黒夜行

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ソウルケイジ(誉田哲也)

志保は子どもの頃、猫を飼っていた。捨てられているのを見つけて、お母さんにねだって飼うことを許してもらったのだ。猫の名前は、マルイさんに決めた。ぶくぶく、と表現しても失礼ではないほどまん丸に太った猫で、みんなが丸いねぇ、と言っていたからだ。さん付けしたくなるほど、貫禄のある猫だった。
志保はマルイさんを可愛がった。あまりに太っていると病気になりやすいと言われてエサやりに気をつけたり、動きたがらないマルイさんを時々引っ張るようにして無理やり散歩させたりもした。手の掛かる妹が出来たみたいで、志保はあらゆる世話を焼いたし、そう出来ることが嬉しかった。初めは興味なさそうだったお母さんも、段々可愛く感じられるようになってきたようで、猫じゃらしで遊んだり、抱っこして昼寝したりしていた。拾って一周年記念の時には、お母さんと二人で豪華ディナーを作って、その日だけは減量のことは気にせず、好きなだけご飯を食べさせたりもした。減量には最後までうまくいかなかったけれど、可愛くて可愛くて仕方のない猫だった。

「失踪シャベル 1-4」

内容に入ろうと思います。
本書は、「ストロベリーナイト」に続く、姫川玲子シリーズ第二弾です。
姫川玲子警視庁捜査一課の班長として、年上も含めて四人の部下を率いている。直感に基づいた大胆な行動によって手柄を上げてきた敏腕であり、その能力は多くの者に認められてはいるのだけど、その一方で女だからという理由だったり、あるいは独断専行ばかりするからという理由だったりで疎まれていたりもする。玲子が所属する第十係はくせ者揃いなんだけど、その中にあっても玲子の存在感はなかなか突出している。
多摩川の土手に放置されていた車両から、血まみれの左手首が発見されたことから事件は始まる。玲子は、同じ第十係の班長であり、天敵だと認識している日下と一緒に捜査をすることになった。玲子は直感を重視しているのだけど、日下は一切の余談を許さない男で、まったく反りが合わないのだ。
被害者は、指紋や手首に残っていた特徴的な傷から、高岡賢一という建設現場での仕事を請け負っている男だと断定されるのだが、左手首以外の部位が上がらず死因も分からないし、他に具体的なこともなかなか上がってこないので捜査は難航する。
高岡賢一が昔いたとある建設会社では、保険金にまつわる何か悪どいことをやっていたようだ。その辺りから、様々な人間関係や複雑な事情などが浮かんでくるのだけど、しかしそれがどう事件と繋がっていくのか分からない。
玲子や日下は、それぞれが独自のルートで事件を追っていき、やがて驚くべき真実にたどり着く…。
というような話です。
姫川玲子シリーズ一作目である「ストロベリーナイト」は、なかなか残虐なストーリーで、読んでて気持ち悪いという感想もあったようですけど、本書はそれとは一転して、派手だったり残虐だったりという事件ではありません。もちろん、事件の背景として悪どいことが出てきはするけど、それでも「ストロベリーナイト」の残虐さとは比べ物にならないほど落ち着いています。「ストロベリーナイト」を読んで、なるほどこのシリーズはこういう気持ち悪い感じなんだなと思って読むのを止めてしまった人は、もう一回ぐらいチャンスを与えてあげてほしいかなと思います。
本書もなかなか面白い作品でした。「ストロベリーナイト」は、扱っている事件が相当ぶっとんでいた印象があって、それで普通の警察小説ぽくない感じもありましたけど、本書の場合、扱っている事件は普通の警察小説っぽい感じなんです。東京の片隅で慎ましやかに暮らしていたある一人の男の過去をほじくり返していくというような、割と地味な捜査が続くんですけど、それでも普通の警察小説っぽくはないんですね。
その理由は、文章とキャラクターにあるのだろうなと思います。
