黒夜行

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鉄の骨(池井戸潤)

僕のいる店はとある書店グループに所属しているですけど、そのグループでは今年ある文庫を山ほど売らないといけない、という目標があったわけなんです。とにかく前年比を超えるのは最低条件で、売れば売るほどいい、ということのようでした。
まあそんなわけで、その文庫レーベルの本が一年間山ほど送られることになったわけなんですけど、まあこれはホントに大変でした。
書店にいると、いろんなしがらみから、『売らないといけない本』っていうのが時々出てきます。出版社との関係やなんやかんやで、作品の内容如何に関わらず、とにかくたくさん売ることを求められるものです。まあ他の小売店でもあるでしょうか。新製品とかで販売のノルマがあるとか。僕のいるグループではノルマというほど厳しい何かを課せられるということはないですけど、まあ僕は与えられた目標はなんとかクリアしようと努力するようにしています。
しかしその売らないといけない文庫レーベルはキツかったんです。そもそも僕は、前年その文庫レーベルをかなり売ってるんですね。前年は、その出版社の文庫を結構売らないといけないということで、じゃあその出版社の中で売りやすそうだったんで、その文庫レーベルの文庫を結構売ってたんです。で、その状態で、今年その文庫レーベルの作品をたくさん売れということだったんで、まあ相当厳しかったですね。
それでも、グループの中でもトップの売上で終われそうです(ウチの店は、グループの中では割と上位の売上ですけど、でも1位になれるほどの規模ではない)。これについてはよく頑張ったものだなと自分を誉めてあげたい感じがします。
で、その文庫レーベルを売らないといけないのが、今月までなんですね。12月になったらもう売らなくていいんです。これまで、その文庫レーベルの本を売るために売場から外せずに苦労していたんですけど、これで心おきなく外せるんで嬉しいです。
売らないといけない本、というのが出来てしまうのはまあ仕方ないし、売れと言われれば売りますけど、でもやっぱり自分がいいと思った本を売りたいという気持ちが結構強いんでなかなか複雑なものです。まあこれからも、売らないといけない本はバリバリ売りますけどね。
そろそろ内容に入ろうと思います。
平太は、一松組という中堅どころのゼネコンの社員だ。入社四年目ながら、現場の若い作業員たちをまとめあげる立場であり、デカイ建物を作れる自分の仕事に誇りを感じるし、やりがいも感じていた。
そんな矢先、直属の上司から唐突な話を聞かされる。業務部という本社の部署が、お前を指名で欲しがっている、というのだ。平太は首を捻った。本社に知ってる人間はいないし、現場でやっていきたい平太としては納得しかねる人事だ。しかし命令は命令。平太は業務部に配属されることになった。
業務部は言わば営業の最前線だ。平太はそれまで、自分たちがやっている仕事を誰が取ってきているのかなんてことまで考えたことがなかったが、業務部に配属され、工事の受注をするというのがいかに大変なことなのか知ることになる。建築業界は旧弊な業界で、業務部は『談合部』と呼ばれることもある。各ゼネコンは脱談合を掲げながらも、裏では談合を続けていた。平太もそんな談合部に配属されたのだ。
そのせいで恋人とぎくしゃくすることになった。恋人の萌は銀行に勤めているのだけど、平太が談合に関わる可能性があると聞かされると、犯罪だから止めてほしいと言われた。しかし平太としては、会社の命令には従わないわけにはいかない。社会経験を経て、学生の時とは変わってしまった二人は、お互いに真逆の仕事環境の中、徐々にすれ違っていくことになる。
そんな平太に、とんでもない役割が与えられることになる。地下鉄工事に絡み、『天皇』と呼ばれる関東の公共事業の談合を取り仕切るフィクサーが出てくるだろうと読んだ一松組は、なんとそのフィクサー担当に平太をあてがったのだ。何でも平太とそのフィクサーは同郷らしく、そういう事情から平太が業務部に呼ばれたのではないかと憶測させられた。
生臭い談合という現場に放り込まれた平太は、正しいことが何なのかを考え続けながら、それでも会社の方針に従い続けることになるのだが…。
というような作品です。
実に面白い作品でした。池井戸潤はどんどん作家として伸びて行っている感じがします。やっぱり僕の中で池井戸潤の最高傑作は「空飛ぶタイヤ」なんですけど、本書もその次ぐらいにくるような素晴らしい作品でした。
まず『談合』というものがテーマというのが面白いですね。ニュースとかで時々談合で捕まったりしていますけど、正直その背景みたいなものってよく分からないと思います。もちろん僕もそうで、あらかじめ値段を決めておくんだろう、ぐらいのことしか知りませんでした。そういう、ニュースとかではよく見るけど実際よく知らない『談合』というものを扱っているというのがまず面白いですね。経済小説をあんまり読まないからかもしれないけど、『談合』がメインテーマという作品はそう多くないだろうし、それだけでも読んでみる価値はあるなぁと思います。
それに、まあこれは小説では常套手段ですけど、業務部についてほとんど知識のない現場上がりの男を主人公に据えることで、談合というものにまったく知識のない読者でも十分楽しめるような構成になっているのがうまいです。実際、現場から突然本社勤務に引っ張られるようなことがあるのかどうか僕は知りませんが、この設定はうまいと思いました。結局平太は、業務部の仕事についてはほとんど分からないまま、しかし役割だけはとんでもなく重要なものを背負うという、ストーリーを展開させる上で実に都合のいい役回りを演じることになります。
また、恋人の萌の存在もよかったなと思います。正直、恋愛に関する部分についての描写はさほどうまいとは思えなかったけど、でも平太の仕事について対称的な考え方を持っている萌という存在を出すことで、談合というものについて読者が両面から見れるようになるんです。本書では、談合は甘えだからなくさなくてはいけないという意見と、談合は必要悪としてなくてはならないんだという意見の二つが、様々な場面で繰り返し語られることになります。平太の考え方もその中でかなり揺れていて、初めは必要悪だと思っていたけど、最後の方では談合はいけないという考えになっていくんです。僕は本書を読み終えた今でも、談合がいいのかどうか正直良く分かりません。もちろん、法律でダメだということになっているんだからダメはダメなんですけど、そうではなくて、本当に必要悪としての存在価値がないのかどうかということですね。常に談合が必要なのかと言われればノーですけど、談合がどうしても必要になるケースがあるのではないかと聞かれれば答えに窮すると思います。談合という名前は知っているけど馴染みのない犯罪について、一面的な見方で終わらせないという辺りがいいなと思いました。
談合に関わるメインのストーリー以外にも、平太の母親が大変だったり、萌がフラフラしたり、あるいは警察の動きが描かれたりといろんな話が描かれます。そのために結構視点の移動が激しいところもあったけど、そんなに気にならなかったなぁ。書き方がうまいんだろうなと思います。
キャラクターでは、平太の直属の上司に当たる西田という男がよかったです。グータラ社員に初めは見えたけど実は熱い男である、という辺りがかっこよかったです。逆に、萌の銀行の上司みたいな感じの園田っていう男は嫌いでしたねぇ。あぁいう男は嫌いだなぁ。
かなり長い作品なんですけど、文章が読みやすくてホントにすいすい読めました。最後の最後まで息をつかせない展開で、実に面白い作品です。僕はそこまで経済小説が得意というわけではないんですけど、池井戸潤の経済小説はかなりエンターテインメント寄りに作られているんで、経済小説にあんまり馴染みがない人でも十分楽しめると思います。是非読んでみてください。僕は今年はこれを本屋大賞の1位に推そうかなぁと思っているんですけどね。正直、この作家に本屋大賞をあげなくてもいいだろ、という作家を除くと、今年本屋大賞に推せそうな作品がほとんどないんですよね。難しいものです。

