黒夜行

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大阪は踊る!(高遠響)

それで会田君も理解したようだった。ここは一旦謝っておいて、事情は落ち着いたらまた説明すればいい。きっとそんな風に考えたのだろう。勢い余って立ち上がっていた会田君は冷静になったようで、立ったままで頭を下げた。
「ごめん。もうしません」
「うん、分かったから」
 それでも会田君は頭を上げないから、もういいからと言って会田君を座らせた。
「ちょっとごめん。少しだけ部屋に戻るね」
 会田君は、志保が部屋で泣いてくるのだと思ったのかもしれない。志保の顔を直視せず、俯いたままで少し頷いた。志保は立ち上がって、食器をキッチンの流しに下げてから自分の部屋へと戻った。
 部屋には、供養を終えて元通りになったマルイさんと、志保が愛用しているシャベルが、いつものところに並んで置かれていた。志保はシャベルを掴むと、静かにリビングへと戻っていった。

「失踪シャベル 21-5」

内容に入ろうと思います。
物語は、大阪・道頓堀に石油が湧くというとんでもないところから始まります。
市役所の「どないしよう課」にいる前田拓郎は、石油の湧き出す道頓堀を一目見ようと集まった人々を整理すべく道端で立っていた。どう見ても冴えない青年である。
この「どないしよう課」は、市役所のお荷物が集められた課である。広瀬という食えない課長、華子というちゃらんぽらんに見える女性、そして拓郎の三人しかいない。皆、何らかの事情で島流しにされた面々だ。
大阪市はこれから、市を挙げて石油事業に取り組んでいくと発表し、国内だけでなく海外からも注目を集めることになります。一方で、市役所のお荷物である「どないしよう課」は、市役所を飛び出し、「たこつぼ」という道頓堀のたこ焼き屋さんの二階を事務所に据えて、そこで道頓堀商店街をバックアップするという形で協力していくことになった。
大阪市は、初めのウチは順調だった。市長の館山は、大阪府の介入を最小限に抑えつつ、すべてを大阪市でなんとかやってやろうという気概に溢れていた。
しかし、徐々に事態はとんでもない方向に進んでいく。やがて、国が大阪市に介入を始めるようになっていくのだが…。
というような話です。
いやー、これは予想外に面白い作品でした!正直、全然期待してなかったんです。こういっちゃなんだけど、アルファポリスってそこまで大手版元じゃないからそこまではいい原稿が集まるわけじゃないだろうって印象もあったし、装丁がちょっとちゃちい感じだったりという理由で、まあそんな大した作品じゃないんだろうなぁ、という先入観で読み始めました。
いやー、しかしですね、これがまあ面白い。話自体は、荒唐無稽を三乗したような話で、正直言ってまあありえないでしょう。道頓堀に石油が、という件ももちろんだけど、あの人物が実はああだったとか、最後の方でこんなとんでもない展開になるとか、とにかくありえないんだけど、でも妙に読ませるんですね。もしかしたら、小説の細かなところが目につく人はあんまり楽しめなかったりするのかもしれないけど、僕は面白ければ細部にはそこまでこだわりがある人間ではないので、これはアリだなと思いました。
まあよくこんな話を考えたものです。作家としてずっとやっている実力のある作家なら、『道頓堀から石油』という設定から、この話のような面白い展開を書けたりするのかもですけど、これを書いているのがデビューして間もない新人作家ですからね。別に、デビューしたての作家がここまで書けたから凄いっていうんじゃなくて、作品単体として見て充分レベルの高い作品だと思うんだけど、さらにそれに、新人がこれを書いたのだなぁ、と思うと余計に驚きが増すという感じです。
まず何よりも、「どないしよう課」の面々が実に素晴らしい。広瀬の破格の存在感や、華子の鬱陶しいまでの押出しみたいなものも読んでて楽しいんだけど、何よりも拓郎の成長目覚しいところがいいですね。本書は、「大阪再生物語」としてもちろん読めるんだけど、一方で「拓郎成長物語」としても読めるんですね。それぐらい、拓郎の存在感&成長っぷりは素晴らしい。
