黒夜行

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小説 東のエデン(神山健治)

昨日とある営業さんが来てくれました。今僕は「優しい子よ」という本を頑張って売ろうと思っているんですけど、その売上報告みたいなメールを前日に送ったら来てくれたわけです。
そこでいろいろ話をしている時に、僕が『なるべく他の本屋で売ってない本を売ろうと頑張ってるんですよ』というと、営業さんもこんなことを言っていました。
『書店に行っても割とどこも似たような本ばっかり置いていて、一日一冊ぐらいのペースで読むんだけど、どうも読みたい本が見つからない』と。
まあそうだろうなぁと思います。
僕も本当によく思うんですけど、いろんな書店に行っても、平積みされている本がありきたりだなぁと思うことがかなりります。
僕の中で『ありきたりだ』と感じるのはこういう本です。
1、その月の新刊
2、ちょっと前の新刊で売れてるから残してるんだろうなというもの
3、出版社が組んだフェア
4、人気作家の既刊
大抵どこの書店に行っても、割とこういうラインナップばっかりなんです。
でも、上記の1~4って、かなり他の書店と品揃えが被るわけです。
その月の新刊はどの店にだってあるし、ちょっと前の新刊だって売れ続けているものは限られているだろうから同じような感じになります。出版社が組んだフェアは、入れていないところもあるだろうけど、入れている店が近くにあればラインナップは同じだし、人気作家の既刊も、宮部みゆきとか東野圭吾とか伊坂幸太郎とかベタな部分はかなり被ってくるものだと思います。
なので、1~4の品揃えでやっている書店は、どこもかなり似てきてしまうと思っています。
僕は、人気作家の既刊はあんまり置きませんが、1~3についてはきっちりとやっています。が、それ以上に僕が頑張っているのは、いかにして世間的に売れていない良い本を見つけてきて売るか、ということなんですね。
新刊は、売れるものはほっといても売れるし、売れないものは何したって売れないんでそんなに力は入れなくていいし、世間的に話題になっている本だって、ほっとけば勝手に売れていくんで別に力を入れる必要はありません。でも、世間的に売れていない誰も注目していないような作品を売るには、結構頑張らないといけないんです。だったら、出来る限りそこに時間を費やすというのがいいんじゃないかなぁと思っているわけなんです。
なので営業さんとかから、ちょっと試したい本があるんだけど、みたいなことを言われると、すぐに飛びつきますね。つまり、世間的にはまだ売れていないけど出版社的に押してもいいかなって思っている本なわけで、そういうのはまっさきに名乗りを挙げます。自分が読んで面白かった本とか、スタッフの誰かが読んで面白かった本とかも、売れるかどうか、そしてどこに置くのかみたいなことを考える前にまず発注してとにかく売場に置く。売れなかったらPOPを作る。それでも売れなかったら場所を変えたり他にもいろいろやってみる。そうやって、いかにして他の本屋が売っていない本を売るかということにかなり力を入れているわけです。
昨日営業さんはさっきの言葉に続けて、『だからこの店が近くにあったら嬉しい。かなりお客さんがついてるんじゃないですか?』と言ってもらえました。まあ営業さんの言葉なんで話半分に聞かなくてはいけないとは言え、嬉しかったですね。
今も徐々に、来年何を売ろうかということを考え始めています。多面展開をやらないんで、ウチの店発のベストセラーを作るというのはなかなか難しいわけなんですけど、何か一つくらいとんでもない大当たりを生み出してみたいものだなと思います。まあ今年売りまくった「凍りのくじら」なんかは相当大当たりだと思いますけどね。毎月コンスタントに最低40冊売れる本(しかも多面展開していない)なんて、ウチの店の規模にしてはかなり凄いんです。今年中に累計500冊というのが目標だけど、最終的には1000冊以上売ってみたいですね。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、人気のアニメである「東のエデン」を、そのアニメの原作・脚本・演出を務めた人みずからがノベライズした作品です。
森美咲(苗字は「森」ではなく「森美」)は、卒業旅行で行ったアメリカで、滝沢朗という男と出会う。滝沢はホワイトハウス前で全裸になっていて、警察に捕まりそうになっていた。しかも話を聞くに、どうも記憶を失っているとか。とにかく謎めいた人物だけど、何だか見捨ててもおけず、一緒に帰国しようという滝沢の勢いに押されて咲は日本に戻ってくる。
日本は『憂鬱な月曜日』と呼ばれるミサイル攻撃を受けたばかりで、地面に大きな穴が開いているような状態だった。しかも滝沢はそのことも覚えていないらしい。一体この人は何者なんだろう。
滝沢は、自分が何者なのかさっぱり分からないままだったが、何かよからぬことをしていたような雰囲気を感じるのだ。ワシントンの自分の部屋には銃器が山ほどあり、収容所かと見間違うほどの裸の男たちの前で写真を撮ったりしている。しかも謎の携帯。その携帯からジュイスという奴にいろいろ頼めば、何だってやってくれるのだ。
しばらくして、なんとなく状況が掴めてくる。滝沢は意味不明なゲームに無理矢理参加させられたらしい。ジュイスを通じて100億円のお金を自由に使うことが出来る。その携帯を与えられたセレソンと呼ばれる人間は計12人。彼らはその100億円を使って日本を立て直すことを求められている。12人のウチ最も早く日本を立て直すことが出来た一人のみがゲームを上がることが出来、残りの人間には死が訪れる。そういうルールらしい。
記憶のない神山は、咲7の助けを借りたりしながら、よくわからないゲームにケリをつけようと動きまわるのだけど…。
というような感じです。
本書は、ストーリーはまあ面白いだろうなと思うんですけど、小説としての体裁が整っていないなと感じさせる作品でした。
ストーリーはまあなかなかいいんじゃないかなと思います。100億円を自由に使えて、しかもジュイスって奴がなんでも叶えてくれるという設定は無茶苦茶だけど、そこさえ受け入れば結構現実的な部分の多い話なんですね。僕は、元々アニメだったというイメージから、もっとSFとかファンタジーとかそういう感じの作品かと思っていたんですけど、思ってた以上に現実的な話だったんで意外でした。
登場人物たちのキャラクターも面白いし、滝沢たちがやらされているゲームについては結局詳しいことは分からないものの全体のストーリーは割と面白いんじゃないかなと思います。このシーンはアニメで見た方が面白いんだろうな、というところが結構あったんで、やっぱり映像向きの作品なんだろうとは思いますけど。
さて問題は、小説としての体裁が整っていないという点ですね。
僕はアニメを見ていないんではっきりしたことは分かりませんが、本書は、アニメの展開をそのまま文章に置き換えた、という感じなんです。だから、視点の変化が激しい。
アニメを含めた映像の場合、場面転換や視点の転換がいくら激しくてもそこまで違和感がありません。そもそも映像の場合、視点というのがはっきり定まっていないという感じもします。だから視点が切り替わっているという印象もそんなに強くないんだろうと思います。
けど、小説の場合、視点というのは結構重要ですね。小説でも視点がコロコロ変わる小説というのはありますけど、それでもある視点人物による描写はそれなりにまとまっています。でも本書の場合、2ページで視点が変わるとか、10行で視点が変わるみたいなことがあるんですね。たぶん、アニメの展開をそのまま文章に置き換えているからそうなるんだと思うんだけど、でもそれじゃあ小説としてはちょっと成り立たないと思うんです。
どうせアニメの脚本を担当した人がノベライズをするんだったら、大胆な再構築をすればよかったのにな、とか思います。視点人物を3人ぐらいに固定して、視点人物を固定することで描けない部分についてはばっさり切って、その代わりアニメ版とは違う新しい要素を付け加える。それぐらいやらないと小説としてはなかなか成立しないと思います。
まあそんなわけで、「東のエデン」という作品のストーリーが面白いということは分かりました。でもそれを小説で読む必要はちょっとないでしょうね。アニメを見ればいいかと思います。

