黒夜行

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デパートへ行こう!(真保裕一)

明日新人が二人入ってくるらしい。つい二週間ぐらい前にも新人が一人入ったので、これで新人が3人になることになる。
新人が入ってくると結構キツいのだ。何故なら、レジの仕事を教えるのが僕ぐらいしかいないからである。
僕はまあ昔から、教えるのは割と得意な人間だったんですね。うぬぼれかもしれないけど。でも小中高とどの時でも、周囲の人間から勉強を教えてくれと言われて教えていたような、そんな立ち位置でした。
僕は基本的に天才というわけではなくて、勉強は努力して出来るようになった人間なんで、相手が分からないところが分かるんですね。誰かに何かを教えている時に、相手の反応から、なるほどこういう勘違いをしているのか、こういう解釈をしているのか、こういうことをそもそも知らないのか、ということが分かるんですね。だから人よりうまく教えられるみたいです。
僕としては別に普通だと思っていたんですけど、あんまりそうでもないみたいです。バイト先では、新人が入ってきた時に教育をする係というのは決まっていなくて、常にその時シフトに入っている誰かが教えられることを教える、という大雑把なスタイルなんです。で、他の人が教えているのを見ると、それじゃ分からんだろ、というような教え方の人が実に多いんです。
あることを教える前にまず知っておかなくてはいけない前提的なものがあるのにそれを説明しなかったり、普段使っているけど一般的な用語ではないものを説明なしで使ったり、あらかじめ何の説明もしていない状態で、実践を一回見せただけで教えた気になっている人とか、とにかくそういう教え方がイケてない人が実に多いんですね。バイト先には結構な数のスタッフが働いていますけど、まともに新人教育が出来るスタッフは朝番遅番合わせて5人ぐらいだと思います。ちなみに残念ながら、この5人の中に社員は一人も入っていません(笑)。社員も教えるの下手なんですよね。並のスタッフ以下かもしれません。
それに、下手でもまだ教えるスタッフはいいです。スタッフによっては、新人と一緒にペアでレジをしているにも関わらず、仕事を教えもしないし、何も会話すらしない、という人もいます。もうこんなのは言語道断ですね。仕事をうまく教えられないなら、せめてバイト先の環境に馴染めるようにいろいろ喋ったりしてあげないといけないのに、そういう発想が出来る人も少ないんですね。これは昔社員に何度か言ったことがありますけど、まあ変わってないですね。
まあそんなわけで、新人が入ってくると僕が教えないといけないんで大変なんです。僕は常に、レジにいる時間でさえもやることが満載なくらい、とにかくいつも時間がないんです。レジの時間も、出来る限り自分の仕事をしたいんですね。でも新人が入ってくると、新人を教えるのに時間を取られてしまう。他の、レジにいる時にカバーを折るぐらいしかやることがないスタッフが教えてくれればいいんだけど、なかなかそんな能力のあるスタッフがいないんですね。だから厳しい。
しかも明日は、二人同時に初日を迎えるというんです。今まで長いこと新人に教えてきましたけど、二人同時に入ってきたという経験はありません。結局僕が教えるしかないんで、二人同時に僕が教育をすることになるでしょう。たまらんですね。
まあ、来年の四月で辞めてしまうスタッフが結構たくさんいるんで、今のウチに使えるスタッフを育てておかないと厳しいは厳しいんです。そもそも常にスタッフが足りているとは言い難い状況ですからね。だから新人が入ってくるのはいいことなんだけど、でも新人が入ってくれば僕が教育で忙しくなる。仕方ないんだけど、いつもそれが悩みの種です。
新人を教育出来るスタッフの教育でもしようかなぁ。でも絶対自分で教える方が早いな。頑張ります。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、多くの人々が何故か深夜のデパートに入り込むことになった一夜のドタバタ劇を描いている作品です。
まず舞台となるデパートの説明をしましょう。
鈴膳百貨店は、戦前からある由緒ある百貨店だ。現社長の祖父が興した。東京大空襲で一度建物がなくなったものの、何とか現在に至っている。
しかしデパートの売上が全国的に下がり、経営は苦しくなっている。さらに追い打ちをかけるように、鈴膳デパートにとある不祥事が発覚し、そのせいでさらに客足が遠のいているのだ。今創業100周年祭をやっているのだけど、目を覆いたくなるような数字しか上がってこない。
そんな、ちょっとワケありのデパートが舞台です。
加治川英人は、財布に143円しかない。ちょっとしたことで怪我を負い、派遣会社をクビになったのだ。妻とも離婚し、一人娘も母親と一緒に出て行ってしまった。離婚後は、ひと月に一度娘をデパートにつれていくことが唯一の楽しみだったのだが、娘はデパートがダサいと言って連絡もくれなくなってしまった。今夜をやり過ごす場所を思案していた時、思いついた。大好きなデパートにいさせてもらおう…。
山添真穂は、鈴膳百貨店の社員。高級茶碗を売る売場で働いている。真穂は仕事へのモチベーションをかなりなくしてしまっていた。その原因となった男に復讐すべく、真穂はとある計画を練っているのだ。創業100周年祭の今なら、閉店後のデパートには金庫に入りきらないお宝がザクザク眠っているのだ…。
