黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

乱鴉の島(有栖川有栖)

それから志保は、講義に対して完全にやる気を失ってしまった。年始にあったテストも散々な結果だったし、今年に入ってからの講義に対する態度は酷いものだった。進級出来ればいいか、と今は思っているし、それ以前に、そもそもこのまま大学にい続けることに意味があるのだろうか、と考えることが増えた。身体中に満ち溢れていたやる気が、風船を割ったように一気にはじけ飛んでしまった。自分が空気人形になったようで、しばらく朝起きると、歩き方や喋り方を忘れていないか不安になった。
 それでもノートだけはきちんと取っているのには理由がある。一年の頃からずっと、志保のノートは大人気だった。講義に出ないでテストだけで乗り切ろうというやる気のない学生は、志保のノートを見るだけで単位が取れると言っていた。講義をきちんと受ける意欲は失ってしまったけれど、自分のノートを待っている人がいると思うと、ノートを取ることを簡単に止めることは出来なかった。そのうち止めよう、といつも思っているのだけど、それでも手が動いてしまうのは、頼られると嬉しい性格のせいだろうと思う。いや、そうではなくて、頼られなくなった時のことを考えると怖いからだろう。自分の元から誰かが離れていってしまうのは、とても恐ろしいことだ。

「失踪シャベル 2-5」

内容に入ろうと思います。
本書は、有栖川有栖の二つあるシリーズ作品の内、犯罪学者である火村が登場する方の長編作品です。
大学で助教授として教鞭を執る一方で、犯罪学者として実際の殺人事件に関わりいくつもの難事件を解決してきた火村は、とある事情で友人であり作家である有栖川有栖と共に、三重県の沖合にある孤島に行き着くことになった。当初の予定とは大分違ってしまい、島に着くなりいろいろとトラブルが起こるのだけど、二人はどうにかその島に留まれることになった。
しかしその島には、奇妙な人々が集まっていた。
元々ほとんど無人島であり、現在は詩人であり翻訳家であり作家でもある海老原舜の別荘があるのみである。そして火村と有栖川が赴いた日は、ちょうど海老原を囲んだ親睦会みたいな集まりが開かれていたようである。
しかし、どうも様子がおかしい。島に集まっている面々が何かを隠しているように思えて仕方がない。しかし、いろいろあって居候状態であった二人にはあまり強いことも言えず、変な雰囲気のまま島に厄介になることになった。
さらなる闖入者がやってきて、島が落ち着きをなくした頃、凶事が発生する。死体が見つかったのだ。一体この島で、何が起こっているのだろうか…。
というような話です。
僕は昔は結構本格ミステリを読んでましたけど、最近はそうでもないんですね。なんというか、小説を読み始めの頃っていうのは、本格ミステリのようなわかりやすい構造の作品というのは読みやすくていいんです。でもしばらく本を読んでいくと、どうも物足りなくなっていって、本格ミステリからどんどん離れていっていきます。まあそれでも、時々気まぐれのように本格ミステリを読んでみますけどね。
その中で、有栖川有栖だけは結構注目しているんです。他の本格ミステリ作家の作品にはちょっと飽きを感じる部分があっても、有栖川有栖の作品は結構いいなと思えるんですね。
それは、有栖川有栖が描く本格ミステリが、あまり本格ミステリっぽくないという部分があるんだろう、と思います。
普通の本格ミステリというのは、もちろんいろんなジャンルはありますけど、大雑把に言うと、
『容疑者が限られている状況であるのに、誰にも犯行は不可能だった』
という形で謎が提示されることが多いんですね。みんなにアリバイがあるとか、密室なんか作れるわけないからこれは自殺かもとか、そういう不可能状況みたいなものがまず描かれて、その後で実はこんなトリックがあってそれが覆るんだよ、というような展開になります。
ただこれは、結構不自然な展開にならざるおえないんですね。例えば容疑者全員にアリバイがあるなんていう状況はそもそも不自然極まりないし、他の状況にしたって、『それが不可能な状況であった』ということが成立するためには、実に不可解で不自然な状況が提示されなくてはならないということになるんです。それが本格ミステリだと言われればそうなんですけど、どうしてもそういう部分が結構本を読むようになるにつれてどうもなぁという感じになっていったんだと思います。
でも有栖川有栖の作品の場合、もちろん上記のような展開の作品もあるでしょうけど、僕がこれまで読んできた作品の多くは、
『誰にでも犯行は可能だった、という状況の中から、たった一人の犯人を絞り込む』
という展開が多いんですね。容疑者にアリバイがあることはほぼないし、密室とかが出てきても、それが必ずしも不可能的な状況ではなかったということが示唆されたりします。なので、小説的にもそこまで不自然な感じにならずに済むので、有栖川有栖の本格ミステリは今でもまだ僕は読めるなぁと思うんですね。
でも本書はちょっとあんまりという感じでした。
一番残念だったのは、犯人の動機ですね。これが実に本格ミステリっぽくなかった。本格ミステリの文脈とかルールからすると、反則ではないかもしれないけどちょっとそれはどうなのと言われてしまうような、そういう動機じゃないかなと思います。確かに、現実の事件においてはそういうことはあるかもしれないけど、やっぱり本格ミステリというのはある程度本格ミステリのルールの中で語られないといけないと思ったりするので、犯人が最後に明かした動機はちょっといかんのではないかなと思いました。
それ以外の部分は、特にここというほど指摘したい箇所があるわけでもないけど、でも全体的になんとなく面白くないな、という雰囲気でした。ちょっとあまりにも動きが少なかったのかもしれない、とも思います。孤島を舞台にしているのだからある程度は仕方ないのかもしれないけど、でも有栖川有栖はこれまでにも閉鎖状況におけるミステリで傑作を書いています。本書はそういう作品と比べてしまうと、全体的に動きが少なくて、退屈だったのかもしれない、と思います。
事件の背景になっている出来事は、なかなか面白い設定だなとは思います。ただ、その設定にさらに説得力を持たせるためには、もう少しあの人物(一応名前を出すとネタバレになるかもしれないんで伏せますが)について掘り下げて描かなくてはいけなかったのではないかな、という感じもしました。あの島で行われている狂気が成立するだけの雰囲気をあまり感じられなかったという印象はありました。
まあそんなわけで、ちょっと今回は残念だったかなという感じもします。まあ有栖川有栖の作品は僕は結構好きなんで、これからもちょくちょく読むと思いますけど。やっぱり「孤島パズル」「双頭の悪魔」「女王国の城」は素晴らしい作品だったと思います。

有栖川有栖「乱鴉の島」


関連記事
スポンサーサイト

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/1644-a2fd21e3

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
11位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
9位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)