黒夜行

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探査機はやぶさ7年の全軌跡(Newton別冊)

18

 志保は、マグライトを口にくわえながら、スコップで穴を掘っていた。夜も更けてくると、どんどん風が強くなってきた。雲が空を覆っているようで、月は見えなかった。前来た時にはマグライトを枝に固定出来たのだけれど、今日は風があまりにも強くて、どうしてもマグライトを固定出来る場所を見つけることが出来なかった。志保は仕方なくマグライトを口にくわえて地面を照らしながら、ひたすらに穴を掘っていた。
 前の時は、どれぐらい時間が掛かるのかもわからなかったし、力の抜き方も分からなかったから変な焦りばっかりが先行していたけれど、今日は多少余裕があるせいか、穴を掘るという行為について純粋に考えることが出来た。身体の疲労さえなければ、穴を掘ることは坐禅に似ている。余計なことを考えず、ただ無心に手を動かし続けることで、精神が澄み渡って行くような気がするのだ。目的も目標も考えず、ただひたすらに手を動かす。坐禅と違って身体の疲労はとんでもないけれど、その対価として穴という形を手にすることが出来るのだ。

「失踪シャベル 18-1」

内容に入ろうと思います。
本書は、ありとあらゆる『世界初』を実現しまくった、日本独自の小惑星探査機「はやぶさ」の7年間に渡る軌跡をまとめたムックです。
僕は、「はやぶさ」が日本に戻ってきた段階ではまるで「はやぶさ」のことを知らず、その後幻冬舎新書から出ている「はやぶさ」というタイトルの本を読んで一気に「はやぶさ」ファンになるという超にわかファンだったりするんですけど、それでもやっぱり買っちゃいましたね、これ。普段雑誌とか全然買わないわけなんですけど、これは即買いでした。
幻冬舎新書から出ている「はやぶさ」では、日本のロケット開発の歴史から、いかに「はやぶさ」という日本独自の探査機が生まれたのか、という流れを主軸にしていたわけなんですけど、本書では、「はやぶさ」が地球を飛び立ってから帰ってくるまでの行程を描き、かつそれぞれ独自の技術に携わった人々へのインタビューもふんだんに盛り込まれています。
「はやぶさ」は、とにかく数々の『世界初』を実現したとんでもないプロジェクトだったわけですけど、その中でも僕が凄いなと思う『世界初』は、『イオンエンジン』『小惑星イトカワへのランデブー』『満身創痍で故障続きだったはやぶさを地球に帰還させた』の三つではないかと思います。
まずイオンエンジン。普通ロケット開発なんかで使われるのは科学エンジンで、これは燃料を噴射させて推力を得るやり方です。化学エンジンは、かなり大きな推力を得られる一方で、燃費がよろしくない。一方でイオンエンジンは、推力が実に小さい(地球上では1円玉を持ち上げられるかどうか、というぐらいの推力しか出せない)けど、燃費が化学エンジンの10倍以上だそうです。実際「はやぶさ」には、イオンエンジンの燃料となるキセノンが66キログラム積まれていたらしんですけど、7年間60置くキロメートルの旅を終え地球に帰還した際、燃料はまだ20キログラムほど残っていたほどなんだそうです。
実際イオンエンジンというアイデアは昔からあり、欧米でも開発されているんですけど、欧米で開発されているのは電極型なんですね。これは、電極が消耗することによって耐久性に問題を抱えているわけなんですけど、開発しやすいから採用されているんですね。しかし「はやぶさ」では、世界初のマイクロ波型イオンエンジンが搭載されたわけです。まあその仕組みはよく知らないんだけど、現時点では日本にしかない技術なわけですよ。このマイクロ波型イオンエンジンは、何かを消耗させるわけではないので、マイクロ波型イオンエンジンと搭載したことが、最終的に「はやぶさ」を地球へと帰還させることが出来る大きな要員の一つになったのではないか、と開発担当者は語っています。
さて二つ目の世界初は『小惑星イトカワへのランデブー』。これまで惑星外探査というのは、その場で得たデータを地球に送ったりということしか出来なかったわけですけど、「はやぶさ」は世界で初めて、行って帰ってきた探査機なわけです。現在もまだ、小惑星イトカワからの試料が入っているのかどうかわからないわけですけど、もし試料の採取に失敗していたのだとしても、とにかく小惑星に降り立ち、試料の採取にチャレンジし、さらに地球までそれをもって帰ってきたというのがとにかく素晴らしいですね。
本書には実に多くの人へのインタビューが載っているのだけど、そのすべての人に、「カプセルを届けてくれたはやぶさに一言お願いできますか?」という質問が最後にあって、大体ほとんどの人が「お帰りなさい」と答えているのが印象的でした。
そして最後に、『満身創痍で故障続きだったはやぶさを地球に帰還させた』ですね。これはもちろん、試料を持ち帰ってきた探査機を帰還させたというのが世界初なわけですけど、それ以上に、もうボロボロで限界ギリギリだった「はやぶさ」を、アイデアで切り抜けて地球に帰還させたというそのプロセスの方が僕は素晴らしいと思いました。
エンジンがことごとく死んで、化学エンジンも故障、ギリギリ残った部品を寄せ集めるようにして緊急避難的な綱渡りをいくつも繰り返して、それでなんとか地球に帰還させたわけです。凄いですよ、ホントに。本書のどこかに誰かの言葉で、「予算がないのが厳しかったけど、でも適当に貧乏だったお陰でプロジェクトが完遂できた」みたいな言葉がありました。何故貧乏だったから完遂できたのかというと、予算が限られていたために、出来る限り自分たちで作ったからなんですね。これがもし予算があったりしたら、メーカーに外注しただろうと語っているし、その場合、トラブルが起きた時に対処しきれたかどうかわからない、と。全部自分たちで作ったものだったからこそ、トラブルがあった時もすぐさま対応できたのだと。トラブル続きだった「はやぶさ」を地球に帰還させることが出来たのは、まさに適度に貧乏だったお陰だとも言えるのかもしれません。
そんなわけで、これまで「はやぶさ」の動向をつぶさに追っていた人たちにはよく知っている話ばっかりだったりするのかもしれませんけど、「はやぶさ」ファン初心者である僕には面白い話がたくさんあったし、写真や図もたくさんあってすごく見栄えのする本だと思いました。「はやぶさ」を作り上げたJAXAにはこれからも大注目です!今は、ヨットと似たような原理で、太陽光を帆に当てて前進するイカロスという探査機を金星に向けて飛ばしているし(この技術ももちろん世界初)、「はやぶさ2」とでも言えるプロジェクトも着々と進んでいるんだそうです。というわけで「はやぶさ」に興味津々の皆さんもそうでない皆さんも、是非是非読んでみてください!

Newton別冊「探査機はやぶさ7年の全軌跡」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)