黒夜行

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世界は感情で動く(マッテオ・モッテルリーニ)

でも去年の誕生日のことは、嫌な記憶としてきっとこれからも残り続けることになるのだろう。
 そもそもお母さんは、志保の誕生日当日は予定があると言って、お祝いをするのが二日前になった。仕事の都合でと言っていたけれど、たぶんまたいつもの外泊だったのだろうと思う。まあそれでも、お祝いをしてくれる気持ちがあるのは嬉しいと思って、お母さんとは話さなくなっていた時期だったけれど、それで自分の気持ちが少しでもいい方向に変わるならと、少しだけ期待していたのだ。
 志保ちゃんはビーフシチューが好きだったでしょう、と言われて、志保は少しだけ嬉しくなった。それまでも何度かチャンレンジしていたものの、まったくお母さんの味には届いていなかったから、久しぶりにその味を確かめることが出来るのだと思うと期待は高まった。
 しかしお母さんは、お客さんに教えてもらったのよ、といいながら、紙袋から高級そうな箱を取り出した。中を開けると、プラスティックの容器にビーフシチューらしきものが入っていた。並ばないと買えないのよ、と言いながらお母さんはキッチンにある電子レンジの方へと向かっていった。

「失踪シャベル 13-4」

内容に入ろうと思います。
本書は、ベストセラーになった「経済は感情で動く」の第二弾です。本書も、行動経済学について書かれた本です。
行動経済学というのをとりあえず、僕の拙い知識で説明しましょう。昔は経済学というのは、完全に合理的な判断をする人間、というのをモデルに組み立てられていた。しかし実際僕らは、様々な判断において、決して合理的な判断をする存在ではない。どう考えても不合理な判断をしてしまうような場合も多々ある。そこで、人間がどういう風に判断をするのか、どういう風に認知するのかという点まで含めて経済学を考えるようになったのが、この行動経済学です(さて、僕の説明は合ってるかな?)
本書は、人間が陥る様々な認知的バイアス(つまり、意識しなくては引っかかってしまうようなトラップみたいなもの)について説明しています。まあ具体的な話をいろいろ書く方が面白いと思うんで、僕が面白いと思った話をいろいろ書いてみようと思います。

でもその前に、僕自身は結構そういう認知的バイアスから逃れられているものもあるのではないか、という話を書きます。もちろん本書で扱われている様々な認知的バイアスの中には、あーこれは俺も逃れられないなぁというものも多数あったわけですけど、逆にこれは俺は引っかからないわというものもありました。
その内の一つが、『フォールス・コンセンサス効果』と呼ばれるものです。これは、人間はある状況における自分の判断や行動は一般的なものであり、適切であると考えるというものです。
さて、つい本書を読むちょっと前の話ですが、バイト先のあるスタッフとこんな会話をしました。その人は、最近の若者はウィキペディアの記述が正しいと信じていて、それで論文を書いたりしているらしい、どう考えたってネットに書いてあることなんて玉石混交で、常に正しいわけじゃないじゃん、と主張しました。さてここで僕はこんな風に考えたわけです。確かに最近の若者がウィキペディアの記述とかを使って論文を書いているらしいというのは知っていた。それに、僕自身の感覚からすれば、ネットの情報というのは信頼性が乏しいというのは当然なわけで、そう考えると若者の考え方はおかしいという風になるだろう。
でも本当にそうだろうか?例えば今の若い世代というのは、物心ついた時から周囲にネット環境がきっちりと存在していたのだ。僕なんか、インターネットなるものを始めてみたのは高校生ぐらいだったと思う。そんな僕と、物心ついた時からネット環境が潤沢に存在していた若い世代とを同じ土俵で比べていいのだろうか?だから僕はその人に、僕も今の若い世代と同じような環境で育っていたらどうなっていたかわからなかった、と返答しました。
僕はこういう、相手の立場からみたらどう見えるのか、という思考が一般的な人よりは出来る、と自分では思っています。もちろん、こう思っていること自体が既にバイアスなのかもしれないけど、このフォールス・コンセンサス効果というのは、僕は割と逃れられている気がします。
また多くの人が、ダイエットは明日から、嫌な仕事はギリギリまでやらない、なんていう思考をしているんじゃないかと思うんだけど、僕はそれについてもそういう思考はない。これを証明するために一番良いのは、僕は学生時代を通じて、長期休暇中の宿題は、長期休暇に入る前にほとんど終わらせていた、という事実があります。これを言うと、結構多くの人に驚かれます。
しかし、逃れられないバイアスもあります。その一つが、人間は現状維持という状態に固執しがちだ、というバイアスです。これはまさにその通りで、とにかく僕は変化があまり好きではなくて、今の状態のまま変わることなくいたい、と思っています。まさに現状維持バンザイ、という感じです。