文章は、硬質なイメージのある普通の警察小説の文章とは違って、かなりライトなイメージがあります。もちろん、悪い意味じゃありません。普通の警察小説っていうのは、男社会である警察組織を重厚感を出しながら描きたいのか、結構暗くて重くてギスギスしているみたいな印象が結構全面にあったりします。でも本書の場合、そういった雰囲気って全然ないんですね。ギスギスした人間関係はあるけど重苦しく扱われないし、会話もユーモアに溢れています。玲子視点、つまり女性視点の文章が多いからか、警察小説にしてはまろやかなタッチの文章になっているんですね。まずそこが、普通の警察小説っぽくないイメージを出しているんだろうと思います。
そしてもう一つはキャラクターです。僕もそこまでたくさん警察小説を読んでるわけではないんですけど、それでも普通の警察小説のイメージというのは、実直で靴の底をいかにすり減らすかという刑事か、あるいは刑事という役得を最大限に利用する刑事のどちらかばっかりという感じなんです。あるいは、こんな刑事いねーだろというような突拍子もないキャラクターかという感じでしょうか。
でも本書の場合、なるほどこういう刑事はいそうな気もするなという範囲内で、かなり変わった刑事がバンバン出てきます。日下は、予断を一切許さず、自分が調べてきた事実を解釈なしですべて報告するという男だし、井岡という、常に玲子とペアを組むことになる所轄の刑事は、関西弁丸出しで玲子とデート気分で捜査を続けるという変な刑事です。他にも、ダメ上司の典型である管理官の橋爪や、玲子と相思相愛だろうのに一歩を踏み出せない菊田とか、玲子に対してかつてのあるイメージが重なってしまう葉山とか、玲子の直属の上司である今泉とか、一応まっとうなんだけどどこかクセのある刑事ばっかりで、そういうキャラクター造形が実にうまいところが、普通の警察小説っぽくないなという感じがしました。
著者は小説を書く際、実際の俳優を当てはめて小説を書くらしいです。そういうやり方が、キャラクターの厚みを生み出しているのかもですね。
「ストロベリーナイト」の方のストーリーは正直あんまり憶えていないんですけど、本書では作品の根底になかなか深いテーマが織り込まれています。犯罪に走ってしまうことになったある男の悲哀とそのテーマの対比みたいなものがなかなか絶妙だと思いました。日下や玲子にしても、加害者に対する複雑な思いを抱えることになるし、読者としてもなかなか考えさせられる作品ではないかなと思います。人生というのは、自分にはどうにもならないことによって絶望的な状況に追い込まれてしまうのだなと思う一方で、家族というのは一体何なんだろうという思いを抱くのではないでしょうか。
ニュース何かで事件の報道を見ると、何でそんなアホみたいなことしたわけという事件と、それ以外にもう選択肢はなかったんだろうなという事件とあります。前者については同情の余地はまったくないわけなんですけど、後者については、自分にも同じ状況がやってきたらと思うとなかなか辛いですね。人生というのは、自分が望んでもいない袋小路みたいなものにどんどん嵌り込んでしまうもので、ホントバクチみたいなもんだよなと思ったりしました。
まあそんなわけで、相変わらず面白いシリーズだと思います。誉田哲也は女性を描くのが実にうまいと思いますけど(まあ女性の目から見てどう映るのかは分かりませんけど)、本書も女性を主人公にした珍しい警察小説シリーズです。普段警察小説を読まないという人にも結構いけるんじゃないかなと思います。シリーズ作ですけど、気持ち悪いのは得意じゃないという方は本書から読んでもいいんじゃないかと思います。ただ、どうして姫川玲子が刑事を目指すようになったのかという話は「ストロベリーナイト」で触れられているので、出来ればそっちにも手を出して欲しいものですけど。是非読んでみてください。

誉田哲也「ソウルケイジ」



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一阿のことば 23

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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
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16位 小川洋子「人質の朗読会
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)