黒夜行

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成功は一日で捨て去れ(柳井正)

まずこちらから。

http://www.shinbunka.co.jp/news2009/11/091116-01.htm

紀伊国屋書店がポイントサービスを始めるとのことです。
書店もホントにポイントが普通になってきましたね。ウチの店は残念ながらポイントはありません。本というのは正直なところどこで買ったって同じなんで、それならポイントがつく書店で、と考えてしまうのは当然でしょう。
ウチの店はどうしたってポイントがつくことはなさそうですけど(まあ可能性がないではないけど)、近くにやっぱりポイントがつく書店があったりします。しかも駅の中に。強敵です。ポイントがつく以上の付加価値を生み出さなくてはいけないんですけど、社員はそんなこと全然考えてないだろうな。まあいいんですけど。
ところで、いつも思うんですけど、書店でのポイントサービスっていうのはアリなんですかね?というのも、本というのは値引きして販売することが出来ないと法律で決まっている商品なんです。ポイントで本を買うというのは実質的な値引きじゃないのかなぁ。その辺りがいつも気になるんですね。まあ別にオッケーということになってるならいいんですけど。
全然関係ないですけど、こういうビジネスをやったら面白いと思うんです。今日本にはありとあらゆるポイントがありますけど、それを相互交換できるようなサービスがあったら良くないですか?例えば飛行機に乗りまくっててマイルが貯まっている人がいて、そのマイルをツタヤのポイントと交換できる、みたいな。交換レートを設定して、あとはシステム的な部分を整備すればいけそうな気がします。でも、お客さん的にはメリットがあっても、企業的にはメリットはないかもしれませんね。どうなんでしょう。
もう一つこちら。これは本の話ではないですけど。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20091117-00000001-president-bus_all

