告発」を行った、その人生を綴った作品です。それまでも、警察OBやあるいは匿名での内部告発はあったものの、現職警官が実名で裏金を内部告発するというのは前代未聞で、そんなことをしたのは後にも先にもこの人だけだそうです。
この内部告発があって以降、もしかしたら警察組織は多少は変わっているのかもしれませんが(あんまりそれは期待出来ないんですけど)、以下の記述はとりあえずすべて、本書で書かれていること、つまりバリバリ裏金作りが行われていた時代のことを書くつもりです。
基本的に、すべての警察官は、裏金作りに協力させられています。というか、警察組織の中で、裏金作りに協力しないものは昇進も出来ず、問題児だという扱いをされるんだそうです。
最も分かりやすい裏金作りは、捜査協力費をネコババするというやり方です。捜査協力費というのは、捜査に協力してくれた一般市民に謝礼として払う、という名目で国から支給されている予算ですが、これは99%裏金に化けているそうです。実際、捜査に協力して警察から謝礼金をもらったなんて話、ほとんど聞いたことないですからね。
で、どうするかというと、警察官や警察職員などに、とにかく大量にニセ領収書を書かせます。電話帳から抜き出してきた一般市民の名前を勝手に書き、まるで市民に捜査費を渡したという風に装って、丸々ネコババしてしまうんだそうです。これが警察では、もう日常茶飯事で行われているんだそうです。
本書では、他にも裏金の手段は書かれていますけど、全部書くのはめんどくさいので、とりあえずここではニセ領収書を書くこのやり方だけを紹介しておきます。
著者は警察に入り、所轄署で当たり前のようにニセ領収書を書くように上司に言われるわけですが、著者はこれをきっぱり断るわけです。著者はまだその時点では、「ニセ領収書を書かないこと」がどれほどのことを引き起こすのかちゃんとは分かっていません。とにかく正義感から、正義を追い求める警察がニセ領収書なんていう犯罪に手を貸してはいけない、という一心から、ニセ領収書を書くことを拒むんですね。
しかしここからがまあ大変なわけです。まずニセ領収書を書かないことで上司から疎まれ、ありとあらゆる警察署・駐在所を点々とさせられます。さらにニセ領収書を書かないことで、昇進試験に通らないということも判明します(ちなみに裏金とは関係ない話ですが、警察の昇進試験は不正だらけだそうで、めぼしい部下には上司が試験問題を試験前に流出させるんだそうです)。著者は、24歳という若さで巡査部長の昇進試験に合格するという、かなり優秀な人だったのだけど、ニセ領収書を書かないというただそれだけの理由で、試験の成績がよくても昇進出来なかったそうです。結局著者は、定年退職するまで巡査部長という肩書きでしたが、そんな警察官は恐らく著者ぐらいではないか、と書いています。
しかしこの著者、警察官としては本当に優秀だったようで、公安や捜査二課から、ウチに来ないか、と誘われることがあったそうです。でも、「自分はニセ領収書を書かないですが、それでもいいですか?」と返すと、それから誘いはこなくなったとか。
その後本当に色んなことがあって(ちょっとびっくりするような波乱万丈の人生なんですけど、それはここには書かないので、本書を是非読んでみてください)、著者は本当に辛い人生を歩むことになるのだけど、その後色々と出会いがあって、現職警官として初の裏金告発に踏み切ることになるわけです。しかもその後も、あらゆる嫌がらせを受けつつ定年までまっとう。自分が定年を迎えるまで警察が自分を辞めさせることが出来なかったことが、自分の主張が間違っていないことの証明であると、著者は胸を張っています。結局最後の最後までニセ領収書は書かかず、警察内部の他の不正にも手を染めず、人一倍仕事を熱心にやり(職務質問から指名手配犯を捕まえたことも。ニュースで、指名手配犯を捕まえたというようなのがよく流れるけど、あれはヤラセなんだそう。指名手配犯を捕まえるという名目でお金が入ってくるので、被疑者の居場所を掴んでから指名手配にする、というのが常套手段なんだそうです)、最後まで清廉潔白な警察官として定年まで勤め上げたわけです。凄い人だなと思いました。
