黒夜行

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セカンドウィンドⅡ(川西蘭)

「まあでも、あたしなんか一人暮らしだから、いきなりお母さんがいなくなったりしても実感湧かないだろうな。今も一緒に住んでたら、どうかわかんないけど。ベアはどう?」
「どうなかあ。一緒に暮らしてると、鬱陶しいなって思うこと結構あるから、いなくなってせいせいしたなんて思うかもしれないけれど」
 カナちゃんの場合それはないだろう、と思った。なんだかんだと言って、誰かが傍にいないとダメな性格のはずだ。でもカナちゃんが自分をそういう風に見せたいと思っているのだから、何も言わないでおいた。
「まあうちのお母さん、最近酷かったし、案外なんとも思ってないかな。家で顔を合わせることも最近じゃあんまりなかったしね」
「ベル鬼畜」
 アカネちゃんがおどけるようにしてそう言って、この話は終わった。
 三人はいつものようにとりとめのない雑談をした。サークルの話題が多かった。サークルでは、日常的に何らかの活動があるけれど、志保はバイトがあるからいつも顔を出せるわけじゃない。今日も夜バイトがあって、サークルには出られない。

「失踪シャベル 9-5」

内容に入ろうと思います。
まずざっと1巻の内容から。
中学3年生の主人公・溝口洋は、小さい頃に買った元郵便配達用の自転車に乗って走り回るのが大好きな少年だったのだけど、ある時自転車レースのクラブチームの練習を目にし、いろいろあってその自転車クラブに練習生として参加することになる。自転車との関わり方に悩みながらも、日々練習を続けていくが…。
という感じ。
2巻では、主人公の溝口洋はいきなり高校二年生になっている。念願だった南雲学院に入学し、自転車部の主力選手として、学費等を免除された特待生というような扱いである。
しかし洋は、とある理由から思い切りペダルを踏み込むことが出来なくなっていた。練習にもなかなか身が入らず、悩む日々が続く。そんな洋の様子に、監督からはチームの主力になれないのなら自転車に乗れなくなるかもしれないと言われ、主将である南雲真一からはガッカリだと言われ、洋自身もどうしたらいいのかわからなくなっていく。チームメイトとの関係もいろいろと悪化していき、チーム内での洋の居場所がどんどんとなくなっていく。
一度主力選手という立ち位置を離れ、サポート的な仕事をこなしたり、海外からの留学生の相手をしたりといったことをしながら、自分は結局どうしたいのかと自問していく…。
というような感じです。
しかし1巻を読んだ時も思ったけど、この作品はスポーツ小説としてはちょっと異質な作品だなと思います。1巻では、そもそも自転車に乗っているシーンがそんなに多くなくて、自分は自転車に乗りたいのか乗りたくないのか、という逡巡をずっとしているような作品だったんだけど、本書も似たような感じがあります。本書で主人公は主力選手としてチームに入ったのだけど、イマイチ主力選手として頑張れていません。練習にも身が入らないし、試合なんかにも出てないんで、全然スポーツ小説らしくないんですね。普通は、才能のある仲間を見てメチャクチャ努力するとか、試合でライバルと切磋琢磨するとかそういうような描写が出てくるはずなんだけど、そういうのはほとんどない。とにかく本書で主人公は、自分は楽しく自転車で勝ちたいのかどうか、ということをずっと悩むわけなんです。
主人公はどうしても、相手を蹴落としてまで勝とう勝ち残ろうという発想が乏しいんです。洋としては、とにかく楽しく自転車に乗れて、その結果として勝ちがやってくるならいい、ぐらいの感覚なんだけど、チームメイトにはそれは遊びと変わらない、というようなことを言われたりするわけです。そんな中で洋は、いろいろな経験をする中で、自分は結局どうしたいのかということを問いかけ続けることになるわけです。それが本書の読みどころであり、他のスポーツ小説と一線を画す部分で、なかなか面白いんですね。
しかし本書で一番よかったのは、後藤という男の存在ですね。主人公は寮に住んでて、その寮が相部屋なんだけど、その相部屋相手が後藤なんです。この後藤という男、とにかくめんどくさい男で、たぶん一緒にいたらイライラしてくると思うんです。実際洋も多くの場面で後藤に対してイライラしてますからね。それでもこの後藤、作中でなかなか味のあるいいキャラクターになっていくんですね。登場した当初は、なんだコイツというような男なんだけど、次第に興味深い男になっていくんです。病弱のために二年高校を休学していて、成績はトップクラスで、もう大学院だって狙えるくらいの学力はある。病弱なくせに洋と一緒に自転車に乗りたがって、最終的には自転車部に入ってしまうのだ。しかもそこで存在感を発揮するようになっていくという、まあわけわからん男なんだけど、後藤のキャラはホントに面白いですよ。
しかもこの後藤という男、表面上は全然だけど、ベースとなっている部分が僕とそっくりだなと思うんです。とにかく理屈っぽいんですね。理屈さえ通れば、どれほど非常識なことだって受け入れるけど、理屈が通らなければどれだけ常識的なことでも受け入れない、というようなタイプですね。めんどくさい性格だけど、ある意味では扱いやすいとも言えるんじゃないかなと思います。
あと、今泉との関係が大分変わっているのも面白いですね。1巻では、確か最後の方までいがみ合っていたようなイメージがあったんだけど、2巻では良きライバルみたいな感じになっていきます。あとなんだか新キャラが結構たくさん出てきて、お蝶夫人みたいな感じの人が出てきたり、偏屈な男が出てきたりと、キャラクター的にもなかなか充実している作品です。
結構長い作品なんですけど、すいすい読めてしまうと思います。しかも、スポーツ小説でありながら普通のスポーツ小説のような展開にはならないという、なかなか変わった作品です。まだシリーズはきっと続くでしょうけど、どうなるでしょうか。続きが気になる作品です。是非読んでみてください。

川西蘭「セカンドウィンドⅡ」




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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)