黒夜行

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トワイライトミュージアム(初野晴)

車に乗り込んで、うしっと小さく声を出して気合を入れた。アクセルを恐る恐る踏み出す。普段買い物に行くのとは違う方向にハンドルを切る。慣れた道なら暗闇でも恐れることはないのかもしれないけど、真っ暗の中慣れない道を進んで行くというのはやっぱり怖い。
しばらく進むと、街灯も増え、人や車の気配も増えてきた。志保が普段行く方面ではないが、こちらにもスーパーやファーストフード店などが並んでいる町がある。今ぐらいの交通量なら普段だったら余裕で運転出来るのだけど、今日はとにかく事故を起こさないように慎重に運転した。
しばらくすると、また人気のない道を進んで行くことになった。徐々に明かりは減っていき、車も人も見えなくなっていく。既に森までの一本道に入っていて、昼との景色の違いに驚いた。夜の森にはこれまでも何度も来たことがあるから、そんなに珍しいはずはないのに、忘れていた事実を突きつけられたかのような感覚があった。もっと落ち着かないといけないと思った。冷静にならないといけない、と。

「失踪シャベル 6-2」

内容に入ろうと思います。
本書は、初野晴の最新作(たぶん)です。もともとは雑誌に短編として発表した作品に大幅に加筆して、長編として出したみたいです。
主人公の勇介は中学生だけど、身寄りがなく、施設で天涯孤独のまま生活している。そんなある日、勇介の大叔父だという人物から、引き取りたいという申し出が来る。これで人生がうまく行くはずだと勇介は期待していた。
しかし、大学教授だった大叔父は、勇介と再会して間もなく事故死してしまう。また施設に戻るのかと思っていた勇介は、牧村という男に声を掛けられる。なんと大叔父は、自分が死んだ時のために勇介に遺言を残していたというのだ。
そうして勇介は、転売は出来ないという条件で、ある博物館を手に入れることになった。
その博物館は普通の博物館ではなかった。そこでは、大学教授であり館長でもあった大叔父の特殊な実験が行われていたのだった。特殊な能力を持つ枇杷という女性を中心に、大叔父が提唱していた医学的なある仮説を検証するために、壮大な実験が行われていた。
勇介は、その実験の要を握る役を担うことになった。枇杷と共に過酷な過去の旅ヘと向かう勇介は、かつて施設で一緒だったナナという女の子を救うべく知恵の限りを振り絞るのだが…。
というような話です。
初野晴はファンタジックミステリを書く作家だとよく言われるけど、正直僕がこれまで読んできた作品はファンタジックミステリという感じではないなというようなものばかりでした。でも本書は初めて、なるほどこれはファンタジックミステリだなと思うような作品だったなと思います。
一応タイムトラベルものではありますけど、かなり変わった設定になっています。タイムトラベルというのは実は、物理の世界では否定されてはいないんですね。実際に、こうすればタイムトラベルが可能だという理論(まあ、すべて未来に行くものばっかりですけど)はいくつもあります。ただ、それを現実に実行するのは相当困難だ、というだけなんですね。
本書では、現在存在する物理学の理論に引っかからずにタイムトラベルを成し遂げるために、意識だけ過去に飛ばす、という形でのタイムトラベルが描かれます。詳細については実際読んでもらわないとうまく説明できないんだけど、タイムトラベルが医学的な事実と絡み合っていて、正直本書で描かれていることはありえないと分かってはいるけど、でももしかしたらありうるかもなと思わせるような、そういううまい設定がなされているなと思いました。
ただ、正直なところ、タイムトラベルで向かった先の世界が僕にはあんまり興味が持てなかったので、作品全体としてはまあまあという感じだったなというのが感想です。
タイムトラベル先は、魔女狩りが行われていた時代のヨーロッパです。僕はホントに歴史とかが大嫌いで、日本史も世界史もまったく興味がなくて、学校の授業でも政経とかをやってたような、そんな人間なわけです。だから、魔女狩りを行って要るヨーロッパの描写がすごくきちんとしていると思うし、ストーリーの展開もうまいと思ったんですけど、やっぱりその時代背景にまったく興味が持てなかったので、ちょっとなぁという感じがしました。
あと、これは短編を長編にしたということを知ってしまったからそう思うのかもしれないけど、長編にしては書き込みが足りないなという感じがしました。うまく説明できないんだけど、なんかちょっと展開が性急だったり、足りないなと感じる部分があったような気がします。特に僕は、枇杷の過去とか正体とか人生とか、そういう部分の書き込みみたいなものがちょっと足りないかなという気がしました。
まあでも、タイムトラベルのために博物館を所有するなんていう発想はさすがだなと思うし、相変わらずどこから仕入れてくるんだというようなマニアックな知識もたくさんあったりして、ベースの部分での実力はやっぱりかなりある作家だなと思います。タイムトラベル先の世界に僕がもう少し興味を持てたら、僕の中でかなり傑作だという評価になったかもしれないと思います。
そんなわけで、魔女狩りの世界に興味が持てなかったために、作品全体としてはあんまり高く評価はできないんですけど、やっぱり実力のある作家だなと思います。これからも注目していく作家になるだろうなと思います。設定が奇抜でありながらかなりきちんとしているし、これまでにはなかったようなタイムトラベルものの作品なんで、興味のある人は読んでみて下さい。

初野晴「トワイライトミュージアム」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)