コージとユカは東京に家出をしてきた高校生。二人ともちょっとした事情を抱えていて、やりきれなさとお互いへの信頼感からちょっと家出してみることにしたのだ。しかしコージはお金をバンバン使っている。クレジットカードも使えない。結局帰りたいのかな?そう思っているとコージがある提案をしてきた。今日の夜はここで過ごそう。そこは、鈴膳デパートだった。
鈴膳百貨店の社長である矢野純太郎は、社員から軽く見られている。お飾りの社長なのだ。もうすぐとある大資本のデパートと合併するという話が出ている。そうなれば、創業家から誰か首を差し出すしかない。自分はそれだけの理由で社長にさせられたのだ。矢野は、ひょんなことから深夜のデパートで警備員と共に巡回をすることになった。拾った携帯電話の落とし主も探さなくてはいけないし、奇妙な落し物もどうにかしなくてはいけない…。
塚原仁士はヤクザから逃げていた。そして警察からも逃げなくてはいけないことになるだろう。ふと手を見ると血だらけだった。地面には血の跡が残っている。いずれにしてもどこかで手を洗わないと。トイレのありそうな場所を思いめぐらすが、ふと気づくとそこは鈴膳百貨店のすぐそばだった…。
赤羽信はいろいろな事情から、鈴膳百貨店の本店の警備員として働いている。警備の生き字引と言われる半田良作の元、デパートを守るため日夜頑張っている。最近付き合い始めた彼女と仕事中に連絡を取ろうとしてしまうのは愛嬌ということで…。
というような面々が、深夜のデパートを舞台にしてドタバタを繰り広げる、という話です。
ほどほどに面白かったですけど、そこまで言うほどでもないな、という感じでした。少なくとも、かつての真保裕一の作品の面白さを知っている人間には、物足りない作品ではないでしょうか?しかし酷いのは帯ウラの文句。『名作「ホワイトアウト」を超える、緊張感あふれる大展開!』って書いてあるんです。それが誇大広告だ、という点にはとりあえず目をつぶるとして、酷いのは比較対象として「ホワイトアウト」を出していること。だって本書は講談社が出していて、真保裕一は講談社の江戸川乱歩賞出身で、講談社でたくさん本を書いているのに、本書と比較するのに講談社の本ではなくて新潮社の「ホワイトアウト」を引き合いに出すのはどんなもんですかねぇ、という感じです。まあ知名度で言ったら「ホワイトアウト」は抜群だろうから仕方ないのかもですけど。
僕の印象では、「キサラギ」っていう映画に近いものを感じました。僕は映画自体はちゃんと見たことがないんですけど。「キサラギ」っていうのは、ある死んじゃったアイドルを追悼するということで集まった5人が、それぞれそのアイドルと実は深い関係だったということが徐々に明かされていく、という構造なんだけど、本書も、深夜のデパートに集まった人々が実はデパートに関わる事情を抱えている、というようなことが少しずつ明らかになっていくんですね。その過程はなかなかうまいと思いました。
また最後の方で、何故半田良作は鈴膳百貨店の本店勤務にこだわるのかということが明かされたり、携帯電話の落とし主に関わることで社長が決断したりすることなんかがなかなかいい話だったりするんで、そういう細かな部分もなかなかうまいなと思いました。
ストーリー全体としては、ちょっと無理があるだろ、みたいな展開もなくはなかったけど、それぞれの人間の思い込みをうまく利用して余計に混沌とさせていく流れは面白かったです。本書の主人公たちにはまず前提として、『深夜のデパートには警備員以外誰もいるはずがない』という思い込みがあるわけです。まあ当然ですけど。でも実際には相当の数の人間が蠢いているわけなんですね。その辺りの食い違いが余計混乱させる原因となっていて変な展開になっていくのがなかなか面白いなと思いました。
しかしやっぱり、それなりのエンターテイメントという感じの作品です。僕は真保裕一のかつての作品が結構好きで、社会的な問題みたいなものをとりあげつつきちんとエンターテイメントとして読ませる小役人シリーズや、僕が誘拐モノの傑作を選ぶとしたら三本の指には必ず入れたいと思う「誘拐の果実」とか、そういうレベルの高い作品を書いていたんですね。その印象がやっぱり強いんで、本書は確かにつまらないわけではないし、作品の出来としても悪くはないと思うんだけど、どうしてもあんまり高い評価は出来ないなという感じです。
真保裕一の昔の作品を読んだことがない人で、エンターテイメント系の作品が好きという人なら結構楽しめるのではないかなと思います。真保裕一の昔の作品を読んだことがあるという人には、あんまりオススメは出来ないですね。

真保裕一「デパートへ行こう!」




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書籍「デパートへ行こう」★★★真保祐一 著、講談社(1,680円、378ページ )                    →  ★映画のブログ★                     どんなブログが人気なのか知りたい←「買ってから半年以上経ってやっと読み終えた本、この本も以前「週間ブックレビュー」で紹介されていて買ってそのまま積んでいた、まず、タイトルが良い、普段あまり行かないデパートへ行きたくなるのかどうか、そんな感じで読み始めた」デパート、そこはフロアごとにまったく違う商品がそれこそギッシリ詰まった

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)