黒夜行

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ストーリーメイカー 創作のための物語論(大塚英志)

人ひとりが消えても、世界には大きな痕跡は残せないのだ。でも志保の人生というごく小さな世界の中では、まだまだいくつもの痕跡が残されている。そのひとつひとつは、いつ頃まで薄れずに残っているものだろうか。そもそも自分は、その痕跡が消えないで欲しいと願っているのだろうか。
 テレビを見ながら夕ご飯を食べる。一人でご飯を食べるのも慣れたものだ。お母さんがいなくなっても変わらない、いつもの日常だ。お母さんと一緒に夕ご飯を食べていた頃は、ご飯を食べながらテレビを見てはいけなかった。今では、テレビを見ながらでないと、どこに視線を向けてご飯を食べればいいのか分からなくて困ってしまうだろう。
 ご飯を食べている時、リビングに置いてある電話が光っているのに気がついた。留守番電話が残っているようだ。とりあえず夕ご飯を食べ終え、お皿を流しに置いてから、留守番電話を再生した。

「失踪シャベル 5-2」

内容に入ろうと思います。
本書は、とある芸術系の大学の教授であり、一方でまんが原作者や批評家としても知られる著者が、30の質問に答えるだけで誰でも物語のプロットを作ることが出来る実用的なフォーマットについて語っている作品です。
本書のメインとなる部分は、その30の質問を具体例とともに示すという部分ですが、それだけではさすがに新書一冊として成り立たないので、前半は古典的な物語論に触れ、宮崎駿のアニメや「スター・ウォーズ」がいかにしてそういう古典的な物語論によって成り立っているかを示し、また、中上健次の未完の作「南回帰線」という作品を取り合げ、物語論的にこの作品の結末を予想する、といったやや堅い話が描かれます。ただこの部分を流し読みでもいいからざっと読んでおくと、後半の30の質問をすんなり受け入れられると思うので、ちょっと退屈な部分ではありますけど、前半も読んだ方がいいと思います。ただ著者の別の作品、「キャラクターメーカー」や「物語の体操」などをきちんと読んでいる人は、前半部分はすっ飛ばしても大丈夫みたいです。
で後半でようやく、30の質問に入ります。まあどんな質問が並んでいるのかをここで列挙する気はないのでそれは読んでもらうしかないんですけど、なるほど確かにこの30の質問に答えていけば、物語論的にきっちりとした構造を持つプロットを作成することは出来るな、と感じました。正直、たぶんこの30の質問に答えて出来た物語は、物語としては成り立っているけど、例えば極端に言えば商品として売れるようなものにはならないでしょう。この30の質問に答えた後、さらにいろいろ加えたり変更したり削ったりといったことをしなくてはならないでしょうけど、ただ物語のきっちりとしたベースを作りたいということであれば、確かにこの30の質問に答えればベースは作れるな、と思いました。
そういう意味で本書は、実に実用的な作品です。
個人的な話になりますが、僕は今年の頭に初めてまともな小説を書きまして、今ブログ上でちびちび連載しています。その時にもプロットを作ったわけなんですけど、プロットなんて作ったことがないからどうやって作ったらいいか分からないんですね。とりあえずストーリーの簡単な骨組みだけ作って、あとは登場人物たちの背景を無駄に細かく設定したり(そういう設定を作中で描いたものもありますが、描かなかった部分の方が多いような気もする)、主人公の内面描写の変化を伝えるにはこれが要るなぁ、あの伏線としてどこかにこの話を埋め込もう、とかいろいろ考えて、まあなんとかストーリーになりそうなプロットを作りました。
まあそれはそれで面白い経験でしたけど、本書を読んで、物語の文法を理解しないで物語を書くのは難しいのかもしれない、と感じました。
英語や日本語にも文法があるように、物語にも文法がある、という発想を初めてしたのはロシア人だったみたいです。ロシアの魔法民話を科学的に分析した人が、ロシアの魔法民話にはただ一つの構造しかない、ということを発見した、という研究があって、それから物語の文法という発想が生まれたようです。本書で著者は、よしもとばななは先天的に物語の文法を理解している、つまり「母語」として物語を紡いでいるのに対し、村上春樹は明らかに後天的に物語論を身につけた、つまり「外国語」として物語を紡いでいると書いていました。僕なんか、村上春樹は生まれ持っての才能というか、自然とああいう物語を生み出せるんだ、みたいな風に思ってたんですけど、著者の分析ではそうではないみたいですね。なんとなくですけど、村上春樹が後天的に物語論を身につけたという話は、これから作家になろうと思っている人間には心強い話ではないか、と思ったりします。
物語の文法に沿って生み出された物語はどれも画一的になってしまうのではないか、という懸念はあるでしょうけど、物語論というのはあくまでも構造の話です。僕は家を建てるイメージで物語論みたいなものを理解しています。たぶんですけど、どんな家でも基礎とか柱の骨組みみたいなものって、どれもそう大差ないと思うんです。もちろん平屋だったり二階建てだったりあるいは高層マンションだったりである程度の違いはあるでしょうけど、でも「家」というものの内部の構造というのはどれもそう大差ないと思っています。
その一方で、実際に人が住んでいる家というのは様々な顔を見せます。屋根の形だったり壁の色だったりという家自体の特徴もそうですけど、壁に落書きがあるとか、壁という壁に写真が貼ってあるというような住人の生活による変化もあるでしょう。そういう様々な要素によって、内部の構造はどれも大差がないはずの家というものが、どれひとつとして同じものはないものになっていきます。
物語もそういうものなのだと思います。で、本書にある30の質問に答えることによって生み出されるプロットは、その家の内部構造みたいなものだと僕は思っています。平屋なのか二階建てなのか高層マンションなのかによって差異はあるだろうけど、基本的に内部構造はどれも似ている。でも、外側をいかに装飾するかによって家というのはどれも違ったものになっていく。本書では、その外側の装飾については扱われません。本書は、プロットを強制的に吐き出す装置としての30の質問であって、それをいかに小説(あるいはマンガや映画)にするかという方法論については描かれません。物語論によって物語を生み出すことでどれも似てしまうのではないかという疑問は、こんな感じの説明で解消されるでしょうか。
まあそんなわけで、小説でもマンガでも映画でも何でもいいから、とにかく何か作品を作ってみたいなと思っている人は、読んでみたら結構使えるのではないかなと思います。僕も、今頭の中に漠然とある話を、この30の質問に当てはめてプロットの形にしてみようかなと思ったりしています。画一的な作品を書きたくないと思っている人にも本書は有効でしょう。何故なら、物語の文法を知らないでそこからはみ出すことはなかなか難しいと思うからです。
というわけで、何か作品を書こうなんて微塵も思っていない人には無益な本ですけど、何か作品を書きたいと思っている人にはかなり実用的な作品だと思います。そういう方は、是非読んでみてください。

大塚英志「ストーリーメイカー 創作のための物語論」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)