それに、「どないしよう課」と初めの初めっから関わっていた道頓堀商店街の面々も素敵です。とにかくこの、市役所内で疎まれているだけの存在だった「どないしよう課」と、近くに石油が湧いたというぐらいの関わりしかない道頓堀商店街が、最終的にとんでもない力を発揮してとんでもないことをやり遂げてしまう、という展開が圧巻ですね。
また、そんな彼らとは真逆の位置にいる、キナ臭い方の動きも面白いわけです。とにかく国は、大阪市が威張って石油で儲けようとしてるのが気に食わなくて、無茶苦茶なやり口でそれを奪い取ろうとする計画を立てるわけで、それがホントに無茶苦茶なんですね。そこまでするかいな!っていうような策謀を巡らせて、なんとしてでも大阪市から油田を奪おうとする。その中心にある人物がいるわけなんですけど、これがまたまあクセモノで、この冷徹なクセモノのドSっぷりも読んでてなかなか面白かったです。
あと本書では、まさに「大阪愛」としか言いようのない部分が描かれます。もちろんそれぞれの地域で、そうした地元への愛着みたいなものは皆さん持っているでしょうけど、僕の勝手な印象では、大阪と京都ほど地元への愛が強い地域ってなかなかないんじゃないか、と思っています。まさに一丸となって、という表現がぴったり来るような団結っぷりで、もしこの物語の舞台が大阪以外だったら、ここまでの物語はなかなか成立し得なかっただろうな、と思います。
その中でも最も活躍しているのは、世界最強と言っていいだろう、「大阪のオバチャン軍団」です。たぶん世界中回っても、大阪のオバチャンに勝てる民族はいないんじゃないかっていうぐらい、とんでもなく強い。その強さが、本書では遺憾なく発揮されていく。これがまた痛快で素晴らしいです。
前半は、おちゃらけた部分もあり、また政治的な真面目な部分もありという感じですが、後半から怒涛の展開で、息つく暇もないというぐらいの超スピードの展開になります。おいおい、これをどうやって収めるわけよ大阪人!というようなハラハラドキドキが素晴らしいですね。全然関係ないんですけど、金城一紀の「レヴォリューションNo.3」で出てきた「ええじゃないか踊り」のことを思い出しました。これは、高校生たちが街中を混乱させるために、突然「ええじゃないか踊り」を踊り始め、次第にそれが周りの人に伝染し、最後は街中の人が踊りまくって大変なことになる、という感じだったと思うんだけど、本書もなんだかそんな感じ。どちらにしても、その場にいたかったなぁー、と思わせるような雰囲気で、その場にいられたら物凄く興奮しただろうなと思います。
本書で惜しむらくは、装丁でちょっと失敗しているな、というところ。実にもったいない。装丁だけみると、B級感溢れる、ただおちゃらけているだけの軽い小説みたいな風に見えるんだけど、全然そんなことはないのです。メチャクチャ熱い話で、装丁からだとなかなかそれが伝わらないだろうな、というのが凄くもったいない気がしました。
というわけで、これはエンタメとしてかなり面白い作品だと思います。大阪人じゃなくても熱くなれる物語です。表紙の印象とは違ってかなり骨太のしっかりした物語で、読後感は爽快だと思います。是非読んでみてください!

高遠響「大阪は踊る!」




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[6107]

この本が気になって調べていたらこの記事を見つけました。
もしよかったらこの本でなんか素敵な言葉とかあったら教えてください!

[6115]

おー、コメントありがとうございます~。
でもすいません。さすがに読んだのが3年前なんで、何にも覚えてないなぁ。
部屋の中もカオスなんで、この本を発掘するのは、ほぼ不可能です(笑)

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)