黒夜行

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生命保険の「罠」(後藤亨)

一通り片付けを終えた時、リビングの電話が鳴った。出てみると、敬叔父さんからだった。
「もしもし敬叔父さん」
「志保ちゃんか。落ち着いて来いて欲しいんだが」
 敬叔父さんは、自分自身が落ち着いていないような声でそう言った。少し声が震えているようにも感じられた。もしかしたら少し前まで泣いていたのかもしれない、と志保は思った。
「お母さんが見つかったよ」
 敬叔父さんの声はあまりにも疲れきっていて、志保にもそれがいい知らせではないということが充分に分かった。
「山で見つかった」
 敬叔父さんは、死体で、とは言わなかった。言わなくても通じると思ったのだろう。
「志保ちゃんには、謝らなくちゃいけないことがある」
 志保はずっと返事をせず、ただ敬叔父さんの話を聞いているだけだった。敬叔父さんも、志保が返事を返せないのは当然だと思っているのだろう、志保の返事を待つことなく、先を進めた。

「失踪シャベル 21-6」

内容に入ろうと思います。
本書は、アパレルメーカーを経て日本生命に営業として転職し、現在は十数社の保険を取り扱う保険のセレクトショップを立ち上げ独立している著者の、保険や保険業界に関する「真実」を暴露した本です。
本書は2007年に出たものなんですけど、ここ1年くらい、新書で同様の本が結構一杯出たなという印象があります。ただ本書は、少なくとも僕の認識では、新書で保険に関する暴露本が出るきっかけになった本ではないか、と思っています。もしかしたらまったく勘違いかもしれませんけども。
とにかく本書では、現在の保険業界がいかに間違ったことをしているか、そして保険に入ろうとする人はもっと保険を知ろうとしなくてはいけないのだ、ということが分かりやすく書かれています。著者自身の営業マンとしての経験と知識を踏まえ、これまでどうだったのか、業界はこれからどうなるべきか、そして何よりもお客さんが一体どういう風に行動するべきなのか、という点が詳しく書かれています。
これは実に面白い本でした!僕は現在、国民健康保険以外には一切保険に関するものには入ってないんですけど、本書を読んで、そもそも僕にはあんまり保険に入る必要はなさそうだな、と思えたし、もし入るとした場合、どんな点を一番考えなくてはいけないか、という点が明確になったな、という感じがします。
とにかく僕に理解出来たことは、『保険にしか出来ないことはあるけども、それはそう多くはない』ということです。
例えば本書では、「学資保険」や「子供保険」は不要だ、と書いています。理由を聞けば当然ですが、保険というのはあくまでも、『将来的に何か不測の事態が起こった時、その時点での預貯金で賄えない状況』に対して掛けるべきものです。しかしそもそも、『進学』は『不測の事態』ではありません。わざわざそれに対して保険など掛ける必要はないのです。
また、死亡保険や入院保険などもありますが、これらについても『確率』を考えなくてはいけない、と著者はいいます。テレビのCMなんかでは万が一に備えてという言い方をされますが、そもそも60歳までに死ぬ確率というのは10%程度だそうです。しかもこれは、『ありとあらゆる条件の人』を対象としたデータなわけです。『保険に入ることが許されているほど健康な人』を対象に同様の調査を行ったら、結果はもっと低くなるでしょう。
つまり、60歳までにたった数%しか死ぬ確率がないのに、そこに多額のお金を掛けることは果たして正解なのか、ということです。これは、人によって答えが違います。それが必要だ、と評価する人もいるでしょうし、それは要らないかな、と評価する人もいるでしょう。だから、死亡保険が不要だと言ってるわけではないんです。ただ、そういう確率を考慮し、自分の収入や将来設計なんかもきっちりと考慮した上で、それでも死亡保険に入るというのなら問題は、ないということです。問題なのは、保険の勧誘員に万が一のことばかり聞かされて、あー保険に入っておかないとマズイかな、という曖昧な理由で入ることです。
入院保険についても同じです。そもそも最近は、入院する期間はかなり短くなってきています。入院費用が一日1万円だとして、一週間入院しても7万円です。それは果たして、預貯金で賄えないほど不測の事態なのでしょうか?
またガンになった場合、これだけ治療費が掛かる、とパンフレットなどで宣伝されますけど、そこには小さく、「医療費の還付は考慮されていません」と書かれているんだそうです。これは、月の医療費が8万100円を超えた分については自己負担分が還付されるという制度で、こういう制度をきちんと利用すれば、がんの治療費もそこまで高くはならないわけです。著者曰く、50歳くらいまでに100万円程度の貯金があれば、ガンも医療費の面ではそこまで恐れることはないと考えているそうです。
もちろん、交通事故に遭って下半身不随になるとか、そういう不幸なことは起こりうるでしょう。実際にそうなったとしたら、保険に入っていないとなかなか厳しいでしょう。でも、そうなる確率は相当低いわけです。もちろん、お金が余っている裕福な家庭なら、そういう部分にお金を回しても問題ありません。でも、普通の一般家庭が、そういう確率の低いことについて大金を掛けるのは、果たして正しいのか、ということをもっと保険に入ろうとしている人は考えなくてはいけない、ということなんですね。
他にも、保険商品や保険業界について、何故こうなっているのか、どういう部分を隠しているのか、これはどういうことなのか、ということを凄く分かりやすく書いているので、保険については基本ちんぷんかんぷんの僕でも普通に理解できましたし、なるほどと思える部分がたくさんありました。凄く有用な本だなと思いました。
というわけで、保険の部分について書いてるとキリがないので、他の雑学的な部分についていくつか書いてみようと思います。
まず僕が凄くびっくりしたことが、保険会社というのは「相互会社」という業態で、その場合、「社員」というのは「保険の契約者」つまりお客さんのことなんだそうです。これは知らなかったなぁ。そうなのか。保険に加入したら、その会社の社員になるんだって。へーって感じですね。
ハンバーガーの値段には、家賃やスタッフの給料などの経費が含まれているのと同じように、保険商品の値段にも経費が含まれているんだけど、これを一般的な保険会社は公表しないんだそうです。でもいろんなデータから考えると、20%~40%ぐらいだそうで、中には50%ぐらい取ってるところもあるとか。ちょっと異常な経費率だそうですよ。
あと本書が凄く良心的だなと感じるのは、著者自身が自身の『過ち』をきちんと書いていることです。日本生命にいた頃に良くない営業をしていたことを書いているのもそうですけど、もっと驚いたのが、今やっている保険のセレクトショップでも、完全にお客さんのためにというわけにはいかない、と告白しているところ。詳しくはめんどくさいから書かないけど、そういう自らの悪いところも隠さず書いているので、逆に書かれていること全体に信頼が持てるな、という感じがしました。
もちろん、僕は保険に無知なので、著者が明らかにおかしなことを書いていてもわからないだろうと思います。それでも、本書に書かれていることはかなり有用だし信頼できるんじゃないかなぁ、と思ったりします。
そんなわけで、これはメチャクチャ面白いと思いました。物凄く実用的な本だと思います。ぜひぜひ読んでみてください!

後藤亨「生命保険の「罠」」




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Comment

[3991]

とても魅力的な記事でした。
また遊びにきます。
ありがとうございます。

[3992]

ありがとうございます。
そう言ってもらえると嬉しい限りです!

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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)