黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

グラデーション(永井するみ)

21

 志保は、昼間作っておいたビーフシチューを鍋で温め直していた。会田君はリビングにいて、テレビを見ている。ここに来るまで会田君は、これまでと同じ調子で話しかけてきたのだけれど、志保はどうしてもこれまでのようには受け答えが出来なかった。会田君も志保の様子がおかしいことに徐々に気づいたようで、少しずつ会話が少なくなっていった。会田君は、どうして志保の機嫌が悪いのか分からず、あちこち視線をさまよわせたり、頻繁に志保の顔を見ては逸らしたりということを繰り返していたのだけれど、やがて諦めたのか居心地悪そうに志保の隣を歩いていた。
 夕方から会おうという志保に、会田君は初め訝しがっていたのだけれど、ビーフシチューの準備をしたいのだというと納得したみたいだった。ここでお母さんの得意料理であるビーフシチューを会田君に食べさせるのは何だか皮肉な感じがして、志保はその思いつきが気に入ってしまったのだ。

「失踪シャベル 21-1」

内容に入ろうと思います。
本書は、桂真紀という一人の少女が大人になっていくまでを、それぞれの年代ごとに描いた作品です。14歳から23歳までの成長を描いています。
真紀は、女の子で群れるのはなんとなく好きになれないし、男子も女子もみんな恋愛がどうしたっていう話ばっかりするのについていけない。そんな女の子。自分が周りにうまく溶け込めていないことも、ちょっと浮いてるってことも分かってるんだけど、でもなんだかうまくやることは出来ない。
学校中で人気の先輩に、一緒に帰ろうと声を掛けられた時も、真紀はどうしたらいいのかよくわからなかった。周りは羨ましがるけど、自分の気持ちはよくわからない。親友の睦美と一緒に帰る方が楽だし楽しい。なんだか、よくわからない。
家族とも、微妙な距離感を覚える。姉は社交的で明るく、誰とでも仲が良い。そして母親も、そんな姉と一緒にいることが楽しいようだ。真紀は、そんな姉と母親の話の聞き役で、それに不満はないけども、昔姉がいなくて母親と二人きりの時、母親が「珠ちゃんがいないと、しんねりむっつりね」と言われたことが、まだ心に刺さっている。なんだかうまく、姉や母親と付き合っていくことが出来ない。
中学、高校、大学と成長していく中で、たくさんの人と仲良くなるというのは相変わらず難しいけど、それぞれの時代で、この人となら、と思える親友と出会うことが出来る。でも、なんだか真紀は取り残されているような気がするのだ。
ぐるぐると答えの出ない問いに振り回されるような、決して生きやすいとはいえない真紀のささやかな人生を、丁寧に丁寧に描いた作品。
永井するみは基本ミステリ作家だという認識があって、ミステリ方面での作風はそこまで好きっていうほどでもないんだけど、こういうタイプの作品も書けるんだなぁ、とちょっと新鮮でした。本書と似たような感じで「スコーレNo.4」という作品があって、「スコーレNo.4」は僕の中ではとんでもなく傑作なので、それと比較してしまうと難しいですけど、でも本書もなかなかいいじゃんという感じでした。予想してたよりも結構よかったなという感じです。
ストーリー的には、劇的なことは特に何も起こらないんですね。中学時代のキャンプとか、同級生の恋愛とか、姉の結婚とか、親友とのふらり旅とか、ちょっと寄ってみた写真展とか、そういう本当になんということもない日常がメインで描かれてきます。そしてもちろんその中に、真紀の恋愛も描かれていくわけです。
真紀は、どこのクラスにも何人かはいそうな、大人しくて女子同士であまり群れなくて、というタイプなんだけど、真紀はそういう自分を、大丈夫かな私?と思っている。姉みたいにもっと社交的だったらなとか、こういう場面だったらこうするんだろうなとか、なんで私こんなことが出来ないんだろうとか、そういう風にすぐ悩んでしまう。結構自分と似てるところもあって、親しみを感じる部分もありました。些細なことで悩んだり、人間関係を深く考えすぎたりっていうのは僕もよくあって、あーもっと楽に考えられないものかなぁ、という感じはするんだけど、これがなかなか難しいんですね。この作品は、真紀がそういう悩んだり考えさせられたりするような印象的なエピソードをいくつも重ねていって、真紀の成長を描いていきます。
作中に、<自分だけが取り残されていくようだ>っていう文章があって、まさにそれが真紀の人生をうまく表しているなという感じがします。もともと社交的というわけではない真紀は、限られた人(かなり仲のいい親友や凄く好きになった人)とばかり人間関係を築こうとしてしまうところがある。どうも、真紀の感覚に合う人っていうのは多くないんですね。そういう、ちょっと違うなっていう人の間にいると、疲れてしまう。だから真紀にとって、この人と一緒にいるのは楽だなと思えるような存在というのは凄く大事なんですね。
でも、そういう相手はどんどんと真紀から離れていってしまう。決断力もあって相談事に自信を持って答えてくれるような人を真紀が気に入ってしまうからか、真紀の親友はいろんな決断をスパッとしてしまうんですね。もちろん真紀も、親友のそういう決断は尊重するし、嬉しいとも思うんだけど、でもその一方で、自分ではちゃんと決断も出来ないし、何がしたいかもわからないし、なんだかいつも中途半端な感じのする自分が、周りからどんどん置いて行かれてしまっているんじゃないか、って思うんですね。
そういう気持ちはよくわかるなぁ、という気がします。僕も学生時代は、何だかずっと取り残されている気がしていました。僕も、将来やりたいことなんてなかったし、決断力なんかもなかったから(今もないけど)、周りがいろんなことを決めたり、いろんな方向に進んだりするのを、あーなんかヤバイなぁとか思ったりしながら見てました。別に周りとしたら、僕を置き去りにしているような感覚はまるでないだろうし、ってかそんな風に思われても困るだろうけど、でもそう思ってました。ずっとこのままではいられないんだよなぁ、というのがなんか悲しかった感じがします。
そういう、取り残されていく感みたいなのがひしひしと伝わってきて、あー自分もこんな感じだったのかな、と思いました。
誰しも、いろんな人と出会って成長するものだし、何が人生の転機になるかも分からないけど、そういう中でいろいろぶつかって、悩んで、苦労して、そうやって自分なりの道を歩んでいくんだよな、って、まあ当たり前のことなんだけど、そんなことを感じました。
ちょっと物足りないかもなぁ、というような部分もあるにはあるんだけど、全体的にはなかなか楽しく読めました。派手さのない物語だけど、何か心に響くものがあるんじゃないかな、と思います。是非読んでみてください。

永井するみ「グラデーション」




関連記事

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/1824-9c49297b

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
14位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
12位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)