黒夜行

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ハイブリッド(木野龍逸)

そんな風に聞いてきたのは、さっきまでアカネちゃんと、なんとかっていう有名らしいサッカー選手のフリーキックの凄さについて語っていた男の子だった。確か会田なんとかみたいな名前だった。アイダショウコとは字が違うんだ、とか言っていたから苗字は覚えているんだけれど、そもそもアイダショウコが誰なのか志保には分からなくてちょっとだけ困ってしまったのだ。
 志保は、その会田なんとかっていう男の子に少しだけ興味を持った。合コンが終わる頃ならともかく、まだ個別で話すようになってそこまで時間が経っていないのだ。前半で盛り上げている女子というイメージが強いこのタイミングで、合コンが好きじゃないのではと聞いてくる男の子はこれまで誰もいなかった。何かそう悟られるようなことでもしただろうかと聞いてみたい気になった。
「どうして?」
「だって普通さ、君みたいに自然に気配りの出来る女の子って、あんまり合コンに呼ばれないんじゃないか、ってさ」

「失踪シャベル 11-4」

内容に入ろうと思います。本日二度目の更新です。
本書は、世界初のハイブリッド車であるプリウスを開発したエンジニアたちの開発の物語です。
プリウスは、関わったエンジニア全員が、99%不可能だと思っていたプロジェクトだったようです。なにせ、開発にたったの2年しか猶予がなかった。まったく新しい車を開発するにはありえない期間です。元々予定していた計画年数(それさえ多少ギリギリで組んでいたのに)を、当時の社長の一声でいきなり2年も縮められたのだ。しかも、2年後に発売というのは元々社内的な期限であり対外的にはまだ発表していなかったにも関わらず、ある時社長が発売する時期を明言してしまったために、その時点ではまだまともに車が走っていなかったにも関わらず(!)、そこから無理矢理なスケジュールで、結局期日までになんとか間に合ったわけです。
誰もがクレイジーだと言ったそのプロジェクトは、もともと実に大雑把な形で始まりました。
そもそもは、当時の会長が「今のままのクルマづくりでいいのか」と度々疑問を呈していたのを受け、じゃあとりあえず次世代の車を作ろうというG21というプロジェクトを立ち上げるわけですけど、この時点ではハイブリッドに挑戦する予定もなかったし、そもそも近いうちに生産ラインに乗るようなそんな予定もなかったわけです。
しかし、ある人事異動が状況を一変させます。トヨタ内で「技術の天皇」と言われる和田が副社長になり、その和田がG21に「ハイブリッドで燃費を二倍にしろ」と言ってきたわけです。和田にも二倍という根拠はなかったわけですけど、いずれにしても技術の天皇の一言。もうこれはやるしかありません。
実は社内に、誰にも内緒で勝手にハイブリッドの研究をしていたという塩見という男がいました。プロジェクトのトップに畑違いの人間を据えるなど、新しいやり方で進んで行く。そうこうしていく内に、このプロジェクトが全社プロジェクトの様相を呈して行くことになる。そもそも近いうちに生産ラインに載せるなんてつもりはまったくなかったG21のメンバーは、まず量産化が決まり、その期日が決まり、しかもその期日がどんどん短縮されて行くに連れて、これは本気だと感じるようになっていった。
そうやって全員がひっちゃかめっちゃかムチャクチャなことをやって、それでもなんとか結果オーライ、なんとか2年という超驚異的な短期間で開発されたのがプリウスなわけです。
しかしプリウスというのは凄い車みたいですね。プリウスが出た時ある自動車関係の技術者は、システム解析のために分解して調べたらしいのだけど、「なぜこのシステムが成立するんだ?」と思ったらしい。機構は理解できるのだけど、細かな部分の組み合わせがとんでもなくて、特許以前の問題として、同じものを作ることがそもそも難しいと思ったらしい。「あれを考えた人は天才だよ」とも言ったとか。未だに欧米では、プリウスを2年で開発したと言っても信じてもらえないのだそうだ。そんなわけがない、と。
しかしプリウスの開発メンバーには変な人間がたくさん出てくる。一番変なのは、やっぱさっきも書いた塩見でしょうか。塩見が勝手に立ち上げた第三開発センターは、何をしているんだか外からではさっぱり分からないところだったらしく、「あそこには近寄るな」とか「塩見サティアン」とか呼ばれていたらしい。大分以前から環境対策の重要性を感じていたにも関わらず、声高に主張するでもなく黙々と研究を続け、ハイブリッドの開発が始まってからも深慮遠謀で周りを動かすという策士っぷりも凄いです。
