黒夜行

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神様のカルテ(夏川草介)

最近スタバに行くことがあったんだけど、そこで古本を回収するみたいな案内を目にしました。

http://www.starbucks.co.jp/holiday/event/index.html?cid=pc_wh_b42

調べてみると、不要になった本をスタバに持っていくと、それをスタバが回収し、中古本業者に査定してもらい、その査定金額すべてを日本点字図書館に寄付する、とのことです。日本点字図書館は、目の見えない人のために音声図書や点字図書なんかを作ったりしているようなところらしいです。
なかなか面白いと思うんですけど、どうしてスタバで本を回収しようと思ったんだろうな、と思います。確かにスタバでは、コーヒーを読みながら本を読んでる人が結構います。そういう人たちにアピールできるように、ということなんでしょうか。
でも、やっぱり『本』というもののパッケージの力みたいなものって、やっぱりまだまだ大きいんだな、と思います。本はホントにどんどん売れなくなってきているんですけど、本という形態が持つ力みたいなものはきちんと残っているな、と。
だって例えばですけど、音楽とか映像とかだと、この企画って成り立たないじゃないですか?それは、音楽とか映像とかっていうものの価値は普遍でも、それを納めるパッケージがどんどんと変化していっているためだと思うんです。音楽の場合、昔はレコードだったけどだんだんCDになって、今ではUSBメモリで新曲が発売されたり、なんてことだって起こっています。映像にしたって、ビデオだったりDVDだったりブルーレイだったりいろいろですけど、とにかく技術革新によって形態が変化していくものというのは、その形態自体が歴史を獲得することが出来ないので、普遍性を持つことが出来ないのだろうなと思うんです。
でも、本の場合って、もう何千年も前から形が変わっていないんです。文学自体の価値はもちろん普遍的だけど、それを収めるパッケージとしての本という形態もまた普遍的なものなんですね。だからこそ、『本』というパッケージを使った企画がいろいろと成立するんだろうなと思うんです。
今電子書籍なんてのが徐々に出始めています。正直なところ、僕は電子書籍なんてのがかなり出回るようになっても、本という印刷物で小説を読みたいと思っています。電子書籍がどこまで広がっていくのか分からないけど、本という形態が、なくなることはないだろうけど、衰退してほしくもないよなぁと思います。
そろそろ内容に入ろうと思います。
舞台は地方病院である本庄病院。信濃大学医学部を卒業し、そのまま地元に残って地域医療に身を捧げる、5年目の医師栗原一止が主人公です。
一止は、慢性的に医師の不足している本庄病院において、ほぼ何でも屋というような状態になっている。専門は内科だけど、夜間の救急医療ともなればどんな患者でも診る。徹夜なんて日常的で、ほぼ慢性的に疲労困憊している、そんな労働環境です。
そんな中で一止は、医療とは何かということを考えながら日々の仕事をこなしている。一止の元には、大学病院の医局にこないか、という誘いが来ているのだけど、大学病院に行くことが正解なのかどうかわからない。確かに本庄病院の勤務はキツイ。でも、こうやって日々身を削りながら、最後の人生を生きる人々を看取っていく。それが自分のやるべき医療なのではないか…。
天然でふんわりしているけども、重い機材を持って山に登る山岳写真家の妻や、元旅館という謎めいた建物「御嶽荘」に住む、男爵や学士殿と言った奇天烈な面々と共に、生や死の尊厳を描いていく作品です。
今売れてるみたいなんですよね。僕は正直興味があったわけではないんですけど、バイト先の人に読んでみる?と言われたので、借りて読んでみることにしました。
正直、ちょっと残念な作品なんですね。良いか悪いかと聞かれれば、良くも悪くもないと答えるしかないんです。
何が残念なのか、というと、足りないんです。
例えば、本書を医療物という観点からみた場合、確かに地域医療について書いている小説ってそう多くないから悪くないんだけど、でもやっぱり海堂尊には及ばないんですね。医療物のエンターテインメントではもう海堂尊が独走みたいなところがあって、海堂尊も「極北クレイマー」という作品で地域医療を書いている。確かに作品のトーンみたいなものは違うんだけど、でもやっぱり地域医療の現実を描いているという点では、海堂尊の作品の方が遥かに上だと思うんですね。
で本書は、語りの軽妙さやキャラクターの愉快さなんていうのも魅力の一つなんだと思うんです。主人公は、夏目漱石の「草枕」が大好きらしく、しゃべり方も古臭い感じになってしまう変人で、文章もなんとなく古っぽい感じの雰囲気を出しています。また、「御嶽荘」に住む男爵や学士殿、それに主人公の奥さんなんかが結構いいキャラクターで、変なキャラクターを気に入る人もいるかもしれません。
でも、そういった部分も、どうしても森見登美彦には及ばないわけなんです。文章を古っぽくしたり、奇天烈なキャラクターを出したりという点では、もう森見登美彦にかなう存在はいないでしょう。万城目学くらいの力があれば、まだ森見登美彦と拮抗出来ると思うけど、本書の場合森見登美彦には遠く及ばないという感じなんですね。
もし、海堂尊も森見登美彦もいない時に本書が出ていたら、もしかしたら面白いと思えたかもしれません。でも、海堂尊も森見登美彦もいる世界では、本書の魅力というのは限りなく薄まってしまうと思うんです。僕が初めに『足りない』と書いたのはそういうことで、そこがちょっと残念だなと思います。
あともう一つ思ったのが、ちょっと枚数が少ないかなということ。これも『足りない』という部分ですけど、本書はハードカバーで200ページくらいしかないんですね。本書は、小学館文庫小説賞とかいう新人賞を受賞してて、もしかしたらその新人賞の規定枚数がそれぐらいなのかもしれないけど、でも地域医療を舞台にして、かつ男爵とか学士殿とか奥さんみたいな結構魅力的なキャラクターを登場させる物語にしては、ちょっと話が短いなと思うんです。せめて300ページを超えるくらいの分量がないと、ちょっと物足りなさを感じてしまうのではないかなと思うんです。
まあでももしかしたら、今の世の中にはこういう作品がいいのかもしれないですね。海堂尊ほどとんがってなくて、森見登美彦ほど奇天烈ではなくて、枚数的にも読みやすいような、そういうライトな小説が求められているのかもしれません。だから売れているのかもしれません。こういう作品ばっかり売れていくのは、僕としては怖いんですけどね。20年後とかって、僕が読みたいと思えるような本って出版されてるかなぁ。
まあそんなわけで、僕としてはそんなにオススメではないんです。僕なら、海堂尊や森見登美彦をオススメします。まあでも、軽い小説を求めている人にはいいかもしれません。

夏川草介「神様のカルテ」





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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)