黒夜行

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残される者たちへ(小路幸也)

敬叔父さんが、自分の意見を引っ込めない人だということは分かっていたから、敬叔父さんの提案を素直に受け入れることにした。でも、これだけはきちんと言った。いつか必ず返します、と。敬叔父さんから受けている援助は、すべて借りているだけなんだ、とでも思わないと、とてもじゃないけど自分の中の申し訳なさを打ち消すことが出来なかった。そう言うと敬叔父さんは、じゃあ将来何倍にでもして返してもらおうかな、と笑いながら言った。未だに子ども扱いされているのが悔しくて、志保は少し拗ねてやった。
 気づけば大学までもう少しだった。たぶんそんなタイミングを見計らっていたのだろう、敬叔父さんは、それまで話していた軽い口調ではなく、少しだけ真剣味を足した声でこう言った。
「警察に届けたくないっていうのはどうして?」
 敬叔父さんにこのことを聞かれるのは分かっていたから、志保は用意していた答えを口にした。

「失踪シャベル 7-11」

内容に入ろうと思います。
本書は、「東京バンドワゴン」シリーズで有名な著者の作品です。
川方準一は、ふと気が向いて、小学校時代の同窓会に出てみることにした。子供の頃父親が失踪して、そのまま生まれ育った団地を引越してしまったけど、小学校の頃は同じ団地の子供ばっかりが通う小学校に通っていた。今は、高校時代からの友人と独立して会社を興したのだけど、久しぶりに同窓会に出てみるのもいいかもしれない。
懐かしい顔と再会し、忘れていたような思い出も次々に蘇ってくる同窓会だったのだけど、その同窓会の幹事である押田という男の存在をどうしても思い出すことが出来なかった。しかも同じクラスだったという。準一には押田についてまったく記憶がなく、忘れているという感覚さえなかった。さらに、押田に近づくと、背中に何か突っ込まれるような激しい嫌悪感を覚えるのだ。
同窓会を一次会で切り上げることにした準一は、幼馴染で久しぶりにあった藤間未香とお茶をすることにした。未香は精神科医になっていたようで、準一は助けを求めるようにして未香に今の状況を話して聞かせる。
二人は、すべての原因が団地にあると判断し、何が起こっているのか調べることに決めるのだが…。
というような話です。
なかなか面白い作品でした。この著者の作品は「東京バンドワゴン」シリーズしか読んだことがないんだけど、もともとメフィスト賞という割とミステリー系の新人賞を受賞してデビューしてるし(デビュー作がミステリかどうか分からないけど)、ミステリタッチの作品もなかなか面白いなと思います。ただやっぱり、「東京バンドワゴン」シリーズの方が面白いと思うけど。
何故押田という旧友のことをまるで覚えていないのか、というのがストーリーのメインになっていくんですけど、今年の頭に僕も初めて高校時代の同窓会に出た時のことを思いだしました。僕はもう記憶力が虫並でして、大学時代のことすらおぼろげになりつつあるような貧弱な記憶しかないんだけど、それでもまあなんとなく覚えているものですね。名前を忘れていた人はたくさんいたし(っていうかほとんど忘れてたかな)、顔があまりにも変わったりして思い出せなかったりといろいろあったけど、こんな奴いたっけ?みたいなのはさすがになかったですね。
だから、同じクラスだったのにまるで覚えていない奴っていうのがいたら、それはちょっと驚くなんてもんじゃないだろうな、と思います。
まあそこから、割と都合よく、幼馴染でかつ精神科医っていう人間と一緒になって謎に当たって行くんだけど、どんどんと不思議なことが積み重なっていく過程は興味をそそりますね。団地にすべての謎があると分かっていながら、まったくどういう方向に進んでいくのかわからない感じは面白いなと思います。
ただ、後半ちょっとなという感じはしました。もっとちゃんと言葉にすると、ちょっと足りないな、という感じなんですね。
謎を追いかけて行く過程はあれぐらいの分量でいいと思うんだけど、謎が分かってから最後までがちょっと駆け足すぎるような印象がありました。具体的に書くとちょっとネタバレになるんで触れられませんが、本書の肝である部分は、もう少し深く描いて欲しかった、という感じがしました。正直、全体的にふわふわして曖昧な感じで、なんとなくわかるけど、ちょっと読み手に投げている感じがあるな、という気がしました。設定としては面白いと思うし、着地点としてはいいと思うんだけど、あんまり掘り下げないままで終わってしまった印象があるので、そこがちょっと残念だなという感じです。
個人的によかったなと思うのは、芳野みつきっていう女の子の存在ですね。たぶんこの子の存在がなかったら、この作品はちょっとつまらない感じになってしまっただろうな、と思います。芳野みつきっていうキャラクターが全体のバランスをうまく保っていて、ちょうどよかったな、と思います。大人びているようで、でもやっぱり女の子で、ちょっと不思議な味わいのあるキャラクターです。みつきのお父さんも、そんなには出てきませんが、好感の持てるキャラクターだなと思いました。
しかし、最近読んだ本では、「増大派に告ぐ」って本もそうだったし、前に読んだ本では、「みなさん、さようなら」って本があったけど、団地を舞台にした作品って結構ありますね。僕は団地に住んだ経験はないし、今では団地という形式はあっても昔ながらの近所づきあいみたいなものはもう廃れているのかもだけど、でも子供の時ぐらいだったら、団地って結構面白かったかもな、とか思います。でもあれか。学校でいじめられてたりとかすると、団地でも同じヒエラルキーが維持されて余計大変、みたいなこともあるかも。まあ分からないけど、古き良き時代の団地っていうのをちょっと経験してみたかったかな、という気が少しだけします。
まあそんなわけで、まあまあ面白い作品でした。個人的には「東京バンドワゴン」シリーズをオススメしますけど、この作品も悪くないと思います。

