黒夜行

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異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念(チャールズ・サイフェ)

お互いに沈黙を通した。志保の方は、ただ話すことがなかっただけだ。こんな男に言ってやれることは何もない。話すだけ無駄だ。男の方が何を考えているのかは分からなかった。
 ふと風を感じた。道端に転がっていたらしい空き缶がカラコロと音を立てた。まるでそれが合図であったかのように、男は口を開いた。
「雨が降るまでだ」
 男はそう一言呟くと、踵を返した。ちょっと離れたところに車が停めてあるのが見えた。男の車だろう。ようやく立ち去ってくれたという安堵感は確かにあった。しかし最後に男が呟いた言葉が、志保に不安をもたらした。きっとあの男は言葉通りにやるだろう。しかし志保には他に選択肢はないのだった。
 体格の差は歴然としていたから、勝ち目があるわけがない。それでも志保は、あの男を殺してやりたいと思った。

「失踪シャベル 6-14」

内容に入ろうと思います。
本書は、数字としての、そして概念としての「0」についての話です。
本書は大雑把に、前半と後半で二つに分けることが出来ます。
前半は、人類がいかにゼロを発見し、そして数学や物理の世界でそれをどのように受け入れていったのかという歴史と数学の話です。そして後半は、物理学の世界でゼロがどのような問題を引き起こしてきたのかというような話になっていきます。
もともとゼロという数字は存在しなかったわけだけど、インドでゼロが見つかります。それまでゼロがないために不便な表記をしていた商人らはすぐにゼロを受け入れていきますけど、どうじにゼロという概念は教会の存在を危うくするということで異端扱いされるようにもなります。しかし数学や物理の世界で、ゼロのない世界が考えられなくなっていき、徐々にゼロは受け入れられるようになっていきます。
数学や物理にとっても、ゼロというのは実に厄介な代物でした。数学では、微積分や複素数の世界なんかで特にそれは顕著です。一方物理の世界ではさらに厄介な問題をたくさん引き起こします。特に、最新の物理学である一般性相対性理論と量子論においては、一般性相対性理論ではブラックホールが、量子論においてはゼロ点エネルギーが、ともに特異点として現れてしまうことになります。物理は、いかにゼロと無限大を手懐けるかということに力を注いできたことになります。
というような感じの作品です。
全体としては、うーんという感じでした。ゼロという数字を主軸にして、歴史や宗教や哲学、物理や数学というあらゆるジャンルにわたってあれこれ書いているという点では構成のうまさを感じるけど、僕個人としてはあんまり面白くないかなという作品でした。
そもそも前半はあんまり面白くなかったです。ゼロがいかに発見されたか、そしてそれがどう受け入れられて行ったかという部分は、ほとんどが歴史やら宗教やらの話なんですね。数学の話もちらりと出てきますけど、さほどでもない。そういう歴史とか宗教の部分は、僕がそれらにまったく興味がないために、しばらくずっと退屈でした。
微積分の話が出てきたぐらいからはようやくちょっとは面白くなってきましたけど、やっぱり残念ながらあらゆるジャンルを少しずつかじっているので、内容の薄さは否めません。僕は昔、「宇宙を織りなすもの」という上下巻のやたら長い物理の本を読んだことがあるんですけど、これは相当な分量を費やして、物理のありとあらゆるジャンルを、一つ一つに相当のページを費やして書いている本で、どうしてもそういう作品と比較してしまうと厳しいなという感じがします。
もちろん本書は、数学とか物理学とかの全体について概観するような本ではなくて、ゼロという共通項をもとに、数学や物理について初歩的に踏み込んでみるという作品だと思うので、両者を比べるのは無理があるだろうとは思うんだけど、やっぱり結構物理やら数学やらの本を読んできた人間からすれば、退屈な話が多かったなという感じがしました。
まあそれでも、微積分とカントールの話は面白かったなと思います。微積分のところでは、微積分を発見した一人であるニュートンが行った『胡散臭い』数学的な操作がまず描かれます。それは、非常に小さい項をゼロとみなすとか、ゼロで割るなど、数学的には実に怪しいやり方だったわけです。でも、その威力は素晴らしく、捨てるにも惜しい。それから数学者は、極限という概念を手にいれて、微積分を論理的なものに変えていくわけです。この流れはなかなか面白かったです。
あと、他の本でも読んで知っている話ですけど、やっぱりカントールの対角線論法はいいなと思いました。僕が今までで出会ってきた数学の証明の中で一番好きです。これはちゃんと説明すれば文系の人にでも十分理解出来るような内容で、その発想の素晴らしさに驚くんじゃないかなと思います。
あともう一つ、カントールが発見した面白い話が、『有理数は数直線上のいたるところにあるのに、なんの空間も占めない』という話。これは図とかを書かないと説明出来ないし、そもそも僕がきっちりと理解出来ているわけではない話なので説明は難しいんですけど、真理らしいですよ。なんだか不思議な話ですね。数直線にダーツの矢を投げると、有理数にではなく必ず無理数に当たるらしいですよ。不思議だなぁ。
まあそんなわけで、数学とか物理にそこそこ興味があり、それでいて数学とか物理の本をそこまで読んだことはなくて、また宗教とか歴史にも多少興味を持っているというような人にはいいのかもしれません。僕は正直、前半の歴史やら宗教やらの話は全然関心が持てませんでしたけど、後半は数学や物理の話がメインになっていくので、興味がある人は読んでみてください。

追記)amazonのレビューでは結構評価が高いです。

チャールズ・サイフェ「異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念」



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2013年の個人的ベストです。

小説

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3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
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4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
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13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

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1位 千早茜「からまる
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15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)