黒夜行

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ペンギン・ハイウェイ(森見登美彦)

志保は、最近サークルの活動に出られなくて残念だという話をした。いろいろとバタバタしていて、どうも参加出来ない。生活費のこともあるし、もう少しバイトを増やすかもしれないから、これまでのようには出られないかもしれない、と言った。カナちゃんとアカネちゃんはちょくちょく出ているようで、最近の様子を教えてくれたけれど、さほど大きな変化はないみたいだった。今日は行こうと思っていたのに、再婚相手が来るせいで行けなくなったと言ったところで思い出して、アカネちゃんもサークル休ませることになってごめんね、と謝った。アカネちゃんは、気にすんなよ、と言ってくれた。
「ベル、あの会田君ってのとはどうなのよ」
 二人には、会田君と付き合うことになったという話はしていた。志保としてもいろいろ聞いてもらいたいところなのだけれど、どうにも時間がなさそうだった。また今度ねと言って、三人は別れた。
 今日ほど、講義が短く感じられたことはなかったかもしれない。講義が終われば、再婚相手と会わなくてはいけなくなる。そんな時ほど時間は早く進むのだから皮肉なものだ。志保は講義が終わるとアカネちゃんの姿を探し、一緒に帰ろうと誘った。

「失踪シャベル 15-8」

内容に入ろうと思います。
本書は、森見登美彦の最新作です。
ぼくは小学四年生で、常にノートを持ち歩いていろいろな研究をしている。街の地図を作る「プロジェクトアマゾン」や、クラスメートでありいばりちらしているスズキ君の行動を研究する「スズキ君帝国」や、あるいは歯医者のお姉さんについて研究する「お姉さん」など、とにかくいろいろな研究を日々行っている。生真面目で大人びているぼくは、このまま努力を怠らなければ将来えらい人間になるだろうと思っている。
そんなぼくは、新たな研究対象を見つけた。それが、ペンギンだ。
ぼくらの住む街に、突如ペンギンが現れた。ペンギンは突然消えることもあり、また何も食べなくても生きていけるようだ。さらに森の奥に謎の現象が起こっていることも発見してしまう。
ぼくの研究対象は一気に増えることになるのだ。
その謎めいた現象の中心に、歯科医院のお姉さんが関わっているらしい、ということが分かってくる。お姉さんはたいへん不思議な人だ。お姉さんと一緒にいるとなんとも言えない気持ちになるのだ。お姉さんはぼくに、「この謎を解いてごらん」と言った。
ぼくは、この街で起こっている謎めいた数々の謎を解き明かすべく、研究を続けるのだ…。
というような話です。
これまでの森見登美彦作品を「落ち着きのない」作品と評するとすれば、本書は「実に落ち着きのある」作品です。これまでの森見らしさをかなり排除したような、森見登美彦第ニステージと言った感じの作品です。
もちろん、これまでの森見らしさを求めている人には、この落差はあんまり好ましくなかったりするかもしれないけど、僕は面白いなと思いました。さすがです。これまでの「落ち着きのない」作品のイメージから一変して、こういう作品も書けるんだなぁという驚きがあります。ニュー森見登美彦のデビュー作としては大成功ではないかという感じがします。
生真面目な少年の一人称で物語が進んでいく、というのが本書の魅力だろうと思います。本当に落ち着いた、大人びた少年である主人公の語りは、これまでの森見作品にはなかった落ち着きをもたらしています。
でもその一方で、この少年がちょっとズレてるんですね。たぶん凄く『正直』な少年なんだと思うんだけど、その正直さが同年代の子供たちから浮いていて、独特のキャラクターに仕上がっています。
その少年の語りに引きこまれてどんどん読んでしまいます。物事や世界を見る視点が新鮮だし、生真面目でそうそう感情を表に出さないクールな少年が、時折見せてしまう感情の破れみたいなものにグッと来るシーンが結構あったりします。とにかくこの少年の造形はお見事だなと思いました。
ストーリーは、まあ相変わらずよくわからないですね。全体のトーンはこれまでの森見登美彦らしくはないけど、ストーリーのわけわからなさはこれまでと同様という感じです。ペンギンやら<海>やらジャバウォックやらいろいろ出てくるんだけど、もうなんだかひっちゃかめっちゃかです。でも、楽しいですね。よくもこんなわけわからんストーリーを考えられるものだと思います。最後まで読んでも、結局よくわからないですしね。でも、森見作品だからこれはアリだな、という感じがします。
出てくるキャラクターは誰もが落ち着いている感じで、でもそれぞれ個性があるんですね。僕的には、歯科医院のお姉さんは別格で好きですけど、それ以外だと主人公の父親が結構いい味出してると思いました。自分の息子を子供扱いしないで、きちんと一人の大人として扱っているというところが素敵ですね。
お姉さんはやっぱり素敵です。主人公の少年とホントにいいコンビという感じです。なんだかホント猫みたいな感じで、ふらりとやってきてはふらりと去って行き、掴み所がない感じ。こんなお姉さんがいたら、僕も惚れちゃいますがな。
というわけで、本書の魅力はなかなか言葉では伝えるのは難しいですね。これまでの森見作品のような派手さや賑やかさがあるわけでもないし、全体のトーンは落ち着いているし、キャラクターもかなり穏やかです。でも、小説のいろんな要素をすごくバランスよく配合したみたいな作品で、森見登美彦が自分の得意技をほとんど封印して望んだだろう力作だと思います。これまでの森見作品が大好きという人からすれば、本書は面白くないと感じられる可能性もあるかもしれません。それぐらい、これまでの作品とは大幅に変わっています。でも僕は、これまでのイメージを振りきって、こういう作品を書き上げたというのは素晴らしいことだなと思います。これで、森見登美彦という作家がこれからどんな作品を産み出していくのかますますわからなくなってきました。これからもますます楽しみな作家です。ニュー森見登美彦のデビュー作と言ってもいい作品です。是非読んでみてください。

