黒夜行

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モップガール(加藤実秋)

風はどんどんと強くなり、穴を掘る手をおぼつかなくさせていく。余計な力が入るせいで、力の抜きどころが分かった今でも、疲労が溜まっていくのが早い。時折、身体ごと吹っ飛ばされてしまうような突風が志保を襲い、雑念ばかりが増えていった。精神統一としての穴掘りはあくまで理想論であって、現実には坐禅のようにはうまくいかないのだなと思った。
 どうにか穴掘りを終えた志保は、森の入口に停めた車まで戻った。半ば予想していたことだったけれど、今日も前の時と同じ男が、志保の車の傍に立っているのだった。
「また?」
 志保は不愉快さを隠すこともなく、刺々しい口調でそう言った。風が強いからだろうか、男は煙草を吸っていなかった。
「明日は台風だそうだ」
 天気予報を見るような習慣はあまりないけれど、なるほど台風が来ると言われれば納得しそうな天候ではある。

「失踪シャベル 18-2」

内容に入ろうと思います。
本書は、特殊な清掃会社でアルバイトをすることになった長谷川桃子を主人公にした、4編の短編が収録された連作短編集です。
まず全体の設定から。
長谷川桃子は、自分の才能を活かせる場がどこかにあるはずだと思い、前向きな気持ちでフリーター生活をしている女の子。清掃のアルバイトの広告を見て面接に行くと、その日の内に現場に行かされることになったのだけど、なんとそれが死人が出た部屋の清掃だった。そういう特殊な清掃も扱っている会社だったのだ。
犬のことしか頭にない社長、売れない劇団に所属しその時その時で振られる役になりきって日常生活を送る重男、イケメンの癖に能面のようでほとんど喋りもしない遅刻魔・翔、そんな翔にガツガツアプローチを掛けているギャルファッション全開の未樹など、変人だらけの中、時代劇オタクの桃子も次第に馴染んでいく。
桃子は時折片耳だけ難聴になるのだが、そのタイミングで特殊な清掃現場に行くと、五感のどれかがおかしくなるという異常が起こる。その現場に関わりのある人の思いが桃子に何らかの影響を与えているようなのだが…。

「おわりの町」
会社経営者の妻が殺された現場を清掃中、何故か外国の風景が浮かび、以後その光景に悩まされることになる。事件に関わりがあるのだろうと思い、翔と一緒に事件を調べることになるのだが…。

「赤い衝撃」
飛び降り自殺の現場付近の道路を清掃した直後、何故か高級フランス料理を食べることになった桃子だったが、そこで突然、どんなものを食べても「赤いきつね」の味しかしないようになってしまう。そこで今度もまた翔と一緒に、飛び降り自殺をした人について調べることになるのだが…。

「ファンハウス」
元華族が住んでいたという、廃墟と化した洋館を清掃することになった一向だが、そこで桃子は死体を見つけてしまう。どうやら、認知症を発症し施設にいたはずの元当主のようだ。その直後、桃子の鼻がある匂いしか感じられなくなってしまう。どこかで嗅いだことがあるその匂いの原因を探るべく、また翔とその華族について調べるのだが…。

「ブラッシュボーイ」
翔が明らかにおかしい。これまでに関わったいろんな事件でも、なんとなくおかしいという断片は垣間見えていたが、やはりいつもとは違う。
そんな折、とあるきっかけで知り合った人の会社の社員が行方不明になっていることを知る。それが翔が調べている件に関わってくると直感した桃子は、独自にその行方不明になった社員について調査を始めるのだけど…。

というような話です。っていうか、内容紹介とかいいながら、ほとんど意味のない内容紹介ですね。まあそれも多少は仕方ないんです。というのも、正直に言ってしまえば、物語的にはまあほどほどかな、という感じの作品だったんです。いや、決して悪くはないんですよ。でも、ちょっと深みがないかなー、という印象はありました。なんとなく、「名探偵コナン」を読んでるみたいな感じ(笑)。いや、「名探偵コナン」は大好きですけどね。
なんというか、それぞれの短編の謎というか背景というか、そういうものはちょっとありきたりだなと思いました。決して悪いわけではないのだけど、ちょっとなぁ、という感じ。
しかしですね、その物語の欠点(とまではいかないのだけど)を補って余りあるほど、設定とキャラクターが面白いと思いました。キャラクター小説としては相当秀逸だなと思います。決して悪い意味ではなく、マンガ的な感じで、キャラクターが自在に飛び跳ねているというような自由さを感じました。
メインとなるキャラクターは凄く少ないんです。さっきも書いた、犬好き社長、売れない役者、無口なイケメン、派手なギャル、時代劇オタクという感じ。しかしこの五人の掛け合い・やり取りはとにかく面白すぎる!変人大好きな僕としては凄く好みのキャラクターたちです。正直、本書の物語の部分だけだったら及第点ギリギリかちょっと落ちてるみたいな感じもあるんですけど、それをキャラクターの力でグーンと面白くしているという感じです。
みんな、自分の信じる道をきっちり歩んでいる、というところが凄くいい。誰にどう思われようと、自分を貫くぞ、みたいな強い意志を感じる。桃子と未樹は、性格も生き方もまるで違う女性だけど、それぞれが自分の生き方を全力で追求しているという点では同じ。特に未樹なんか結構アリだなぁー。僕はオンナオンナした感じの女性って基本的に好きになれないんだけど、未樹はただそれだけの女性ってわけでもない。恋愛命!って感じだけど、でも自分ってものをきっちりと持ってるし、自分の頭できっちりと考えてる。それに、スタイルが良いっていうのはやっぱポイント高いよなぁ(笑)。
翔のストイックな生き方はなかなか真似できる人はいないだろうし、普段無口な癖に人と話して何か調査するなんていうのは憎らしいほど上手い。重男の、その時々の役柄を日常生活でやるっていうのは、ストーリーにもかなりうまく組み込まれていて、こういうところは凄くこなれているなと感じた。なくてはならないアクセント的存在。仕事がバリバリ出来るというのも好印象だし。
そして何よりも、社長の存在感はピカイチ!掃除の業務は基本何もしないし、口を開けば犬の話ばっかり。しかも大の犬好きなのに犬の毛アレルギーという不幸な人で、ストレスがたまると、「大」という字を「犬」に書き換えてしまうというはた迷惑な人(笑)。なのに、ここぞという時に良いアシストをするんだよなぁ。出てくる場面は凄く少ないくせに、凄く印象に残るキャラクターです。
そんなわけで、ストーリーの平凡さをキャラクターがふんだんに補って飾り付けしているために、結構面白い作品に仕上がっていると思います。これはマンガにしても結構面白くなるだろうなー、という感じ。
設定もなかなか面白いと思いました。何故か五感のどれかがおかしくなってしまうというSFチックな設定ですけど、非現実的にならないようにうまいこと扱っていると思う。毎回どの五感が影響を受けるかが変わるのも上手い。もちろんストーリーによっては、ちょっとそれは無理やりだなぁ、と感じるものもあるのだけど、キャラクター達が実によく動いてくれるので、面白いと思う。
装丁もなかなか目を惹く感じだし、もう一回チャレンジしてみようかな。昔売ろうと思ってあんまり売れなかった記憶があるんだけど。小説としての深みはあまりないけど、軽くさらっと読めるなかなかよく出来た小説だと思います。是非読んでみてください。

加藤実秋「モップガール」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)