『予言の自己成就』という認知的バイアスがある。これは、個人が自己の予測や願望が成就して欲しいと願った時、社会全体でそれが成し遂げられてしまう、というものです。銀行が倒産する、というデマによってお金が多量に引き落とされ、結果本当に銀行が倒産してしまうようなことです。
これの実験で面白いのが、自分の思い込みだけではなく、他人の思い込みでも間接的に影響を与えるという実験です。
ある小学校で、心理学者二人が子どもたちに偽のテストをして、教師たちにはそのテストで子どもたちの潜在的知能が測れると説明した。心理学者たちはその結果を丹念に調べるフリをして、テストを受けた子供の中から適当に四人を選び出し、この四人の知能がなんか月かのうちに飛躍的に伸びるだろう、と言った。するとその通りになったのである!

『ピーク・エンドの法則』というのは、あらゆる経験の快苦は、ほぼ完全に、ピーク時と終了時のかいく度合いで決まる、というもの。初めの5分雑音だらけで残りの15分素晴らしい演奏が収録されているCDを聞いたときと、最初の15分は素晴らしい演奏だったのに最後の5分が雑音だらけの場合だと、後者の方が不快感が増すのだ。
また別の実験ではこういうものもある。結腸鏡検査をする際、以下の二つのどちらが苦痛が大きいか患者に聞いた実験。
① 通常の結腸検査を受ける
②通常の結腸検査を受けた後に、結腸鏡の先端を何分かだけ直腸の中に残して置く。
もちろん重要な点は、結腸鏡の先端を残しておくというのは医学的には意味のない措置なのだけど、結腸検査そのものの苦痛よりも遥かに痛みが小さい、ということです。
この場合、②の方が患者の苦痛が遥かに軽減されるんだそうです。「快適である」というのは、「よりよい記憶が残っている」という部分を元に判断されるようです

『フレーミング効果』の章の最後の逸話が面白いので載せてみる。
まだ世間慣れしていない若い神父が、ある時司教に「お祈りをしながらタバコを吸ってもいいでしょうか」とたずねると、司教は厳しく「ノー」と言った。しばらくたってその若い神父は、タバコを深々と吸いながら一心に祈りを捧げている老司祭に出会った。若い神父は、お祈り中にタバコを吸ってはいけないと司教に言われました、というと、老司祭は「それはおかしいな」という。「タバコを吸いながらお祈りしてもいいかと司教に伺った折には、いついかなるときにも祈ってよろしいときっぱり言われたのだ」と。
意味が分かったでしょうか?つまり、「お祈りをしながら→タバコを吸う」という聞き方だとノーと言われるけど、「タバコを吸いながら→お祈りをする」という聞き方だとオーケーされる、という話でした。

確率についての話で、別の本でも読んだことがある有名だろう問題が載っていたので書いてみます。
『ある病気についての検査では、5%の確率で間違いのイエスが出る(間違いのノーはゼロ)。この病気は1000人に一人の割合で発生するのだけど、病気の疑いがあるかどうかとは関係なく検査を受けた人たちがいた。ある人の結果が「陽性」と出た。この人が実際にその病気を持つ確率はいかほどか?』
これを医者に聞くと、大多数が95%だ、と答えるんだそうです。そうじゃない。
1000人が検査を受けるとすると、その内1人は実際その病気にかかっている(つまり検査をすれば「陽性」と出る)。一方残りの999人の内5%には間違いのイエスという結果が出る。つまり約50人が、病気ではないのに「陽性」という結果が出るのだ。さてこの場合、「陽性」という結果が出た51人の内、実際にその病気にかかっているのは1人なのだから、確率は1/51で約2%となります。