池井戸潤「鉄の骨」



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Comment

[3773]

こんにちは!
池井戸潤さんの作品は『鉄の骨』が初めてですが、「談合」「建設業界」のことがわからなくても面白く一気に読めました!!登場人物のキャラクターもよかったですし、企業間の駆け引きの場面はちょっと緊張感もありで、本当に楽しめました。またいい出会いができました。
それでは季節の変わり目、お体ご自愛下さい!!
追伸:先日、通りすがりさんをTeitteでおみかけしました。インターネットの世界も狭いものですね。

[3774]

訂正:たびたび申しわけありません。前回Teitte綴り違ってますね。Twitterですね!!

[3775]

こんにちわ!
池井戸潤は、デビュー当時はさほどでもなかった印象でしたけど、
作品を出す毎によくなっている気がします。
「鉄の骨」は、談合っていう、名前だけは聞いたことあるけどよく知らないことをうまく題材にしながら、エンタメとしても面白い作品になっていましたね。
直木賞候補にもなりましたし、ますます知名度が上がっていくでしょうか。
池井戸潤初というということは、「空飛ぶタイヤ」はまだでしょうか。
「空飛ぶタイヤ」は、「鉄の骨」をも凌ぐと言ってもいいくらいの傑作ですよ。
そうなんです。つい最近Twitter始めました。
って、結構みんなやってるんですね。

[3776]

「空飛ぶタイヤ」読んでみますね。タイトルからして面白そう!!楽しみです。
Twitter私も始めたばかりで、よくわからないまま手探り状態でやってます。
Twitterでは、いろんな試みがされているようで(作家が小説をツイートされていたり)最近少しずつ面白さがわかってきました。
横のつながり方が思ったより広く速いですね。
これからどんな展開をするか楽しみです。

[3777]

文庫は上下でちょっと長いですけど、是非読んでみてくださいね。
実際にあった事件をモチーフにしているのにハラハラさせる物語です。
僕もなんとなくTwitterの面白さがわかりつつある気がします。
しかし、作家が小説をツイートしてたりするんですね。
どんなもんなのか気になります。
なんとなくまだ流行りに乗ってるだけという域を出れてないですけど、
自分なりの使い方が出来たらいいなと思います。

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空飛ぶタイヤ ディスコグラフィー

空飛ぶタイヤについて詳しく説明してあります♪

書籍「鉄の骨」白熱の談合ドラマで541ページが長く感じない

「鉄の骨」★★★★池井戸潤著、講談社、2009/10/07初版541ページ、1890円                    →  ★映画のブログ★                     どんなブログが人気なのか知りたい←「建設会社の新入社員を主人公に、まさに鉄の骨を汲み上げてひとつの形を作っていく仕事のこれまでは必要悪とされてきた談合について切り込んだ作品」以前は日本人作家の作品は芥川賞や直木賞受賞作品以外はほとんど読まなかったが最近は話題の本は読むようにしている、結構おもしろい作品にも巡り会える。さ

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2013年の個人的ベストです。

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1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
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3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
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7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
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13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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1位 千早茜「からまる
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