森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」




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Comment

[3963]

こんばんは。
ご無沙汰しております。
もうすっかり秋という感じですが、日中は相変わらずの暑さですね。
遅ればせながら、この本を読みました。森見さんだから仕方ないや、という感覚が身につき、八方破れの作品ながら充分楽しめました(笑)。
お姉さんの正体は一体何だったのでしょうか? 時空を越えて来た新種の人間かも知れませんね。一連の事件が終わってしまえば、熱が冷めるように「何事もなかった」でケリが付くのでしょうが、私はドラえもんのアニメでよく登場する時空間の裂け目のような感じで受けとめました。そうすると、かなりスッキリ(私の中では)します(笑)。
小学校4年生にしてこの頭脳、「少年!なかなかやるな!」という想いです。歯科医院のお姉さんと少年の心の交流がおもしろかったですね。空飛ぶペンギンや小形クジラなどありえない設定も森見作品のキャラとして認めたくなりますよね。リアリティを要求するのは酷というものでしょう(笑)。
そうそう、本多さんの新作はネットで注文しました。今月下旬に発売とか…。それから有川さんの『ストーリー・セラー』、これもお薦めです。機会がありましたら、是非どうぞ! 重松さんの『さすらい猫 ノアの伝説』、これも子どもが向けながら、良かったです。
先日、女子中学生と話していてビックリすることを聞きました。彼女は映画「告白」を見に行ったそうですが、タイトルからいわゆる「コクル」(好きな人に自分の想いをうち明ける、という意味の)と勘違いしたらしく、恋愛ものと思ってみたら全然ちがっていて気持ち悪かったと言っていました。そりゃそうでしょう、お気の毒に…と彼女に同情しました(笑)。これだけ話題になっても、中学にはこのような伝わり方しかしないのですね。

[3964]

こんばんわです。
いやはや、ホント。
扇風機をしまったことをちょっと後悔しているぐらいです(笑)
僕は油断したのか、ちょっと体調を崩しまして、咳がちょっと出たり、鼻水がちょっと出たり、という状況です。
ま、大したことはないですけどね。
相変わらずの森見ワールドでしたよね。
でもそれまでの森見作品とは一線を画す部分もあったなぁ、という感じもします。
荒唐無稽な世界観というのはそのままですけど、
テンション高く物語を突っ走る、という感じではなくて、
じっくりと落ち着いて物語を進めていくところがNew森見を感じました。
お姉さんは謎めいた存在でしたね。
確かに、四次元とかそういう世界を考えれば、なんとなく掴めるかもしれませんね。
お姉さんの正体も事件もですけど、きちんと答えが明示されないというところが個人的には好きです。
作品によっては、ここはちゃんと答えを示してくれよー、と感じるものもあったりしますけどね。
主人公の少年は、何だか丁寧に思考を進めるなぁという印象がありました。
好奇心も一杯で、小学生にしては優秀でしたね。
あんな感じで大人になっていったら、どうなるのか楽しみだったりします。
本多さんの新刊はどうでしょうね。最近どうもこれは!という作品に欠けている印象があるもので…。「ストーリー・セラー」は評判いいですね。是非読みたいところです。
その女子中学生の話は、なかなか興味深いですね。これだけ物凄く話題になっている作品なのに、その女子中学生には情報は届いてなかったんですよね。やっぱ情報が多すぎるんだろうな、という感じがします。もはや周囲に情報がありすぎて、ほとんどを雑音としてカットするしかないんだろうな、と。興味を持つ範囲によって、届く情報の幅が大分違うんだろうな、と思いました。

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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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18位 中脇初枝「わたしを見つけて
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)