「人はなぜ衝動買いをしてしまうのか?」とタイトルのついた記事です。ここで紹介されている実験が実に面白かったんで書いてみようと思います。
被験者に、どこにでもあるようなハサミを見せて、「これはいくらでしょう?」と質問をする。でも質問に答える前に、200から2000まで200刻みの数字が書かれたルーレットを回してもらった。
すると、本来ハサミの値段とはまったく関係のないルーレットの数字に引きずられ、そのルーレットの数字に近い値段を答えてしまう、というのだ。ハサミの値段とルーレットの数字に何の関連性もない、ということは頭で分かっていても、その通り行動出来ないのだそうです。
まあでも実際の買い物にあてはめればわかるような気がします。例えば元々の値段が1万円のものがあって、それが50%オフで5000円になっていたら、元々の値段である1万円が適正な値段であるかどうかに関わらず、安い!と感じてしまいますからね。
また心理学の世界で「ドアインザフェイス」と呼ばれているものがあります。これは相手に何かを頼んだりやってもらったりする時に使えるテクニックです。まず相手に、到底受け入れられないだろうという頼みをします。相手は当然断るでしょうが、その後自分の本来の頼みを言う、というものです。相手としては、一旦初めの頼みを断ってしまったのだから、次の頼みは断れない、という心理になるんですね。たぶんこのハサミの話も、こういうのに近いんだろうと思います。
書店では値引きは出来ないし、テレビCMや大々的なキャンペーンみたいなものもあんまりなかったりするんで分かりやすい形で衝動買いを起こすというのは難しいです。書店の場合では、誰にも操作できないような「全体の雰囲気」みたいなものに流されて本が売れていくような傾向があるような気がします。去年売れに売れた「○型自分の説明書」なんていうのはまさにその典型例でしょう。日本全体が、あの本を「買う雰囲気」になっていた。他にもそういう「全体の雰囲気」によって売れたなという本はたくさんありますけど、しかしそれは誰にも操作することが出来ない要因によって引き起こされているケースが多いような気もするんで難しいなと思います。
書店でやれるとすれば、やっぱりPOPでしょうか。かつて「モルヒネ」という作品が、ほぼPOPの力のみで死ぬほど売れたことがあります。僕も思わず衝動買いを起こしてしまうようなPOPを作れればいいんですけど、POP作りのセンスはないんで、作れるスタッフに頑張ってもらおうと思います。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、ユニクロの社長(という言い方は正確ではないですけど。正確には、ユニクロなどを子会社に持つファーストリテイリング社の会長兼社長です)の著作です。本書は、一旦会長に退いた柳井さんが、3年で社長に復帰して以降の奮闘を描いているようです。
一旦会長に退いた柳井さんは、3年後会社が「大企業病」に罹っていることに気付きます。「大企業病」というのは、まあいろんな要素があるでしょうが、一番大きいのは「安定志向」になっているということです。柳井さんの持論では、会社は安定志向を目指してはいけない、とのことです。かつてのベンチャースピリットを忘れた会社は、このままでは潰れてしまうのではないかと思ったのだそうです。そこで柳井さん自らまた社長に復帰し、「第二創業」をテーマに掲げ、社内のすべての現場を回り、ありとあらゆる手を尽くし、現在進行形で改革を行っているその過程で記した手記です。
柳井さんの本を読んだのは初めてですけど、いやこの人は凄いですね。もし僕が今大学生だったら、もしかしたらユニクロに入社すべく努力し始めているかもしれません。まあどっちにしても僕は人生に対してやる気がない(やる気がないということを発見し、それを認めたことで僕は随分生きやすくなったわけですけど)ので、ユニクロに入社したところでついていくことはでしょうけど、こんな素晴らしい経営者がやっている会社で働いてみたいな、とそんな風に思いました。
本書のスタンスで僕が一番いいなと思った点は、失敗を隠さない点と、そしてまだまだ途中だという姿勢が伝わってくるという点です。
僕は経営者や会社の自伝なんていうのを時々読むんですけど、そういう本にはなかなか失敗っていうのは載ってないんですね。今までどれだけ凄いことをしてきたか、どんな凄い成果を挙げてきたか、というような成功体験ばっかりが書かれていることが多いです。
しかし本書には、大きな失敗から小さな失敗まで、またある意味成功である意味失敗という事例まで、隠さずに書いています。そもそも柳井さんの中で、失敗することが悪いことだと思っていないのだろうという風に感じられます。安定志向を否定し、常に挑戦し続けなければならないのだから、失敗だって当然ある、というスタンスなんだと思います。失敗も包み隠さずに書いているからこそ、成功したもの、特に世間的に失敗だと思われているけど社内的には成功だったという事柄が言い訳に聞こえず、なるほど実際そういうことだったのかと素直に受け取れるなと思いました。
しかも、成功について書く時でも、それはまだ未完成で途中なんだというスタンスを常に持っています。まだまだやれることがある、と考えている。これだけ大成功をしているように見えるユニクロの社長が、まだまだ成功とはほど遠いと考えているというのがいいなと思いました。
以下、本書から具体的な文章を抜き出しながら内容について書いていこうと思います。

まず、毎年柳井さんが全社員に宛てて正月1日に送るメールからの抜粋。ちょっと長いですけど。

そこで、私から皆さんへの問いです。
毎日、誰よりも真剣に自分の商売をしていますか?
あなたの仕事の受益者はあなたの仕事を高く評価していますか?
現場を誰よりも熟知していますか?
問題点や回答を現場で見つけていますか?
現物を手に取って、自分の目の前で商売していますか?
現物をあらゆる角度から見ていますか?
最悪の現実を理解しながら、最適な解を考えていますか?
世界中のだれよりも自分の職務に忠実に仕事をしていますか?
お客様の要望について誰よりも熟知していますか?
お客様の為に今日何をしましたか?
今日の我が店舗でのお買い物に、すべてのお客様が満足されましたか?
現在の市場の状況と競合店の打ち手を、誰よりも本質的に理解していますか?
競合店の次の打ち手に勝てる戦略がありますか?
自分の仕事に理想を持っていますか?
理想を何よりも大事にしていますか?
あなたの仕事は、世界の誰よりも革新的ですか?
その仕事で本当に世界一になれますか?
そのスピードで目の前の先行企業を追い抜けますか?
あなたの仕事の基盤と発想の源は、現場、現物、現実ですか?
あなたは誰よりも世界一になるために努力をしていますか?

