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ぼくと、ぼくらの夏(樋口有介)

ツイッターってあるじゃないですか?まあ僕はやってないんですけど、あれでちょっと面白いことを考えたんです。
最近、ツイッターで書いた140字以内の短い小説を集めた本、みたいなのが出版されたんです。140字以内でどんな短編が書けるのか分からないけど、まあ書いてるんだから書けるんでしょう。
だったらこんなんもアリなんじゃないかって思ったわけなんです。
ツイッターで連載小説。
アイデアとしては、単純です。ツイッターで連載小説を書くっていうだけのことなんだけど、いろんな人がリレー形式で書いたら面白いと思うんです。一人の人がツイッターで連載しても、別にそれは他の媒体でやっても同じだけど、リレー小説という形態だったら面白いことができそうな気がするんです。
それはRPGのゲームのように、無限に分岐する物語を作れるかもしれない、ということです。
例えばある人が、Aという書きだしをツイッターで書くとしましょう。別の人がB1という続きを書くんだけど、また別の人がB2という続きを書いて、さらに別の人がB3という続きを書く。これで既に、Aという書きだしから物語が三つに分岐したことになります。その後同じ風にリレー小説を続けていけば、Aという書きだしから無限に分岐していく小説というのが作れるような気がするんですね。
僕はツイッターをやったことがないんで、システム上こういうことが可能なのかどうか知らないんだけど、もし出来るとしたら、他では不可能な表現方法になるでしょう。
近いものと言えば、さっき例を出したRPGのゲームか、あるいはゲームブックと呼ばれるような本でしょうか。でもどちらも、物語の範囲が限られてしまいます。作った側が想定した範囲内にしか物語が存在しないんです。でも、このツイッターリレー小説では、Aという書きだしを書いた人間から、続きを書く人間が現れさえすればだけど、いくらでも永遠に物語を分岐させることができる。しかも、その物語をそのまま楽しみたければ、ツイッター上で読むしかない(書籍化した場合、どうしても切り捨てなくてはいけない部分が出てくるから)。小説というのは、雑誌やウェブやいろんなところで連載されているけど、それらは雑誌やウェブでなくてはダメだという理由があるわけではありません。でもこのツイッターリレー小説の場合、ツイッターで書いてツイッターで読むということに意味がある小説、ということになるはずなんですね。
これはなかなか面白いと思うんですけど、どうでしょうか?最近は、小説を読みもしないのに書きたいという人がたくさんいるらしいから、書こうと思う人は結構いるんじゃないかな。ツイッターのシステムが、このアイデアを実行できるようなものなのかどうかは僕にはわからないんだけど、システム上可能なんだとすれば、だれかやってみたら面白いんじゃないかなと思います。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、1988年にサントリーミステリー大賞の読者賞を受賞した作品の新装版です。
主人公の戸川は高校生。夏休みで、馬鹿デカイ家に父親と二人で住んでいる。両親は離婚し、戸川は家事全般を引き受けている。父親は刑事。ジャイアンツファンで、生活全般がだらしない、47歳。
戸川はそんな父親から、クラスメイトが自殺したことを聞いて知る。『自殺なんかしなければ、高校を卒業したあとで思い出すことも、ぜったいないような感じの女の子だったのに』と戸川は思う。自殺したクラスメートじゃなくても、戸川はそう思ったかもしれない。戸川はぜんたいに、感情というものに欠けているきらいがある。
ひょんなことから、ヤクザの娘である酒井麻子と親密になり、自殺したクラスメートについて調査をすることになった。自殺したクラスメートは妊娠していたのだけど、相手が誰なのか浮かんでこない。しかも、クラスでは親しそうには見えなかった女の子とディスコに行っていたのだという。
しかし、何があったのかまったく見えてこない。麻子との関係も行ったり来たり。その内父親が一目ぼれ。そしてようやく、事件は哀しい結末を迎える…。
というような話です。
なかなか面白い作品だなと思いました。一応ミステリーですけど、ミステリーがメインという感じのしない作品です。じゃあ恋愛小説なのか、家族小説なのかというとそうでもなくて、漠然と青春小説と表現するしかないような、そんな感じの作品でした。
何より僕が好きなのが、主人公の人生に対するトーンです。とにかく、感情の起伏が少なくて、あまりいろんなことに関心がない。でもそれはそういう風に見える(あるいは見せている)というだけで、探偵ごっこにも首を突っ込むし、麻子というクラスメートとも仲良くやろうとしている。まあそんな、うまく説明出来ないんだけど、そんな主人公の人生に対するトーンみたいなのがいいんですね。僕も実はこの主人公みたいなトーンを狙ってるんだけど、なかなか難しいものです。
主人公だけじゃなくて、本書の主要な登場人物はみんなキャラクターがいいですね。僕が主人公に次いで好きなのは、主人公の父親です。僕は、大人だからとかいう理由でいばるような人間って嫌いなんだけど、この父親はそれとは真逆の人間なんです。息子と目線が同じというか、息子と友達みたいな感じで接している。自分が大人であるということを忘れているみたいな感じ。僕は結婚はしたくないし、子供だって欲しくはないけど、もし天変地異が起こって自分に子供が出来たら、こんな父親になりたいなぁ、と思えるような父親でした。まあ僕のように思う人間はそう多くはないと思うけど。
酒井麻子もいいです。ヤクザの娘としていろいろ苦労しながら生きてきた女の子で、でも主人公とは何だか急に親密になったりする。よくわからないことで怒ったり(と感じるのはきっと、僕が鈍感な男だからだろうけど)、感情の起伏が激しかったりして主人公を振り回すんだけど、それが全然『嫌な女の子』という感じではないんですね(まあ女性の視点から見たら、麻子は嫌われるタイプだったりするかもだけど)。
また、主人公の担任の先生っていうのも出てくるんだけど、これもなかなか面白い。先生としてきちんとやっていかないといけないと思っているようだけど、どうも『先生』という枠組みから外れているような雰囲気を醸し出す。ものすごく美人で、生徒が『何で学校の先生なんかやってるんだろう』と思ってしまうような人だからかもしれないけど、その『先生』という座標からのズレみたいなものが僕は結構好きだったりします。
ストーリーについても少し書きましょう。ストーリー自体は正直さほどということはないんです。クラスメートが自殺したと聞いて、どうして自殺したのか調べ始める。その過程でまた別の事件が起こる。いろいろな細い線を辿っていくと、隠されていた真実が浮かんでくるという、まあミステリー小説のよくある展開で、ストーリー自体はさほどどうこうということはありません。結局うまいこと回収できていない伏線もあると思うし(僕にはイマイチ、どうして自殺したクラスメートがディスコに行っていたのかが分からないんだけど。最後まで読んでも、関係ないような気がするんだよなぁ)、そういう意味ではちょっと作品として弱いのかもしれません。
でも、それを補って余りあるくらい、キャラクターと文章の雰囲気が僕は好きです。もちろん、本書のような雰囲気がダメという人もいるでしょうけど、淡々として主人公の雰囲気とマッチしている渇いた感じの文章はアリだと思うし、ちょっとずつ『普通』からズレているような登場人物たちの日常も笑えてくるしで、面白いなと思いました。これがデビュー作だと考えれば、なるほどなかなかレベルは高いんじゃないかなと思います。
こういう文章の雰囲気がダメという人はいると思うんで、買う前にところどころパラパラめくって文章をざっと読んでみたらいいかもしれません。嫌いな雰囲気の文章じゃなければ楽しめる作品だと思います。是非読んでみてください。

樋口有介「ぼくと、ぼくらの夏」



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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)