神山健治「小説 東のエデン」



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Comment

[3771]

今年の個人的ベストは、今のところ長谷敏司のSF『あなたのための物語』ですかね。読みづらい文章ですけど、死というテーマに対する作者の取り組みが真摯で、素直に胸を打つ作品でした。最後の方は泣けました。1Q84はまだBook1を読みおえたところで、面白いといえばたしかに面白いんですけど、今のところ、『あなたの~』を超えることはなさそうですねぇ。

[3772]

「あなたのための物語」、ちょっとamazonで調べてカートに入れておきました。別にamazonで買うわけではないんですけど、amazonのカートは入れておくと欲しい本をメモとかしないで済むんで便利ですよね。機会があれば読んでみたい作品です。
でもちょっと不安なのが、SFというジャンルがそこまで得意ではないということ。苦手でもないんですけど、そもそもあんまり読まないですし、本格ミステリと同じで結構過去のSFの歴史みたいなものをどれぐらい知っているかということによって面白さが変わってきたりするのが難しいところだなと思っています。
僕はなんだろうなぁ。正直なところ今年は、これっていうのがあんまり思いつかないんですよね。また年末にでも個人的なランキングを考えますけど。

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読書日記167:東のエデン by神山健治

昨日、レビューコンテストに応募した「クーリエ・ジャポン」様の編集部を訪問させていただきました!編集部の方、R+の方、参加者の皆様、どうもありがとうございました!詳細はまた後日、報告させていただきます。取り急ぎお礼まで。

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)