ここに書かれている問いの多くは、書店でも有効ですね。同じ小売業だから当然かもしれませんが。さすがにここまで理想を高く持つことは出来ませんが、この文章をウチの社員に読ませたいなと思いました。

かつて新聞の全国紙で、「ユニクロは、低価格をやめます」という広告を打ったことがあるそうです。真意としては、「まず高品質なものを作る。そしてそれを出来る限り価格を下げて売る」ということです。今後のユニクロの決意を表明するものだったのに、社内のほとんどの人間は反対し、柳井さんとコピーライターだけが賛成した、という。
確かにかつてユニクロは安い服を売っているというイメージがあった。「ユニバレ」(ユニクロの服を着ていることがバレて恥ずかしい、ということ)という言葉もあった。でも今ではそんな風に思う人はいないだろう。多くの人の意識が変わったのも、まず社内の人間が意識を変えて行ったからかもしれない。

柳井さんは、部下に命令することが仕事だと思っている上司を非難している。まっとうな人だなぁ、とそういう文章を読むと感じる。

はじめに仕事というものがあって、それを成し遂げ成果を上げるために組織をつくって分業しなければならないのに、あたかも組織というもののために仕事が存在するかのような現象を柳井さんは嘆く。組織が大きくなっていくと必然的にそうなっていくのだろうし、柳井さんが社長を退いた後三年間で起きたこともそういうことだったのだろう。柳井さんの凄いところは、大きな組織になったらある程度は仕方ない、と考えるのではなくて、それはなんとかしないと、と考えるところだと思う。

ユニクロはSPA(何の略かは分からないけど)というシステムを採用しています。これは、商品の企画から生産、発注、流通、販売まですべて自分たちで引き受けるという仕組みです。
一般的にはSPAというのは、発注した商品はすべて買い取らなくてはならないからリスクはあるが、大量にロット発注して買い取るからコストも下がるし、売値も下げられる。
でもSPAのメリットはそんなところにはない、と柳井さんは言う。SPAの場合、圧倒的な売れ筋商品を発見するまで何度でも実験が出来る。また、企画から販売までを一手に引き受けることで重要な売れ筋情報を逃すことがない。SPAは世界でも通用するやり方だと言います。

ユニクロは障害者の雇用率が8.06%と、全国の大企業でトップクラスだそうです。「1店舗1名以上」を目標にやっているようなんですけど、そのきっかけになったのが大阪のある店舗での話。
その店舗で障害者を雇ったところ、店舗内部の従業員のコミュニケーションが非常にうまく回りだしたらしい。彼らが一生懸命に仕事をしている姿を見て、ほかの販売員がその人に協力しなければいけないとか、その人に対して気遣いをし始めた。その結果、そのテンポは他の店舗よりもむしろ人的効率がよくなった、と言います。
何が凄いって、柳井さん自身がそういう各店舗の動向を把握して、しかも良いと思ったらすぐに全体で取り組むところだと思います。

最近ヤフーのニュースで、日本マクドナルド社は基本的に残業禁止だというような記事を読んだんですけど、ユニクロも火曜から金曜までは残業禁止らしいです。人間仕事の効率をよくすれば残業なんかしなくてもどうにでもなる、ということのようです。

まあという感じでちょくちょく抜き出しては見ましたが、全体的に興味深い話、良い話がたくさん載っている作品だと思います。ビジネスマンとか経営者なんかには結構ためになる作品なんではないかなと思います。僕はビジネスマンでも経営者でもないけどこういう企業の話を読むのが結構好きだったりしますが、本書はページ数もそんなに多くないし、そこまで難しいことが書かれているわけでもないんで(僕は経済っぽい話は基本的にまったく無知ですけど、それでもほとんど普通に読めました)、ビジネスマンとか経営者じゃなくても十分楽しめるんじゃないかなと思います。就職活動中の学生なんか、読んだらユニクロに入りたくなるかもしれませんよ。ぜひ読んでみてください。

柳井正「成功は一日で捨て去れ」





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5位 笹本稜平「遺産
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
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コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
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16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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