『利用可能性』といのは、ある事象が起きる確率や頻度を考える時、思い浮かびやすいものほどよく起こりがちだと思ってしまうこと。
アメリカの例だけど、これについての凄く分かりやすい質問がある。
『その子の友達の父親が家にピストルを一丁持っていrことを知った時と、その子の友達の家の庭にプールがあることを知った時では、どちらのほうが安心していられますか?』
アメリカでは、6000万の家庭がプールを持ち、銃は2億丁あるけど、10歳以下の子供の内、毎年約550人が溺死している。一方で銃弾で死ぬのは約175人だ。銃の危険性がすぐに思い浮かぶために、銃の方が危険だと思ってしまうんですね。

『アンカリング効果』というのは、最初に印象に残った、後の事象とは無関係な数字や言葉が、後の事象に影響を与えてしまうというもの。
次の二つの問題を別々の二人に出す。
A「紙もペンも計算機も使わずに、1×2×3×4×5×6×7×8の答えを5秒で出してもらう」
B「紙もペンも計算機も使わずに、8×7×6×5×4×3×2×1の答えを5秒で出してもらう」

どちらも同じ計算で、正しい答えは40320。Aを聞かれた人の答えの平均は512で、Bを聞かれた人の答えの平均は2250だそうです。それぞれ「1」と「8」というアンカーになる数字を初めに目にしてしまったがために、それ以降の計算の結果に影響を及ぼしてしまったわけです。

注意力の欠如に関する面白い実験。被験者はバスケのビデオを見せられ、白チームがパスをした回数を覚えておくように言われます。そうしてビデオを見た後で被験者は、「ゴリラは見えましたか?」と聞かれるのだ。そう、実際にビデオにはゴリラが写っているのだけど、白チームのパスの回数に意識が集中してしまっているために、ゴリラの存在に気付けない人が多いんだそうです。

幸福度についての話が出てきて、具体的に書くのはめんどくさいんで省くけど、とにかく幸福度の要素として金持ちかどうかというのは関係ないんだそうです。

『自己奉仕的バイアス』というのは、ある行動や事象を説明する際に、成功しても失敗しても自分の都合の良いように判断をゆがめてしまうこと。たとえば喫煙と肺癌について自分のライフスタイルを変えざる終えないような医者からのアドバイスは聞かなかったことにする。一方で「食事の時に赤ワインをグラスに一杯飲むと健康によい」というような、医学的根拠はないけど自分にとっては都合のいい意見はすぐに受け入れてしまう。だからアホみたいなダイエット本や自己啓発本が売れるわけだ。

ある長さの線が、隣にある三つの選択肢の内どれと長さが同じか、という問いをされる際、自分以外のすべての人が明らかに間違った答えを言うと、自分の答えへの自信が揺らぎ、自分も明らかに間違った答えを口にしてしまう、というようなことがあるみたいです。でもたぶんこれは、僕は回避できそうな気がするなぁ。時と場合によるけど。

人間の記憶は簡単に嘘をつく。ある自動車事故のビデオを見せられた一週間後、「ガラスが割れていたのをあなたは見ましたか?」と聞くと、多くの人がガラスが割れるのを見たと答えました。実際そのビデオの中では、ガラスなんて割れてなかったのに!

というような感じでとにかくいろんなことについて書いてあって面白いですね。この行動経済学の話は、経済の分野に限らず、僕らの生活全般に関わってくる話なんで、とにかく人生で一度でいいから、どんな本でもいいから、行動経済学の本を読んだ方がいいだろうな、と僕は思います。
しかし本書を読んで感じたことは、人工知能ってのは作れないんじゃないかな、ということです。人間には、無意識の内に絡め取られている数々の認知的バイアスがあるわけで、それは自分では制御出来ない。その制御できないものを、人間の手で制御して形にするのが人工知能だとすれば、まあ人工知能は無理なんじゃないかなと思います。人間らしい判断、人間らしい思考というのは、いかに不合理なもので成り立っているのかを知ってしまうと、その不合理さを人工のもので作り出すというのは無理な気がしてきました。
まあそんなわけで、ものすごく面白い本でした。とにかく本書は、人間はいかに思考しいかに決断しいかに行動するのか、ということについて書かれている本です。経済というよりは心理学に近い作品ではないかなと思います。
本書のような行動経済学の理屈を使って、お客さんをうまく誘導するような売り場やPOPを作れないものかしら。まあその辺はおいおい考えていこうと思います。是非是非読んでみてください。

マッテオ・モッテルリーニ「世界は感情で動く」




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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
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