黒夜行

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後藤さんのこと(円城塔)



 昼時の食堂は、いつだって混んでいる。このキャンパスには何箇所にも、カフェテリアやレストランといった名前の食堂があるし、コンビニや生協だってある。それでも、すべての学生が余裕をもってお昼ご飯を食べるには充分ではないらしい。二限の講義が終わって急いできたにも関わらず、もうかなり席が埋まっている。慌てて空席を探していると、カナちゃんの姿が目に入った。先に来て、席を取ってくれていたみたいだ。なかなか席が取れなくて、別の食堂に行かなくてはいけないこともあるから、助かった。ここは、パスタが美味しいからという理由で三人のお気に入りなのだ。
「おはよう」カナちゃんはスープパスタにしたようで、もぐもぐと食べている。口が開けない、というジェスチャーをしてから、ひょこっと頭を下げて挨拶代わりにした。

「失踪シャベル 3-1」

内容に入ろうと思います。
と思ったんですけど、この作品は僕みたいな凡人にはまず内容紹介なんて不可能な作品なんで、6つの短編+αのタイトルだけ書いて内容紹介はしないことにします。

「後藤さんのこと」
「さかしま」
「考速」
「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」
「ガベージコレクション」
「墓標天球」
「INDEX」

いやー、しかしまあ、ぶっとんだ作品でした。円城塔というのはまあ意味不明な作品を書く作家ですけど、本書はこれまでのどの作品よりも意味不明だったなぁと思います。いやホント、これだけ意味不明な話を書けるのって、凄すぎると思います。たぶんホントに、異常に頭がいいんだろうな、という感じがします。
本書を一言で表現するなら、こういう感じになります。

『物理や数学で文学を書いている』

物理とか数学の知識をふんだんに使いながら、一方でものすごく文学チックなことを書いているんですね。僕にはまあストーリーはほとんど理解出来ませんでしたけど、本書の内容紹介にも、
『難しくてためにならない、でもなぜか心地いい言語遊戯』
なんて風に書かれているので、まあストーリーが分からなくても別にいいんじゃないかなと思います。
「後藤さんのこと」は、物理における様々な物質や現象に、一貫して「後藤さん」という名前をつけていろいろ遊んでいる、という感じの作品です。まあこういう説明じゃ意味不明でしょうけど、他の作品に比べたらまだこの作品はわかりやすいな、と思いました。「分後藤さん」とか「偏後藤さん」とかも何を言っているのか大体わかるし、3等分にしか出来ない後藤さんをどうやって三つに分けるかという、有名なラクダの問題を踏まえた話もあったし、面白いなと思いました。ちょっとバカリズムっぽい感じがあります。バカリズムっていう芸人は、昔話に「小野」だの「竹内」だのという名前をつけて現代っぽくしちゃうみたいなネタがあるんだけど、この短編も、物理のいろんな対象に「後藤さん」っていう名前をつけて遊んじゃおうという感じの作品でした。
「さかしま」は何かの注意書きみたいな話なんですね。ウル中心部とかいう、もしかしたらそこが人類の起源なのではないかという変わった場所から帰還した人間向けの注意事項の文書、みたいな感じの設定だと思います。よくわかりませんでしたけど、ウル中心部というのがどういう空間なのかという説明の部分は結構好きです。
「考速」は、全体のストーリーはイマイチ分からないんですけど、とにかく言葉遊びが凄いです。具体例なしで説明出来る自信がないんで一つ抜き出すと、

『うしおいてつきこえはしりぬく
牛追いて月越え走り抜く
潮凍てつき声は知りぬく』

みたいな文章が山ほどあるんですね。こういう形式ではない言葉遊びもあって、それがストーリー全体に絡んでくるらしいんですけど、その辺りのことはよくわかりませんでした。しかしここで書かれている言葉遊びはホント凄かったです。
「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」は、もしかしたら本書の中で一番好きかもしれません。何よりも素晴らしいのは、これを「小説」だと言い切ってしまう円城塔が素晴らしいですね。これこそまさに内容の紹介が不可能な作品ですけど、とにかく凡人にはまずこんな作品は書けないだろうと思います。凄いと思いました。
「ガベージコレクション」もまあよく分からないんですけど、友人と賭けをするとか、チェス盤がどうとか、可逆な計算とか、過去に遡るとか、そういう感じの話のようです。
「墓標天球」もまあよく分からない話でしたけど、溝を掘りながら過去に遡っている男とか、少女を追いかける少年とか、よく分からない少女とか、そんな感じの人達が出てきます。
「INDEX」は、これまた斬新でして、帯に書かれているんですね。本書の帯は、表紙の3/4を覆うくらい幅が広いんですけど、そこに5×8のグリッドがあって、そのマスの一つ一つに少しずつ文章が書いてあるんですね。これもまあまた意味不明ですけど、なんか凄い気がします。
円城塔の作品の凄いと思う点は、ストーリーも分からないし、難しい言葉もバンバン出てくるんだけど、それでもなんとなく読めるというところです。もちろんストーリーを理解出来るわけでもないし、難しい言葉の意味も分かるわけではないんだけど、それでも文章を追うのを諦める気にはさせないと思うんです。まあ人によるかもしれませんけど、僕は意味不明でも読み進めようと思える文章なんですね。なんかそこが凄いかなと思いました。
まあそんなわけでして、作品は完全に意味不明なんですけど、超絶的な作家だと思います。近いうちに、円城塔の長編デビュー作である「Self-Reference ENGINE」が文庫化されるんですけど、僕はこれを売ろうと思っていまして、POPも作ってもらってあります。僕が考えた文章はこんな感じ。

『正直、意味不明。
でも、この作品、クラクラする。
この作家、ハマる。』

売れてくれればいいな、と思います。
本書は何にしても人に勧めるのが実に難しい作品ですけど、怖いもの見たさみたいな感じで興味がある人は読んでみてください。「Self-Reference ENGINE」の方が、円城塔入門としてはおすすめです。

円城塔「後藤さんのこと」




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小説・新書以外

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13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
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1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
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10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)