本書では他にも、いかに警察という組織が腐っているか、ということがいろいろと書かれます。警察は、捜査に協力してくれた市民にあげるという建前の捜査協力費だけでなく、刑事たちが捜査に掛かった費用を捻出する捜査費用さえ裏金にしてしまうので、刑事たちは捜査を自腹でやっているそうです。で、自腹を切って捜査をするくらいならパチンコでもするさ、と言って、事件が起こるとパチンコをやる刑事が増えるんだそうです。そりゃあ犯罪検挙率が減りますよね。
犯罪検挙率も操作された数字だそうです。検挙率の分母は「犯罪認知件数」なわけですが、警察がある処理(現場臨場簿というらしいですが)をすると、それは警察が「認知した」というカウントにはならないそうです。だから事件が起こった時、重大事件以外でこれは犯人が捕まりそうにないなと判断すると、この現場臨場簿という処理にしてしまうんだそうです。しかも、事件発生時は現場臨場簿で処理した案件でも、もし犯人が見つかれば、元々の処理を被害届に変えてしまうそうで、それで検挙率の数字はアップするそうです。
警察のミスで事件の捜査が遅れたり間違った方向に進んだ場合、マスコミをうまく操作して、あたかもそれが警察のミスではない、という風に見せかけるというのも、警察の常套手段だそうです。「桶川ストーカー事件」でも、僕は覚えていませんが、被害者女性がもの凄く悪い女性であるように報道されたらしいですが、それは警察のミスを隠すための情報操作なんだそうです。
犯人が見つからない事案に対して、周辺に住む元犯罪者の中からアリバイのないものを適当に引っ張ってきて罪を着せるなんてこともやってたらしいし、報奨金が出るから飲酒運転の取り締まりを強化した時は、運転手に膨らませてもらう風船を後ですり替えるなんてことまでやるそうです。正直別にこれまでも、警察のことを信頼していたなんていうことはまるでないですけど、やっぱり酷いんだなと思います。もちろん使命を持った素晴らしい人もいるんだろうけど、でもやっぱり、とにかくあらゆる意味で警察とは関わり合いにならないこと、これが一番いいんだろうな、と思います。
著者の生き様は、ここでは具体的には書かないけど、まあ壮絶です。普通なら途中で自分の信念を諦めてしまってもいいような、それぐらいの辛い人生を歩んでいます。それでも著者は、ニセ領収書を書くことを拒絶したこと、そしてそれを貫き通し最後には告発をしたことを後悔していません。もちろん、もし自分がそうしなかったら…、という想像は常に頭を過ぎったことでしょう。それでも、自分の人生に誇りを持っている。何よりも凄いのは、これだけの人生を歩んできたのに、著者は警察を愛し、生まれ変わっても警察官になりたい、と言っていること。どこまで強い人間なんだ!と思います。僕は本書を読むまで、この仙波敏郎という方の名前さえ聞いたことなかったのですけど(すいません)、同じ人間として、こういう人がいるんだということに驚愕するし、同じレベルまでとは決して言えないけど、僕も出来うる限り不正には手を染めない人間でいたいなと思いました。でも、こういう人生は、ちょっと僕には耐えられないだろうなぁ…。
最近また、警察や検察に対する批判みたいなのが出ているような気がしますけど、もっともっと批判を浴びせて、警察を僕らが変えて行かなくちゃいけないんだろうな、と思いました。たぶん今のままだと、日本は犯罪者が野放しになる危険な国に成り果ててしまうと思います。もっと色んな人がこの問題に関心を持つように、とにかく皆さんこの本を読んでみてください。

追記)amazonのレビューで、本書に星一つの評価をしている人の意見が、僕にはまるで理解出来ない。もちろん、本に書かれていることがどこまで事実なのか、ということは常に意識して読まなくてはいけないと思う。それでも、そのレビュアーの書いている意見は意味が分からない。
制限速度で車を運転していて流れに乗れていないドライバーの例を出しているけど、勘違いしてはいけないのは、この事例は『制限速度の設定そのもの』が間違っているわけで、『制限速度を守って運転しているドライバー』が間違っているわけではない。あるいは、『制限速度の設定はおかしくないか?と声をあげない僕たち』が間違っているのだ。そこのところを間違えてはいけない。

仙波敏郎「現職警官「裏金」内部告発」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)