黒夜行

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蒼空時雨(綾崎隼)

会田君と話していて気楽なのは、どんな話題を出しても大丈夫だと思えるところにあるのだ、と思った。志保はどんな人間関係であっても、踏み込んではいけないラインを見定めようとしている。人それぞれ、話すのが得意なジャンル不得意なジャンルがあるし、話したくないことだってある。うまく話せないことや、知識がないことだってたくさんあるだろう。志保は、相手のそういうラインを見極めて、その範囲内で人間関係を築いていくというやり方でこれまで生きてきた。それがたとえお母さんであっても、いや、近しい存在であるからこそかもしれないけれど、そのラインの見極めには慎重になった。そういうことを心がけているからだろう、志保は誰とでもそれなりに人付き合いが出来る代わりに、踏み込んだ人間関係というものにどうしても苦手意識を感じてしまうのだ。相手のラインを踏み越えてまで、相手の内側に入っていかなくてはいけない理由を、志保は見いだせないでいたのだ。

「失踪シャベル 12-7」

内容に入ろうと思います。
作品の構成上、ちょっと内容の紹介をしにくいんですけど、まあ頑張ってみます。
譲原紗矢はほとんど所持品を持たないまま、とある男の家で居候を始めた。土砂降りの雨の夜、舞原零央のアパートでびしょ濡れで倒れていた紗矢は、そのまま居候を始めたのだった。
二人の生活は、初めこそ突然居候をし始めるという紗矢の謎めいた行動に猜疑心を抱かせるも、次第に穏やかに日常となっていく。
しかし紗矢は、実はある秘密を抱えていた。ひと月が経った頃、ようやく紗矢は秘密を明かすことになるのだが…。
譲原紗矢と浅からぬ縁があり、舞原零央の高校時代の先輩である楠木風夏や、風夏の双子の姉である朽月夏音などの恋愛模様も描かれ、舞原零央もいた高校時代の演劇部のことなども描かれていき、幾重にもすれ違った人々の恋愛模様が描かれて行く…。
というような話です。
いやー、これはいい話でしたね。正直、どうしてか分からないけど、結構期待していた作品ではあるんです。表紙がよかったからかな(しかし、こういう表紙とかで面白そうとかって判断をよくするけど、冷静に考えれば作品自体の内容とはまるで関係ないんだよなぁ。でも、関係ないと分かっていながら、やっぱり表紙がいいと期待してしまうなぁ)。期待通りの作品、という感じでした。
読み始めは正直、あーよくある感じのラブロマンスっつーわけですか、みたいな感じでしたよ、正直。でも、一番初めの雨宿りから始まるくだりが、割と早めに終わって、今度は双子の姉妹とかが出てくるんですね。ここまで読んだ時点で、なるほどただのラブロマンスってわけでもなさそうだな、と思い直せました。さらに読み進めて行くと、展開がどんどん面白くなっていくんですね。いや、確かにメインのストーリーはどの話も恋愛なんだけど、でもそれだけに終始しているわけでもない。恋愛以外のストーリーもちゃんとあるし、しかも伏線めいたものを結構うまいこと組み込んでいるんで、そういうことだったのかーとか、なるほどー、というような驚きも結構あったりするんですよ。
個人的に好きなのは、双子の姉である朽月夏音のパートですね。夏音のパートが出てくる前に、双子の妹の風夏がメインの話が出てくるんだけど、そこで風夏が姉である夏音について語る部分が結構あるんですね。でも、夏音のパートを読み始めると、風夏が夏音について語った印象がすっかり変わっていくんですね。それこそ、オセロで一気に黒が白にひっくり返るみたいな感じがあって、いいなと思いました。しかも、夏音の恋愛っていうのがなかなか切ないものがあって、しかも美しいなーと思わせるような恋愛でもあるんですね。この閉じられた世界観は、僕は結構好きだなと思いました。
また、舞原零央の話もなかなかいいですね。まあこれについては書きすぎるとネタバレになりかねないんで抑えめでいくけど、こういうカッコいいんだけどなんだかうまく生きていけない男みたいなのって実際にいそうで、中高時代の話なんかもかなり楽しめました。
文章は、巧いというようなタイプの文章ではないけど、リズムがあって読みやすいし、また何より会話文でキャラクターをきちんと描き分けられているのがデビュー作とは思えないほどだなと思いました。ラノベ系の新人賞だから当然と言えば当然なのかもしれないけど、キャラクターの描き方は実に見事ですね。一人ひとりの個性が作品にしっかり絡み付いているし、ストーリーがさほど展開しないような場面でも、キャラクターの魅力で充分読ませてくれます。
何よりも、譲原紗矢のキャラクターが実に素晴らしいですね。これは惚れるわー。正直、女性の目から見たらこのキャラクターが受け入れられるか分からないんだけど(もしかしたら譲原紗矢みたいな女性は嫌いなんていう女性もいそうな気はする。そこまで女性に嫌われるってキャラでもないとは思うんだけど。女性ウケしそうなのは、双子の妹である楠木風夏かなぁ)、男からすりゃあ、まあこんな女性が近くにいたらアウトでしょうね。まあしょうがないですよね、それは。
個人的には、朽月夏音もかなり好きです。僕は変わった人間が好きなんで、夏音くらい変わってる女性は大好きです。しかも、その変わっている性格に理由があった、という描写には、うわー哀しいなぁ、とか思ってしまいました。
個々人のどうしようもない生い立ちや境遇なんかを実にうまいこと重ねて、微妙な微妙なすれ違いを描く辺り、相当うまいです。そういう作品だと、現実味が薄れてしまうようなものもあると思うんだけど、本書はきっちりと現実味のあるしっかりしたストーリーとして描かれています。その辺りのバランスもうまいなと思いました。
しかしですね、小説以外の部分で一点ちょっと文句があるんですね。とはいえ、それを具体的に書いてしまうとネタバレになるんで書きませんが、ちょっとそれはフェアじゃないだろ、と僕は感じました。そこはなんとか頑張って欲しかったな、とは思います。いや、まあ確かに相当難しいとは思いますけど。
いやまあそんなわけで、これは傑作ですね。表紙もいいし、ちょっと頑張って売ってみようと思っています。これは売れそうな気がするなぁ。メディアワークス文庫ってなんとなく敬遠してたけど、ちょっと読んでみようかな。割と質の高い新人がいそうな気がする。というわけで、本書は傑作なんで、是非読んでみうてください!しかし今年はホントに新人の作品にいいのが当たる。

綾崎隼「蒼空時雨」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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7位 「ぐろぐろ
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)