黒夜行

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世界は分けてもわからない(福岡伸一)

教授が事故で亡くなって、志保が大学へのやる気を失うと、それと反比例するようにしてバイトの時間は増えていった。今では、週に三四回程度はバイトをしている。事情を説明して、もう少し増やしてもらった方がいいだろうか。
 お客さんの姿はまばらだった。週末でなければ大体こんなものだ。トラブルに発展しそうなお客さんもそんなには来ない。時折呼ばれて注文を取りに行く以外はやることもほとんどなくて、志保はスタッフとの話に相槌を打ちながら、お母さんのことを考えていた。
 初めは、居酒屋でバイトなんかしたくない、と思っていた。その少し前に、突然お母さんがスナックで働くようになった。スナックというのがどういうところなのかよく知らないけれど、お酒を出す店だというのは間違いないだろう。業種はまったく違うとは言え、自分がお母さんと同じくお酒を扱う仕事に就くことには抵抗があったのだ。

「失踪シャベル 10-2」

内容に入ろうと思います。
本書は、「生物と無生物のあいだ」がヒットした生物学者による作品です。
ただ本書の内容を紹介するのは実に難しいんです。後で書きますが、本書の作品全体としての構成は実に素晴らしいと思います。ただ、前半から中盤に掛けては、話題があちこちに散逸する。タンパク質を構成しているアミノ酸で一番頻度が低く使われているトリプトファンの話題、健康食品で使われる防腐剤の話、膵臓にあるというランゲルハンス島のこと、またロサンジェルスとヴェネチアそれぞれに収蔵されているとある二つの絵の話、あることを実証しなくてはいけない時にどんな実験をすればいいのかという話、渡辺剛という写真家の話などなど、とにかく生物学の本とは思えないほど、とにかくあらゆる方向に触手を伸ばし、話題が展開されていきます。
そして最後の方で、ようやく本書のメインだろうと思われる話が続きます。それが、世界で最も有名な生化学研究室とそのボスであるエフレイム・ラッカー、そして神業的な実験テクニックを持つスペクターという若者による、ある実験の物語が描かれることになります。
最後まで読むと、なるほどそれまでバラバラに思えてきた様々な話題の多くが、この最後の話に繋がるのだな、と思えます。その構成は実に素晴らしいと思いました。まったく関係のなさそうな事柄をいくつもあらかじめ提示しておいて、最後にそれをつなぎ合わせるという点では、伊坂幸太郎の小説のような構成の見事さを感じます。最後のその実験についてはとりあえず何も説明しないでおきますが、科学というものは一筋縄ではいかないということを実感させてくれる話です。
というわけで、本書の構成の見事さについては評価出来るんですが、本書には難点が二つあると僕は思います。
まず、前半から中盤に掛けての話題のとりとめのなさ。確かにこれらは、最後の話を読めば、なるほどだからこの話を書いたのかとなんとなくわかるような構成になっています。それは素晴らしくていいんですが、でも前半から中盤部分を読んでいる時にはなかなかそんな風には思えないわけです。小説なら「伏線」と捉えることが出来るでしょうけど、本書の場合前半から中盤に掛けての話題が最後につながってくると予見出来る人はそう多くはないでしょう。それぞれの話題は確かに興味深いので読み進めることは出来るんですけど、あまりにも話題が飛び飛び過ぎていてそのまとまりのなさが一方では読みにくさに繋がっているな、と僕は感じました。
もう一点は、後半に行くに従ってかなり内容が専門的になっていく、ということです。僕は学生時代生物はほとんどやっていないので(物理と化学しかやってません)、生物学の基本的な素養もない人間です。もちろん本書に書かれている内容は、高校レベルの生物の知識があっても難しい内容なのかもしれないけど(僕にはそれは判断出来ません)、とにかく僕にはちょっと難しいな、と思えました。これまで読んだ「生物と無生物のあいだ」とか「できそこないの男たち」なんかは、確かに専門的な部分もあったと思うけど、それでも生物初心者の僕にも普通に読めるような作品だったはずです。でも本書は、前半から中盤に掛けては特に問題ありませんが、最後に向かうに連れてかなり難しくなっていくので、話を追うのが僕にはちょっと辛かったです。実験手順の細かな部分とかは読み飛ばしてしまいましたし。
この二点は、致命的とは言わないけど、これまで読んだ二作品がよかっただけに、ちょっと僕の中ではマイナス評価だな、という感じです。
しかし相変わらずですが、福岡伸一の文章には格調がありますね。理系作品を読んで、格調高い文章に出会うのは、福岡伸一ぐらいでしょうか(森博嗣も理系で作品を出してるけど、理系作品を出してるわけじゃないしな)。美術や文学なんかにも造形が深いようで、科学一辺倒の人ではないという点が教養としてにじみ出ているんでしょうね。格調高いという点では、福岡伸一の作品は理系作品の中ではかなり異質と言っていいでしょう。
先程書いたようなわけで、本書は他の福岡伸一作品と比べるとどうしてもちょっと劣った評価になってしまいます。決して悪いわけではないんですけど、あまり気軽に人に勧めるのは難しい作品かなと思います。とにかく本書ではなくて、「生物と無生物のあいだ」を読んでください。マジ傑作ですから。

福岡伸一「世界は分けてもわからない」



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世界は分けてもわからない (講談社現代新書) by G-Tools福岡伸一。『生物と無生物のあいだに』の著者ですね。生物、化学、地学といった宮.

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世界は分けてもわからない (講談社現代新書) by G-Tools福岡伸一。『生物と無生物のあいだに』の著者ですね。生物、化学、地学といった宮.

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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)