藤井というのもなかなか凄いです。元々振動や騒音対策の部署にいたのだけど、塩見に呼ばれてハイブリッドの先行開発を担当することになった。でも、ハイブリッドということは電気ももちろん使うのだけど、藤井は電気についてはまるで無知。一次電池と二次電池の違いすら知らなかったというのだから凄い。そんな藤井が、最終的にプリウスには必要不可欠だった電池を何とか開発したわけです(直前にいろいろバタバタあったのだけど)。プリウスの肝である電池の開発についてはトヨタも相当苦戦したようで、初めは松下電器と組んでやっていたものの、やがて自社で開発を決断することになります。そうやって一から、しかも短期間で開発しちゃうんだから凄いものです。今では、新しくプリウスのリーダーになった若手に、『必ず失敗は起こると思って取り組んでください。決してあわてないで、ゆっくりゆっくりやって、失敗してもなんとかなると思ってやってください』と言っているのだという。
無知と言えば、G21のリーダーになった内山田もそう。元々実験出身の人で、G21のリーダーになったものの、車一台をまとめた経験がない。こういう、知識も経験もない人間にとりあえずやらせてみる、というのが結果としてうまく行ったわけで、そういう度胸みたいなものも大事だったんだろうなと思います。
「技術の天皇」である和田は、要所要所で重大なことを言います。特に重要だったのは燃料タンク。この逸話は僕もどこかで聞いたことがあるんですけど、こういう感じです。
技術者たちは、燃費が半分になるのだから、燃料タンクも半分にしちゃえば室内も広く取れるしいいと考えていた。しかしそれを聞いた和田は即座にダメだという。お客さんがどうやって燃費の良さを実感するかっていうと、ガソリンスタンドに行く頻度が短くなるからだ。だから燃料タンクは小さくしたらいかん、と。これはプリウス発売後のお客さんの反応としてまさにそうだったようで、和田の慧眼だと言えるでしょう。
八重樫というのも素晴らしいですね。開発現場の実質的なリーダーで、これまでにも経験豊富なベテランなんだけど、やっぱり仕事の進め方が丁寧で、一方で大胆にムチャクチャでスゴクいい。
八重樫が言っていることで凄く面白いなと思ったのは、結果的にTHSと呼ばれるようになったハイブリッドシステムについて。元々先行開発は藤井がやっていたのだけど、そこでの検証を仕切れない内に実際の開発が始まってしまった。藤井は最終的にいくつかあったハイブリッドシステムを4つにまで絞り、その中からまあとりあえず良さそうだなという一つを選んでいろいろ実験をしていた。結局時間がないからその藤井が選んだシステムで開発が進むことになったのだけど、結果的にそれが良かった。シンプルな仕組みだし、発想の仕方によっていろんなことが出来る。
でも八重樫は、もし時間が潤沢にあったらこのシステムを選んでいなかっただろう、と言ったそうです。結果的に素晴らしいハイブリッドシステムだったTHSをもし採用していなかったら、もしかしたらハイブリッドカーはここまで普及しなかったかもしれない、と著者は書いています。これも、結果的にいい方向に進んだ出来事の一つでしょう。
驚いたのは、プリウスを発売すると発表した時のお客さんの反応。なんと、現物を見ることなく予約をした人が2000人もいたのだとか。元々1000台売ることが目標だったトヨタにしたら、発売前から品切れという嬉しい悲鳴状態で、こういうお客さんの反応があったからこそ、生産し続けることが出来たと書いています。
またトヨタがやったサービス体制です。なんと、開発に当たった技術者が自らプリウスに乗ってお客さんの元に行って修理するんだとか。もちろんそうやってトラブルを回収することで、次のプリウスに活かそう、という目論見なんですけど。あと、何故プリウスに乗って修理に行くのか。それは、もし行った先で原因が分からなかった場合、とりあえず自分たちが乗ってきたプリウスの中身とそっくり取り替えてしまえば動くはずだから、という理由なんだそうです。確かに合理的な発想だなと思いました。
まあそんなわけで、新書という分量の少ない媒体にしては結構内容も充実していて面白かったなと思います。とはいえ、やっぱり新書ではなく500ページぐらいの単行本で読みたいですね。もっと具体的にどうだったのかという部分を突っ込んで書いた本が読みたくなりました。そういう本は出てないかな?
細かな部分については分かりませんが、開発の大雑把な流れ、そして各人がどんな風に無茶をし、どんな風に感じていたのかという部分については大雑把ながら分かる作品になっています。結構面白い作品です。興味があったら読んでみてください。

木野龍逸「ハイブリッド」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
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8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)