黒夜行

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ひとりぼっちの王様とサイドスローのお姫様2(柏葉空十郎)

お母さんは掃除好きというわけではなかったけれど、こまめに家中を掃除していたはずなのに、スナックで働くようになってからは自分の部屋さえも掃除しなくなったようだった。家の掃除は志保がするようになったけれど、お母さんの部屋だけは手をつけなかったから、相当年季の入った汚さだった。今日で一気に片付けてやろうと決意して、志保は気合を入れた。
 まずキッチンから大きなゴミ袋を二つ持ってきた。一つはゴミを入れる用、そしてもう一つはあちこちに散乱しているバッグなどを入れる用だ。いずれにしても、バッグや小物を一旦どこかに持っていかないと、掃除が出来ない。
 志保は部屋中にある収納されていないものを、すべて二つのゴミ袋のいずれかに放り込んでいった。部屋には、化粧品の外箱や空き瓶、煙草の吸殻、缶ビールの空き缶などあらゆるゴミがあちこちに散らばっていたけれど、志保はそれらを分類することなくゴミ用のゴミ袋にどんどん放り込んだ。分類するのは後にして、とにかく今は部屋を片付けることに専念したのだ。

「失踪シャベル 19-7」

内容に入ろうと思います。
本書は、メディアワークス文庫の創刊時のラインナップとして出版された第一作目に続く、甲子園を目指す弱小高校野球部を描いた青春小説です。
1巻の内容をざっとおさらいするとこうです。
とある事情によって、これまで無敵のピッチャーとして活躍していた川崎巧也は、高校入学後野球部に入らず、医学部を目指すと言って勉強を始めた。一方、巧也と同じリトルリーグのチームで野球をしていた幼なじみの本田綾音は、父親の仕事の都合で外国に行くことになり、小学校時代に巧也と離れ離れに。しかし、高校になったら日本に戻り、巧也と一緒にまた野球をするべく必死で練習に明け暮れていたのだ。どんな学校なのかも碌に調べないまま、巧也が進む高校なら野球の強豪校だろうと、進学先を決めたのだった。
高校に入学した綾音は、そこが野球部すら存在しない公立高校だったことに驚き、さらに巧也が野球を止めたことを知ってさらに驚く。巧也にまた野球をやらせるべく綾音はあの手この手で巧也に迫るのだが…。
という感じです。
そして2巻の内容。
ついこの間まで野球部すら事実上存在しなかった公立高校の野球部が、夏の高校野球で私立の強豪校を破るも、甲子園出場はやはり厳しかった。
とある事情により、夏休みはバイトに明け暮れることになった野球部の面々。チームメイトである石橋蘭の父親が経営するホテルなどでアルバイトをさせてもらいつつ、午前中は野球部の練習をする、という変則的な夏休み。綾音は女子野球の代表に選ばれ遠征中で、巧也は毎日掛かってくる電話にうんざりしている。
野球の練習時間があまり取れない中で、個々人が何か得意な技を一つは身につけることを目標にしよう、と巧也が提案し、午前中の短い時間で特訓をすることになるも、もともと女子で非力な上に、成長が止まって小柄な蘭には、何を得意技にすればいいのかわからない。
そんなある日、巧也とふたりっきりになる機会があり、そこで蘭は、自分が女だという理由で男に太刀打ち出来ない哀しみを吐露する。そんな蘭に巧也は、男に真っ向勝負を仕掛ける必要はないとある秘策を伝授するのだが…。
というような話です。
ホントこの作家、面白い作品書くなー、という感じがします。もともとラノベ系の作家で、メディアワークス文庫っていうのも若干ラノベよりのレーベルだったりはするんですけど、物語はちゃんとした青春小説という感じです。しかも、ラノベ出身だからか、キャラクターを描くのがうまいうまい。本書には魅力的な要素はいろいろとあるけど、やっぱキャラクターの魅力は最高だなと思います。
