黒夜行

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淳(土師守)

つい先日ですけど、売り場にいる時に、女子高生二人の会話が耳に入ってきました。

「ねぇねぇ、私エッセイ書こうと思うんだけど」
「うんうん、書けるよ、エッセイとかだったら。自費出版だったら2・3冊買うからさぁ」

ちゃんと見ていたわけではないですけど、見た感じまああ普通っぽい女子高生なんですね。それがまあこんなアホっぽい会話をしていました。
確かにこの会話だけからすれば、エッセイを出版出来ればいいのであって、それが売れるということは望んでいない、という解釈も出来るでしょうけど、きっと本人の中では、エッセイを書いて売れる、ということが目標なんでしょう。この会話をしている時も、コミックエッセイがある棚の前にいてあれこれ本を見ながら喋っていたので、やっぱり売れたいと思っているんだと思います。
しかしですねぇ、エッセイほど書くのが難しいものはないですね。正確に言えば、売れるエッセイを書くのが、ということですけど。
以前森博嗣のブログかエッセイか何かを読んでいた時に書いてあったと思うんだけど、エッセイの発行部数は小説と比べると大体4分の1、なんだそうです(間違ってるかもですけど)。出版社としても、売れると思って出してはいない、ということなんでしょう。有名作家のエッセイにしたって、これは売れたなぁ、なんていうのはほとんどないと思います。
ネットから出てくるような、コミックエッセイの類は、確かにかなり売れているものもあります。でも正直売れているのは、だいぶ以前に話題になったものの続巻ぐらいなものでしょう。最近新しく売れ始めたコミックエッセイというのは記憶にないですね。二匹目三匹目のドジョウを狙いまくった結果、市場としてはもう飽和して、なかなかベストセラーが出にくくなってきているんだろうなと思います。
まあ女子高生としたって、そんなに本気で言っていなかったのかもしれません。それにしても、なんてアホな会話なんだ、と思ってしまったので、書いてみました。ただの女子高生が書いたエッセイなんかが売れるわけがないんですよね。
あともう一つ。こんなニュースを見ました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091207-00000038-mai-soci

国会図書館がパンク寸前、というニュースです。
この図書館は、国内で発行されたすべての出版物を保存することが法律で義務付けられているんです。
しかしまあ、そりゃあパンクするだろ、っていう感じです。
最近読んだ「本の現場」という本には、50年前と比べると出版点数が7倍になった、ということがわかるデータが載っていました。現在では、1日に200点新刊が出ると言われています。確かに書店の現場も、日々送られてくる新刊にあっぷあっぷですけど、すべての出版物を保存しておかなくてはいけない国会図書館は、そりゃあ大変なことになっているでしょう。ご愁傷様です。
しかしどうするんですかね。デジタルデータで保存をしたとしても、原書は破棄しないらしいんで、それは根本的な解決にはならないそうです。いろんなところに分散して保存するにしても、いろんな事情から東京に置いておかなくてはいけない本というのもあるようなんです。どうすりゃあいいんでしょうね。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、神戸の連続児童殺傷事件の被害者の一人、土師淳君の父親が記した手記です。
被害者の首が切られ、それが小学校の校門の前に置かれる、しかも加害者が14歳の少年だったという衝撃的な事件に否応なしに巻き込まれた著者が、息子との思い出やその後の悲しみ、事件を通して知った少年法やマスコミの矛盾など、被害者としてのありのままの声を書きつづっています。
最近、光市の事件についてのノンフィクション「なぜ君は絶望と闘えたのか」という作品を読んで、そこにこの土師守さんが少しだけ出てきたので、それで名前を知りました。この事件が起こった時、たぶん僕は加害者と同級生ぐらいの年代だったと思うんで、ニュースとか見てたはずなんですけど、被害者の家族の名前とかは全然覚えていなかったんです。その「なぜ君は~」で初めて名前が記憶に残りました。
その後本書を見かける機会があったので読んでみることにしました。
正直なところ、作品としての出来はさほどではありません。でもまあそれは仕方ないことだと思います。書き手がプロの作家というわけではないわけですからね。それに、うまく文章にすることが出来なかったというだけで、実際は本書で描かれているよりももっと深く重い感情を抱いているんだろうと思います。本書を読んで、被害者だからこそ知ることの出来る感情に近づけるかというと、それはなかなか難しいんじゃないかと思うんです。それは概ね文章力や構成力の問題で、まあ仕方ないことだろうと思います。
日本という国において、被害者がないがしろにされているという現状については、先ほども話に出した「なぜ君は~」で知りました。光市の事件の遺族である本村さんの尽力で、被害者に配慮するような流れが作られていったようですが、神戸の事件が起きた時はまだそんな風潮はなかったわけです。裁判はもちろん非公開、少年法に守られて刑務所にはいかない、マスコミは被害者のプライバシーを丸裸にする、心ない嫌がらせ。
特にマスコミについては酷いなと感じます。最近僕はテレビのニュースとかまったく見ないですけど、そんなことどうでもええがな、というようなプライバシーに関する話がいろいろ出ます。加害者が少年だから何も書けない代わりに、被害者については突っ込んでやろう、ということなんでしょうけど、マスコミのそういう、とりあえず何でもいいからネタを取りに行く、という風潮は嫌いですね。まあそれが収まることはないと思いますけど。
こういう事件が起こると、日本という国は法律もマスコミも国民もみんな幼稚だなと思いますね。もちろん、きっと僕も幼稚なんでしょう。もっと社会全体が、そして仕組みの一つ一つが、大人であることを目指していかなくてはいけないのではないかなと思います。
いろいろ考えさせられる作品だと思います。読んでみてください。

土師守「淳」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)