追記)amazonの評価は、なかなか辛いですね。気持ちは分かりますけど。

小路幸也「残される者たちへ」




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Comment

[3879]

こんばんは。
桜も綻び始め、本格的に春到来ですね。
私も、最近この本を読みました。『東京バンドワゴン』の印象が強いので、エッ?という思いで読み進めました。『東京~』はある意味ファンタジ、こちらはホラーなのでしょうね(笑)。
私も団地で暮らした経験はありませんが、団地の霊(意志)って…?ちょっと怖い話でした。それに共通のアザの話も、リアルですよね。
通りすがりさんがお書きの芳野みつきちゃんとお父さんの存在は、ちょっと流れを変えるようなはたらきをしていましたね。ふわふわした話を繋ぎ止めるような役割でしょうか。
最後は凄かった(凄すぎた?)ですね。建物の意志(三崎亜記風の)なのでしょうね。それにしても小路作品ですので、意表を衝かれた感じです(笑)。私自身の先入観が強すぎるので、普通に読めなかったこともありますが。
また『東京~』シリーズを出して欲しいですね。こちらの方が読みたいです(笑)。
昨日開高健ノンフィクション賞の『インパラの朝』を読みましたよ。筆者の中村さんが訪ねた国はアジア、アフリカで、私たちが抱いている後進国のレッテルが単なる紙屑に過ぎないことが分かりました。上から目線でモノを見てはいけないなぁ、と痛感しました。なかなかおもしろい本です。有川さんの『シアター!』も読みましたが、彼女は路線を武闘派から家族モノへ移動されたようですね。『フリーター、家を買う』とちょっと雰囲気が似ていました。共に家族愛がメインテーマです。
では、この辺で。
次は『さよならドビュッシー』ですね。期待しています!

[3880]

こんばんわです。そういえば東京では桜が開花したとかニュースで見た気もします。
もともとどんなタイプの作品でも書く作家ではありますけどね。ただ確かに、小路幸也っていう作家の印象からすると、結構違和感のある設定ではありましたね。話自体は面白いかなと思うんですけど、<彼ら>の存在があまりにもふわふわしすぎていて、もう少し深く突っ込んで欲しかったかなという気もします。謎の提示の仕方はなかなか面白かっただけに、尻つぼみになってしまった印象がありました。
芳野みつきちゃんとお父さんはよかったですよね。準一や未香の大人の話から離れて、全体の雰囲気がふんわりとするようなスイッチが入りました。最後の最後、みつきちゃんが何故か崩壊しかけている建物に駆け寄ろうという時、お父さんが「戻ってくるんだよな?」と聞いてみつきちゃんを送り出すところなんか、普通の父親の度量では出来ないだろうなと思って感心しました。
「東京バンドワゴン」シリーズは、確か4月だか5月だかに本編の新作が出るみたいですよ。楽しみですね!
「インパラの朝」は、女の人の後ろに鹿みたいなのが写ってる写真が表紙の奴ですよね?割と興味があるにはあるんですけど、古本屋で見つけた時に買わなかったことを覚えています。なるほど、やっぱり面白いですか。次に見かけた時は買おうと思います。
有川浩は、「シアター!」も読みたいところですけど、「キケン」も評判が凄くいいんで気になっています。相変わらず『ザ・エンタメ』っていう感じの良作を書き続けているんだなって思います。
「さよならドビュッシー」は新人とは思えない作品でかなりよかったですよ。今年はかなり新人のデビュー作を読んでいますけど、ホントにレベルの高い新人が多いなと思います。

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)