黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

儚い羊たちの祝宴(米澤穂信)

テレビを見るともなしに見ながら夕ご飯の支度をしていた志保は、唐突にとてつもない不安に襲われた。鍋の火を止める余裕もなく、志保はその場でうずくまった。頭が痛いような気がしたし、全身の関節が痛いような気もしたけれど、実際どうなのかよくわからなかった。うずくまった志保は、人間の形を失い、どんどん球体になっていくような気がした。身体中から何かが失われていくのが分かった。今日の雨のように、止めどもなく流れ出していった。志保は恐ろしかった。気づけば泣いていた。失うことが怖いのではなかった。自分が何を失っているのかが分からないことが怖かった。志保を襲った圧倒的な不安感の前では、為す術もなかった。このまま時間が止まってくれればいいのに、と思った。明日が来るという事実が絶望的に思えた。志保は突然、お母さんの部屋を掃除している時に見つけたよくわからないゴミのことを思い出した。ゴミ用のゴミ袋に突っ込んだそれは、中学の頃志保がお母さんに作ってあげた小さなマルイさんのぬいぐるみだった。盛大に埃を被り、元が何なのかわからない程汚れていた。志保は声を上げて一層泣いた。泣き声は雨の音にかき消されていった。志保はもう、自分がどうして泣いているのかわからなくなっていた。

「失踪シャベル 19-12」

内容に入ろうと思います。
本書は、5編の短編が収録された短編集です。
ミステリでは、「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」と呼ばれる、終盤にどんでん返しするというのが短編の至芸と言われているのだけど、その中でも本書は、「ラスト一行の衝撃」に徹底的にこだわった作品です。ラスト1行ですべてをひっくり返す5編の短編が収録された作品集です。

「身内に不幸がありまして」
丹山家のお嬢様・吹子の身の回りのお世話をする役目を任された村里夕日。両親を失い、孤児院にいた夕日を引きとってくれた丹山家への感謝としてだけでなく、夕日は日々美しく成長していくお嬢様の傍にいられることが幸せで、一生懸命に勤めを果たして来ました。
お嬢様が大学に進学しお屋敷を離れると寂しさが募ります。それでも長期休暇には戻って来て、また夕日を喜ばせるのです。
そんな丹山家に不幸が見舞います。お嬢様が入った大学のサークル「バベルの会」の合宿を間近に控えたある日、屋敷を追われた兄・宗太が丹山家を襲撃にやってきたのです…。

「北の館の罪人」
母親を失った内名あまりは、母の指示に従って、六綱家へと向かった。母は、その当主の愛人をしていて、あまりは妾腹の娘だったのだ。
お金を渡され追い返されそうになったものの、六綱家に置いて欲しいと訴えると、離れのような陰気な建物をあてがわれた。
兄を離れから出さないように。
あまりが仰せつかったのは、そんな指令だった…。

「山荘秘聞」
前降家で雇われていた屋島は、前降家の零落により仕事を失ったが、新たに辰野家での別荘の管理という仕事を紹介され、日々別荘の手入れに勤しんでいる。いつお客様が来てもいいように、別荘を完璧な状態で維持する。別荘自体の素晴らしさもあって、仕事にも力が入るというもの。
しかし1年経っても、この別荘はお客様を迎えることがなかったのです。
ある時山荘の周辺で、雪山から滑落したらしい男性を発見するのですが…。

「玉野五十鈴の誉れ」
小栗家のただ一人の子であった小栗純香は、絶対的な権力を持つ祖母の元で、小栗家の当主として間違いのない生き方をするように命じられてきた。そのため、友人も出来ず、純香は常に寂しい思いを抱えて生きていくことになった。
純香が15歳を迎えた日、祖母は純香に一人の女性をあてがった。人を使うこともそろそろ覚えないと。そう言って玉野五十鈴という同い年の女の子を使用人として傍に置くことになった。
嬉しかった。純香にとって初めて出来た友達だった。祖母を丸め込んで同じ大学に通うことも出来たのだけど、ある事件が幸福だった純香の日常を奪い去っていく…。

「儚い羊たちの祝宴」
成金である父の一人娘である大寺鞠絵は、大学で所属していた「バベルの会」というサークルを除名されてしまう。表向きは、会費を期日までに払えなかったということだが、きっと別の理由があるのだろう。
成金の父は、食事も一流のものを食べなくてはいけないとのことで、新たに料理人を雇った。厨娘というそうだが、宴の時にだけ腕を振るう料理人なのだそうだ。
他にも、よく知りもしないくせに絵を買ったりと、どうでもいい無駄な金ばかり使う父親を軽蔑しながら、鞠絵は日々を過ごしていたのだけど…。

というような話です。
それなりに面白い作品だったかな、という感じでした。本書でこだわったという、「ラスト一行の衝撃」には、うーんそこまでかなぁ、という感じはありましたけど、全体的な雰囲気はなかなか悪くなかったと思います。
どの作品も、旧家を舞台にしていて、僕らの日常の感覚からはかけ離れた世界なんですけど、まあそういう世界の描かれ方が結構面白いですね。僕にはとてもじゃないけど許容できない環境・論理みたいなもので満ち溢れていて、凄い世界だなぁ、と思ったりします。
「ラスト一行」が冴えてるなと思ったのは、「身内に不幸がありまして」ですね。なるほど、これはちょっとびっくりという感じでした。ラスト一行が見事に決まっているな、という感じがしました。「玉野五十鈴の誉れ」も、これは「Story Seller」という本で既に読んでいた作品だったんですけど、これもなかなかラストの一行はいいなと思いました。
でも、それ以外の三つはうーんちょっとどうだろうなぁ、という感じがしました。悪くはないけど、衝撃という感じでもないな、という印象で、そこまでズバリとはまっているわけではないように感じました。
全編にわたって、「バベルの会」という大学のサークルがチラリと登場します。正体のよくわからないサークルですけど、その謎めいてるっぽさが、桜庭一樹の「青年のための読書クラブ」に出てくる読書クラブっぽい感じもして面白かったです。
正直なところ、ミステリとしての衝撃はほどほどかなという感じはありますが、全体的に抑制の利いた文章で、雰囲気がなかなかいいなという感じがしました。気が向いたら読んでみてください。

米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」




関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/1811-4d69ee97

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
14位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
11位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)