黒夜行

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オール・マイ・ラビング 東京バンドワゴン(小路幸也)

「ええ。志保さんは、涼子さんが自発的に失踪したとお考えのようですけれど、僕にはどうしてもそうは思えません。個人的な事情なので詳しくは話せませんが、今涼子さんが自分から姿を消すとは考えにくい状況なんです」
「私も、具体的な話を聞いてはいないんだが、脇坂さんのその言葉が気になってね。それで来てもらうことにしたんだ」
「それと財布がどう関係するんですか?」
「もし涼子さんが自発的に失踪したのだとすれば、どんなに荷物を減らしたとしても財布ぐらいは持っていくでしょう。だからもし涼子さんの部屋に財布が残っていれば、それは自発的な失踪ではないという可能性が高くなります」
 相変わらず脇坂さんの言っていることは論理的で、志保もなるほどと思ってしまった。財布のことは思いつきもしなかった。確かに自分が失踪する時だって、財布くらいは持っていくだろう。
「分かりました。ちょっと待っていてもらえますか」

「失踪シャベル 16-12」

内容に入ろうと思います。
本書は、東京バンドワゴンシリーズの最新刊です。4編の短編が収録された連作短編集です。
まず全体の設定について書いておきましょう。
舞台は、下町にある古本屋<東京バンドワゴン>。大黒柱である古書店主・勘一を初めとし、その息子で伝説のロッカーである我南人やら、さらにその下の世代まで4世代同居の超大家族です。近くの神社の神主やら、IT企業の社長やら、近くの小料理屋の夫婦やら、家族ではないけど仲間というような人たちもわらわら関わって、常に賑やかな堀田家です。
そんな堀田家の面々を見ている、本書の視点となる人物は、既に他界してしまった勘一の妻サチです。サチの家族を見る温かい視線が、物語全体をさらに素敵なものにしています。

「夏 あなたの笑窪は縁ふたつ」
勘一は、近くの神社の神主であり幼なじみである祐円と、かつての知り合いである<ネズミ>の墓参りに向かう。それに同行した祐円の甥っ子が、寺でやった大学の合宿で百物語をやったという。そこで実に恐ろしい体験をしたと言って勘一に相談するのだが…。
一方で、IT企業の社長である藤島が、堀田家の隣に建てたアパート<藤島ハウス>への引越し作業が同時にあって、人手が足りなくなるということで、亜美の弟・修一が呼ばれて店番を手伝うことに。しかしこの修一が今、道ならぬ恋をしているのだとかなんだとか…。

「秋 さよなら三角また会う日まで」
店の前に、<捨て猫>と書かれたダンボールが置かれている。中にあったのは、猫に関係する古本。これは一体なんなのだろうなぁ、と堀田家の面々は首を傾げることになる。
一方で、近隣の住民から、<東京バンドワゴン>について文化庁だか新聞記者だかが調べている、という話を聞かされる。思い当たることがあったのか、勘一は家族を集めて話をするのだが…。

「冬 背で泣いてる師走かな」
紺の大学時代の恩師が<東京バンドワゴン>にやってくる。紺を訪ねてきたらしいのだけど不在。どうやら家に蔵書を置けなくなったのでどうしたらいいだろうか、という相談だったようで、それならと勘一は、静岡にある<東雲文庫>を紹介する。しかしそれを聞いた紺は急いで<東雲文庫>に足を運ぶことに…。
一方で、IT企業の社長の藤島はあることで思い悩んでいた。だったらと、我南人に、クリスマスパーティーにみんな呼んじゃいなよ、と言われるのだが…。

「春 オール・マイ・ラビング」
我南人の周囲がちょっと騒がしくなっていく。とある事情で祐円と藤島に持ち込まれた内密の相談事も我南人に関わるものだし、アメリカからやってきたハリーって男の用件も我南人絡みだった。
一方で、研人は卒業式を控え、何かやろうとしているらしい。同級生であるメリーちゃんに、何か思い出に残ることを、と言われて張り切っているようなのだけど…。

というような話です。
いやー、相変わらずこのシリーズは素晴らしすぎますね!本書はシリーズ第五弾です。正直、僕は読んだ本についてすぐ忘れちゃうんで、前のシリーズの話をするっと忘れていることが多くて、全部読み返したいなぁ、という気分になりました。
ホントに、これほど登場人物たちに愛着を感じる小説って、なかなかないと思うんですよね。登場人物表を見てもらえばわかると思うんですけど、この登場人物の多さはちょっと異常ですよね。でも、確かに前作までのシリーズの内容は忘れてますけど(笑)、一人ひとりどんなキャラだったのかというのは大体覚えてるし、これだけキャラクターがいても、その書き分けは見事なものがありますね。本当に、ある家族の成長を間近で見守っている、というような感じがします。
ストーリーもそれぞれもちろん面白いんだけど、正直このストーリーだけ取り出してもダメですよね。別のなんてことないキャラクターたちが、本書と同じストーリーで描かれていても、たぶん全然ダメでしょう。まあどの小説もそうであることを目指して書かれているのだとは思うのだけど、このシリーズほど、ストーリーがキャラクターにぴったりと寄り添っている作品はないんじゃないかな、という気がします。このキャラクターたちだからこそ、このストーリーが活きる、という話ばかりで、うまいこと考えるものだなと思います。
ストーリーで一番好きなのは、やっぱり「夏」の話ですね。これはもうラストが素晴らしすぎます。ラストである登場人物が言うセリフがすごくよくて、ここに書こうかとも思ったけど、やっぱそれはちょいネタバレになっちゃうよなぁという風に思ったのでやめておきます。
「秋」も、ラストちょっとあまりにも現実的ではないような気がする展開が出てきますけど、さすがという感じの仕切りですね。この「秋」のラストは、京極夏彦の「巷説百物語」シリーズのライト版かな、という感じもします。
「春」の研人もよかったですね。このシリーズは、サザエさんみたいに登場人物が年を取らない話じゃなくて、きちんと皆成長していくわけなんだけど、この「春」の話で研人の成長が物凄くよく分かります。
このシリーズを読んでると、大家族って羨ましいなぁ、と思いますね。これだけ毎日賑やかで、しかも楽しいことがあって、近所とも親しくしていて、しかも<東京バンドワゴン>を慕ってくれる人がそれこそ山ほどいるなんていう環境だったら、素敵だよなぁ、と思います。でも同時に、まあ大抵の大家族はここまでいいもんじゃないだろう、とも思いますけど(笑)。このシリーズを読むと、大家族に憧れますけど、僕自身の性格を考えると、まず大家族は向いてないだろうなとも思います。ただ生まれた時から大家族だったらまた別なのかなぁ。
というわけで、やっぱり素敵過ぎるシリーズです!このシリーズはやっぱり、1巻から順に読んでいくのが一番ベストだと思います!是非是非読んでみてください!

小路幸也「オール・マイ・ラビング 東京バンドワゴン」





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よろしければ、どうぞまたご一緒に・・・サチさんの丁寧なご挨拶には、毎回恐縮しながらも、ついつい微笑んでしまいます。  まずは来訪記念にどうかひとつ! [:next:] 人気blogランキング【あらすじ】下町の老舗古書店“東京バンドワゴン”に舞い込む古本と謎を、四世代のワケあり大家族・堀田家が家訓に従い解決する。ページが増える百物語の和とじ本、店の前に置き去りにされた捨て猫ならぬ猫の本・・・。不可思議な事件に潜む「あの人の想い」とは?笑いと涙の下町ラブ&ピース小説、待望の第5弾。早いものですねぇ、この前生ま

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)