このシリーズは、野球で甲子園を目指すとか言っておきながら、実は野球の練習の描写がそんなになかったりします(でも必ず、最後は強豪校との試合シーンで締めくくられていて、それがまた面白いんだなぁ)。1巻目では、巧也と綾音のあーだこーだがメインだったのに対し、2巻目は巧也と蘭のあーだこーだがメインになっています。
裏表紙の内容紹介にも書いてあるからいいと思うんだけど、本書で蘭は巧也に惹かれてしまうんですね。でも、蘭にとって綾音は、また野球をやろうと思わせてくれた恩人でもあるし、普通に親友でもある。だから巧也のことを好きになってはいけないのだけど、でも一緒にいる時間が長くなるとどうしても…、という感じで、こういう男女のあれこれを書くのがうまいなと思います。
蘭が巧也に惹かれてしまうのは、綾音が代表戦で遠征中のことで、綾音がそこから戻ってくると、まあ巧也と綾音が大変なことになったりするわけです。しかもこれがめんどくせーめんどくせー。僕は男なんで、やっぱ巧也の方に肩入れしたくなりますね。確かに、巧也の失言はちょっと酷い。ちょっと考えれば、それを言ったら相手を怒らせるだろう、とわかるはずのことをさらっと言ってしまうのだけど、にしても綾音のめんどくささはちょっとハンパないなという感じがします。まあ女性からすれば、程度の差こそあれ、綾音の言動は共感できるものなんだろうけど、でも男からすれば綾音みたいな女子はめんどくさいだけだよなぁとか思ったり。僕もまあいろいろあって、巧也と同様「来る者拒まず去る者追わず」みたいなところがあったりするんだけど、だからこそ綾音の振る舞いはめんどくさいですね。
本書で描かれている限りだと、蘭の方がいいなー。蘭はちょっと周りに気を遣いすぎるところがあって、それはそれでちょっと厄介なんだけど、でも自分のことしか考えてない綾音に比べれば断然いいな、と。って、綾音のことをボロクソに言ってますけど、これはあくまでも恋愛の部分に関してだけで、基本的に綾音も良い人なんだけどね。
前半から中盤に掛けては、野球がどうのというよりは、そういう野球部内の人間関係(というか、巧也と綾音と蘭のあーだこーだ)がメインになってくるんですけど、でもうまいのが、そういう合間にきちんと野球の話を挟みこんでくるんですよね。練習や試合なんかはあんまりしてないんだけど、そうじゃない場面でも、会話の流れの中で野球の話が出てきたりすると、高校野球に関する詳しい説明なんかが出てきたりする。元々スポーツ全般には詳しくないし、高校野球についても知らないので、本書で出てくる基本知識や雑学ぽいネタはなるほどなーという感じがします。
著者は野球(あるいは高校野球)にはかなり詳しいようで、それはラストの強豪校との試合シーンを読んでもよくわかります。エンタメとしての面白さを損なわず、かつ野球の知識のない人にも戦略や技能が伝わるような描き方が出来ていて、基本ルールぐらいしか知らない僕でも充分楽しめる試合シーンでした。マンガならそれなりに描きやすいんだろうけど、文章でしかもそんなに長いページ数を使わずに、ここまで面白い試合シーンを書けるというのはなかなか凄いなと思いました。
というわけで、総合的に見て凄く面白いエンタメ青春小説という感じです。あくまでも、野球そのものがメインというわけでもないので、王道のスポーツ青春小説を期待して読むとちょっと違うなーという感じになるかもですけど、野球を中心として高校生の青春を描いた作品と捉えれば素晴らしいエンタメ作品だと思います。野球にそこまで興味がないという人でも十分楽しめる作品だと思います。ちょっと長いけど、スイスイ読めます。是非読んでみてください!

柏葉空十郎「ひとりぼっちの王様とサイドスローのお姫様」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)