黒夜行

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造花の蜜(連城三紀彦)

小学生の頃、既に自然が大好きだった志保は、男の子と一緒に遊ぶことが多かった。毎日泥だらけになって遊んで帰ってきて、よくお母さんに怒られた。一度など、探検と称して山の奥まで入り込んで戻れなくなってしまったことがある。あの時は山狩りをするくらいの騒動になって、びっくりするほど叱られた。
 一緒に遊ぶ男の子は毎日色々入れ替わってはいたけど、マサル君という男の子とはほとんど毎日一緒だった。というか、志保をあちこちに連れ回してくれたのが、一学年上だったマサル君なのだ。志保が自然に興味を持つに連れて、段々志保がマサル君を引っ張りまわすようになっていくのだけど、二人は外で遊ぶ時は大抵一緒にいて、暗くなるまで遊びまわった。
 ある時、マサル君を含めた何人かで山に入った。そこは、自然薯が自生していて、近くに住んでいるおじいさんに掘り方を教わったことがあったのだ。それを掘りに行くことになって、みんなシャベルを持って山に入った。

「失踪シャベル 3-4」

内容に入ろうと思います。
本書は、年末に発売された本格ミステリベストで1位を獲得した作品です。この作品、このミスのような他のミステリランキングでは軒並みランクインしなかったんですけど、それはそれぞれのランキング本で『1年間』の期間が違うから、みたいですね。この作品は2008年の10月に出たんだけど、本格ミステリベスト以外のランキング本は、11月から10月までに発売された作品が対象になります。本格ミステリベストは10月から9月みたいですけど。その期間の違いで、他のランキング本ではランクインしなかったようです。
内容は、誘拐ミステリです。
歯科医だった夫と離婚し、実家に戻って一人息子を育てている香奈子は、ある日スーパーで息子の圭太が連れ去られそうになったことがあった。その時は危うく難を逃れたが、しかしそのひと月後、今度は本当に誘拐されてしまった。
圭太がハチに刺されて病院に行った、という連絡を受けた香奈子だったが、どうも事情がおかしい。幼稚園の先生に聞いてみると、香奈子の母親がハチに刺されて大変だからと言って圭太を迎えに来たという。
しかもその幼稚園の先生が言うには、圭太を迎えに来たのは母親、つまり香奈子自身だった、というのだ。そんな謎めいた始まり方をした誘拐事件は、どんどんと奇妙な様相を呈して行く。身代金の金額や、その受け渡し方法なども、どれをとっても普通の誘拐事件ではありえないものばかりで、かつて有名な誘拐事件を二件も解決しているという警視庁の敏腕警部が翻弄されるばかりなのだが…。
というような話です。ネタバレになるんで詳しくは書けないですね。
なるほど、確かにミステリとしての出来は素晴らしいな、と思いました。
これまでも誘拐事件のミステリというのは結構読んできているんだけど、誘拐っていう題材はもう大分使われ尽くしてしまっていて、なかなか新しい切り口というのを見出すのは難しいと思うんですね。それでもこの作品は、かなり斬新な切り口で誘拐事件を描いています。
僕の中で、これまで読んだ誘拐ミステリの中では、真保裕一の「誘拐の果実」が最高傑作で、さすがに本作も「誘拐の果実」は越えられないと思うんだけど、それに匹敵するくらいのミステリで、中核となるトリックは素晴らしいと思いました。
ネタバレになるんで詳しいことは書けないんですけど、とにかく普通の誘拐事件ではないんですね。犯人は警察の介入をまったく阻止しようとしないし、身代金の要求も奇妙だし、とんでもない場所で身代金の受け渡しをしようとするし、しかもそこでもとんでもないことが起きるしで、誘拐事件の定石をことごとく外してきます。で、始めの内は、結局この事件はなんだったんだ?という感じになるんですね。
でも、その裏に隠された真相みたいなものがお見事という感じでした。なるほど、あの誘拐事件にはそういう裏があったのね、という部分は相当上手く出来ていて素晴らしいと思いました。ミステリの部分を見れば相当一級の作品だなと思いました。
でもですね、ミステリの部分以外は平凡なんですね。決して悪くはないんですけど、文章はまあ普通だし、登場人物もさほど魅力的というわけでもない。しかも、本書は大雑把に言って前半と後半に分けられるんだけど、謎だらけの前半はものすごく面白いんだけど、後半は最後の謎解き以外は正直ちょっと退屈かもと思いました。
僕としては、同じトリックで東野圭吾が書いたらもっと素晴らしい作品になっただろうな、と思いました。特に後半の方で出てくる女なんか、絶対東野圭吾が書いたらもっと魅力的でゾクゾクするようなキャラクターになったと思うんですよね。ミステリの中核の部分はとにかく素晴らしい作品なので、そういう構成とかキャラクターとかストーリーテリングみたいな部分がもう少し良ければ、もっともっと傑作になっただろうなと思う作品です。ホント、東野圭吾が書いたら新たな代表作とかになりそうな作品になったんじゃないかなと思います。
最後の章は、確かに全体の構成からするとあった方がしまりがいいのかもしれないけど、でも僕はちょっと蛇足かな、と思いました。最後の章をなしで、その一つ前の賞で作品を終わらせてしまった方がすっきりしていてよかったのかもしれない、と思ったりしました。
まあそんなわけで、ミステリとしては素晴らしい作品だと思います。ただ登場人物とか文章とかストーリーテリングとか、そういう部分でちょっと物足りないなと思わされる作品でした。ただ一読の価値はあると思います。単行本で買うのはちょっと高いかもだから、文庫になってから買うのがちょうどいいかもしれません。

連城三紀彦「造花の蜜」






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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)