黒夜行

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バナールな現象(奥泉光)

志保はストラップ作りに取り掛かった。作業は順調だったけれど、同じものを二つ作るというのがやはり難しかった。型紙はあるので、サイズなどは同じものを作れるのだけれど、細かな部分での失敗や僅かなサイズ違いが全体に影響を及ぼすため、慎重にやらなくてはならなかった。ストラップに出来るぐらいの小さなサイズの人形を作るのは技術的にもなかなか大変で、志保は手先に意識を集中した。雨音は一層激しくなったような気がしたけれど、激しい雨音と手芸の細かな作業が志保の頭から雑念を取り払ってくれるようで、志保は余計なことを考えずにストラップ作りに精を出した 
 どうにか形になりそうだという頃、空腹を感じた。時計を見ると既に二時に近い時間で、志保はキッチンに向かい、ありあわせのもので適当にお昼ご飯を作って食べた。ニュースでは台風の影響で、土砂崩れや津波などが各地を襲っていると伝えていた。翌朝には東北地方に抜けるようで、明日には雨も穏やかになっているだろう。

「失踪シャベル 19-5」

内容に入ろうと思います。
木苺勇一は、大学の臨時講師であり、かつ予備校講師でもある。結婚しており、妻が妊娠した。ちょうど湾岸戦争が始まった頃だ。
木苺は妻との関係がある時を境にうまくいかなくなってしまった。
妊娠を契機に、よき夫だろうとしていた木苺だったが、どうやら底の浅さを見透かされていたらしい。ある時妻が、子どもはジャズ奏者にするからと胎教を始めた。これはつまり、ちょっとおかしな状況になっていた妊娠に関わる夫婦のあり方を、その空気を変えようという提案だったわけである。しかしそこからどう転がったものか、木苺はやがて妻を撲ることになってしまった。それを境に、妻との関係がギクシャクしている。
そしてある日家に帰ると、妻の姿が見えなくなっていた…。
なんて内容紹介で終えると、ただの夫婦小説という感じがしてしまうなぁ。実際はまあまったく違うのですけど。でもこれ以上うまく、僕にはこの作品の内容をまとめられないなーという感じもします。
デビュー間もない頃の作品だと思いますけど、相変わらず奥泉光は素晴らしい作品を書くなと思います。今「シューマンの指」という最新作が物凄く評判がいいわけなんですけど、凄い作家だと思います。
本書も、僕の内容紹介を読むと、なんだか牧歌的なよくある夫婦の話か、という感じがするでしょうけど、すいません、全然違います。どちらかというと、木苺勇一が世界(とは言っても、自分の周囲の狭い世界だけど)の改変に立ち向かう、というような話です。
貧しいけどそれなりに順調だったはずの木苺の人生は、妻の妊娠を契機として変わってしまうことになります。いや、妻の妊娠が契機というか、自分たちが住む部屋を、60年代の早稲田大学の学生の下宿という設定にした頃だったか、いやそうではなくて、その部屋に飾るアフリカの地図を買い求めることに決めた時だったか。まあ契機がいつだったかは、そこまで頭のよろしくない僕にははっきりとはわからないものの、とにかくある瞬間を境に木苺の人生というのは大きく変わってしまうことになります。
その変化の第一弾が、妻の失踪です。出産を間近に控えた妻が突如いなくなってしまう。木苺はあれこれ理由をつけてちゃんと妻を探すことをしないわけなんですけど、さらにそんな木苺にいろんな状況が降りかかってくる。木苺自身にも何が起こっているのかさっぱりわからない。尾行されたり、異常に体調が悪くなったり、謎の女性が現れたり、就職先の斡旋の話がとんでもない方向に進んだりと、おかしなことになる。さらに木苺は、「もう一つの日記」を見つけてしまうことになる。これが事態をさらにややこしくわけのわからないものにさせてしまう。僕も結局何がどうなったのかまるで分からないのだけど、それでも面白い。
何が面白いんだろうなぁと考えてみるんだけど、これが結構難しい質問だったりするんですね。この作品は何が面白いんだろう。木苺という男の小市民的なせせこましさや、哲学や理屈を大仰に振りかざすような態度も面白いし、木苺が「友人」をする会話も面白い。ストーリー自体は僕にはほとんど理解できなかったのだけど(特に後半にいけばいくほど何がどうなっているんだか分からない)、でもストーリーの展開は凄く面白いと思った。特に章と章の継ぎ目が、時系列や次元が吹っ飛んでいるようなことがあったりするし、また様々に比喩的に現れる事柄がいろんなところで絡みあったりしているようなのも凄くいい。
でもこうやって文章にしても、何か違うよなぁという感じがするんですね。本書の面白さの本質を捉えきれていない感じがする。そこまで頭のよくない僕には、それを捉えて言葉にすることはちょっと難しいだろうなという感じがします。なんだかよくわからないけど、とにかく面白い、というぐらいの表現しか僕には出来無いですね。こういう物語を、もっと分析的に読める頭が欲しいなぁ、という気もしました。
たぶん僕の感想では本書の魅力はあまり伝えられていないと思うんだけど、この作品は凄く面白いと思いました。奥泉光は、作品によって当たり外れもありますけど、基本的にはもの凄い作家だと僕は思っています。是非読んでみてください。奥泉光作品で、現時点で一番好きなのは「鳥類学者のファンタジア」です。「シューマンの指」も早く読みたいところ。

奥泉光「バナールな現象」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)